異世界リベンジャー

チョーカー

アセシの戦争予想

 「それで、お前の予想はどうだ?」

 俺はベットの上に広げていた号外の新聞を畳み直して、アセシに渡した。
 アセシは新聞に目を通し「う~む」と唸る。

 「そうですね。『魔王』軍は奪われた領土『コワン』を奪い返すために進軍してくる可能性を考えると……
 ナシオン軍は『コワン』に防衛線を張ると同時に、他の進軍ルートを潰して……
 いや、結局、後手に回るしかないなら、『コワン』を拠点に……

 ……わかりませんね」

 「あぁ、取りあえずは、戦況の予想が複雑なのはわかったよ」

 俺は、アセシに渡した新聞を返してもらう。
 新聞に書かれた地図。
 それを見ながら、アセシと「あーでもないー」「こーでもないー」と話を続ける。

 「ところで……」と俺は気になっていた事をアセシに聞いた。

 「もしも、戦争が始まったらお前はどうなる?」
 「どう……と聞かれても、僕の立場者じゃ将にはなりませんね。精々、親父か姉貴の副官として使われればいい方で、最悪は1兵卒の雑兵扱いで槍を片手に走らされてもおかしくありませんよ。
 ……いや、最悪なのは、予備兵扱いとして城に留まされる事ですかね」

 俺は「なるほど」と応じる。
 しかし、内心では、アセシが戦場で功を立てるのを最優先してる事に僅かながらにも驚いていた。
 やはり、価値観の違いなのだろう。
 俺は戦争が怖い。できれば戦いたくない。
 その不安から出た言葉が「もしも、戦争が始まったらお前はどうなる?」というものだった。
 その言葉の本心は―――アセシがどうなるか?ではない。
 ―――俺がどうなるのか?
 本当は、そう聞きたかった。

 気がつくとアセシが、俺の顔を見ている。その表情は疑問符が浮かんで見れる。
 俺は「良し」と1テンポの間合いを入れ、本題に入った。

 「もしも『魔王』軍とナシオンとの戦争が始まったら、俺はどうなるんだ?」

 その質問を投げかけると、アセシは表情を崩し考え込む。
 暫く考えると―――

 「えっと、あくまでこれは、僕の予想の範囲ですが……」
 「あぁ、それでも構わないよ」
 「たぶん、禅さんは戦場に立つ事は許されないと思いますよ」

 「え?」

 それは予想外の言葉だった。
 「禅さんは、用兵術を学んだ経験は皆無なので将は無理でしょう。それも兵卒に組み込むには、強すぎます」
 「強すぎる?えっと、兵隊が強いとダメなのか?」

 俺の疑問にアセシは当然の事のように肯定する。
 「そりゃダメですよ。突出した兵は、将にしてみたら邪魔でしかないのですよ」
 「じゃ、邪魔?」
 「えぇ、将に取って、理想の兵は統率が取れた均等の兵力。それによって、戦術が組みやすく、用兵術が生きるのですから……」
 「……」

 確かに俺は戦場に立つのが怖かった。
 逃げれるものなら逃げだしたいくらいだ。
 しかし、こうも―――まるで役立たずのように言われると―――複雑だ。

 「あーでも……」とアセシは話を続ける。
 「上層部の連中は、戦争に何らかの形で禅さんを利用しようとは考えるんじゃないですかね?」
 「利用……か。何と言うか、嫌な予感がするな」


 そうして、アセシの会話から2、3時間後。
 俺は王室に呼ばれる事になった。ゆっくりと階段を上って最上階を目指す。
 王室に行くのは、数度目だが、自分1人だけで、自分の足のみで向かうのは初めて……
 意外と斬新で奇妙な感覚だった。
 途中で人の気配を感じる。やがて、力のない足音が聞こえてくる。
 そして階段から降りてくる人物が見えてきた。
 その人物は―――

 クルスだった。

 

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