異世界リベンジャー

チョーカー

俺に向けられる疑惑

 あの直後、『魔王』は消えた。
 まるで霧のように、まるで白昼夢のように、まるで最初から存在していなかったように、文字通り消えたのだ。
 いかなる方法が使われたのか?
 大魔導士 ダージュが中心に魔法の専門家が調べているが、その手段は現状では不明。
 『魔王』が城内に侵入したという事件。
 その場にいた人間には、他言無用と緘口令が出されている。
 もしも、敵が自由に王女の元に現れれる事が明らかになったら……混乱は避けられないだろう。
 今、当人のモナルの周囲には、クルスが代表となる親衛隊を編成。常時、護衛がつく事になった。

 しかし、それよりも―――

 「しかし、それよりも、大変な事になりましたね」

 いつの間にか、俺の部屋にはアセシが入り込んでいた。

 「いやぁ、何時かはこうなるとは予想はしていましたが、『魔王』軍と全面戦争が決定しましたね」
 「・・・・・・」

 『魔王』軍との全面戦争。
 それは、ナシオン王室として即座に発表された。
 俺が腰かけているベットには、号外として出された新聞が広がっている。
 どうやら、この世界の活版技術は優れているようで、元の世界の新聞と比べて遜色がない。

 「まぁ、そんな事よりも王室に『魔王』が乱入したそうですね?」
 「――――――ッッッ!?」

 緘口令とはなんだったのか?
 俺は驚きを隠せなかった。おそらく、アセシには、俺の表情が「事実」だと如実に語って見えるだろう。

 「いやいや、そんなに驚かないでくださいよ。僕だって国の中核にいる側の人間ですよ」

 確かに……アセシの父親は、騎士団長オルドであり、姉はクルスだ。
 緘口令が出されても、この2人が家族に話う可能性は高い。
 「さて……」とアセシは話を続ける。

 「どうやって『魔王』が城内に侵入したか?その方法ですが……」
 「わかったのか!?」

 俺はアセシの話に飛びついた。
 しかし、アセシは首を横に振り「いいえ、わかりません」と告げる。
 それを聞いて、俺は無意識にため息をついた。

 魔法を使えば「転送」や「テレポーテーション」といった方法は簡単に使えると思うかもしれない。
 しかし、考える事は、世界は違えど皆一緒。
 国の中心たる王族が住む城内―――それも王室には、それらの魔法に対する防御、プロテクトが何重にも仕込まれている。
 当たり前の事を当たり前に……だ。
 王族に対する暗殺防止は、国防と同じレベルで行われる。
 それでも奴は、『魔王』は、侵入してきたのだ。

 「どうやって、侵入したかはわかりませんが……」
 「?」
 「どうやら、調査にあたっている上層部連中は、手引きした者がいるのではないか?そう疑っているみたいですよ」
 「―――つまり、裏切り者というわけか」
 「そうですね。でも、禅さんも他人事ではないですよ?」
 「俺が?他人事ではない?……それって?」
 「ええ、貴方も容疑者の1人ですね」

 そう言われも、俺は驚かなかった。
 あの時、『魔王』は俺を勧誘した。さらには―――

 『君って元の世界に自由に行ったり帰ったりできるって事だよね?なんで帰らないの?』

 俺がナシオンの味方をする義理はない。いや、無くなったと言ってもいい。
 実際に俺がどう思っているかの話ではなく、少なくとも『魔王』の言葉を聞いた人間は、そう思うだろう。
 あの言葉は―――
 あのパフォーマンスは、周囲の人間に、俺を疑わすためのものだったのではないか?
 しかし、こうなっては都合が悪い。
 俺と『魔王』が接触した可能性。それを客観的に考える。
 俺はモナルによって召喚された魔人だ。 その直後、城内に閉じ込められていた。
 徐々に俺に対する制約は少なくなっていったが、監視の目は消えていない。
 ならば、いつ?どこで俺と『魔王』が接触するチャンスが―――

 あった。

 「禅さんも気がつきましたか?」とアセシ。
 「あぁ」と俺は頷く。

 「火野烈弥戦。あの戦いの最中は―――」
 「えぇ、監視の目は消え去る。その時に禅さんが『魔王』に接触したのではないか?そういう話になってます」
 「なんて馬鹿馬鹿しい」

 俺は吐き捨てるように言う。
 その根拠は敵の大将が言った言葉だ。疑心暗鬼を起こすという目的なのは、簡単に看破できているはず。
 それでも、そういう疑いが生まれている。それは―――

「えぇ、結局、他人を人身御供にして、自分は疑いの目から逃れる。この世界の、モンドの人間的な思考です」 

 俺は、何度目かのため息をついた。

 

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