異世界リベンジャー

チョーカー

つまらなく、なくはなくなってきたぜ

 暗闇に紛れて、ナニカが潜んでいる。
 それは、よくない者だ。少なくとも、俺にとって不運を運んでくる存在でしかない。
 しかし、俺は、ソイツに恐怖を感じない。
 なぜなら、これは夢だからだ。

 そう……
 夢だ。
 そう認識しても、夢の中では自由が許されない。
 俺は、ソイツに怯えている演技を強要される。
 ソイツが近づいてくる。
 俺は、腰を抜かして、立てなくなり、泣け叫び、命乞いを行っている。
 その一方、これを夢だと把握している俺も存在している。
 その俺は、冷静にソイツの正体を分析している。
 やがて、ソイツの正体にたどり着く。

 ソイツは俺だ。俺自身だ。

 答えにたどり着くと同時に暗闇が掃われる。

 『……まるで道化だな。馬鹿馬鹿しい』

 もう一人の俺は吐き捨てるように言った。

 「何の事だ?」
 俺には、その理由が思い当たらない。

 『いや、気がついているはずだ。お前は何のために人間の味方をしている?』
 「そりゃ……」

 脳裏に浮かんだのは、少女の姿。
 彼女に哀願され、俺は―――

 『つまりは同情心。この世界の住民が恨まれる事を仕出かした。それなのに、なぜだ?どうして、お前は人間の味方をする?』
 「いや、それは……お、俺も人間だからだ」

 もう1人の俺は鼻で笑う。

 『人間?お前が?お前は魔人ではないか?』
 「魔人と言われているだけだ。じゃ、俺は人間ではないと言うのか?」

 俺は質問を質問で返す。しかし―――

 『お前は人間ではない。
 この世界の住民にとって、お前は人間とは違う者としか扱わない。
 そして――― いつか、それはお前を殺す事になるぞ』

 「―――それでも俺は――― 守りたい人が―――」

 その言葉は最後まで言い切る事が出来なかった。
 夢が覚めていく。意識が覚醒していく。
 俺は―――何かに逃げるように―――ベットから跳ね起きた。
 全身から汗が流れ落ちる。呼吸は荒く、酷く乱れている。
 疲労感。ひどい倦怠感が体を覆っている。
 (……なんて夢だ)
 俺は、逃げているのか? 
 あの夢は、暗示か? 俺は、目を背けている?
 「……いや」と俺は頭を振るって、考えを振り払う。
 俺は戦う。
 元の世界に帰るまで半年。
 それまで、何か結果と言うものを残して満足して帰るんだ。

 
 ――昼――

 用意された食事を取る。
 毒入りの食事を食べさせられていたのは過去の事だ。
 まるで、満漢全席。豪華な食事が机狭しと並んでいる。
 この世界に来て以来、俺の食欲は底なしになっている。
 大量の食事を摂取し、消化し、エネルギーへ昇華させる。
 そんな、至福の時間……
 唐突に邪魔された。

 ノックもなしに、「ドン」と荒々しく扉が開かれる。
 乱入するように入ってきた人物は―――

 クルスだった。

 「食べてる場合じゃないぞ!ユズル!早く準備をしろ!」
 「……え?」

 クルスは俺の腰に手を伸ばし……瞬時に思い浮かぶのは、あの恐怖。 
 俺は、それを拒否するように、椅子に座ったままジャンプして逃れる。

 「―――ッッッ!? ゆ、ユズル?」 

 なぜ、困惑した顔を見せる?当然じゃないから。小脇に挟んで人間を運ぶのは当然じゃないから!

 「わかった。わかったから、急いで向かえばいいのだろ?」
 「そ、そうだ。遊んでいる場合じゃないだぞ!」

 理不尽に怒られた気もするが、考えてもしかたない。
 「ついてこい」と先行して走り出すクルス。
 俺も、その後ろ姿に追いかけて走り出す。
 決して広いとはいい難い地下路を走る。
 途中にすれ違う人を正確に回避を繰り返し、地下路を抜ける。
 今度は平坦で広い通路。しかし、そこは通らない。
 開いた窓に向かって体を飛翔させて―――
 「おい!おい!」と俺の叫びをクルスは無視していく。
 むしろ、こちらを振り返り「何をしている?早くついてこい」と言わんばかりの表情を俺に向けてくる。
 「わかったよ。ちくしょう」
 俺もクルスに続いて窓を出る。上を見上げるとクルスは垂直の壁を走りながら駆け上がっていく。
 「アイツの方が人間離れしてるよな?……どう考えても」
 しかし―――
 「アイツ、何をそんなに急いでいるんだ?」

 急に不安が増してきた。
 俺は、風魔法を発動させ飛び上がる。そして、既に姿が見えなくなったクルスを追いかける。
 最上階の空中庭園に到着する。しかし、クルスの姿はない。

 「どこに行った?クルスも、いやモナルの気配もないが……」

 いや、気配の察知。その範囲を広げる。
 (何人か、いる)
 気配を感知する。そして、その場所は―――
 例の広場だ。 『魔王』の立体映像をみた場所。
 そこに行くという事は……
 「嫌な予感がする。けど―――

 つまらなく、なくはなくなってきたぜ」 



 

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