異世界リベンジャー
運命に招かれ―――承諾する
「随分と遅かったな。待たされたぞ」
オルドはそう言った。
まさか「貴方の娘さんをベットにエスコートしていました」と言えるはずもなく、
俺は適当に「……少し、ちょっとした野暮用ができてしまったので」と答えた。
「うむ」とオルドは興味をなくしたような様子。
口ひげを弄りながら、独り言を呟き始めた。
「―――なんじゃい、なんじゃい。―――人の娘を―――野暮用扱い……」
俺は、オルドの呟きを意識的に脳外へ排除する。
何か、こう……うまく言えないけれども……
聞いてしまうと、決定的で、致命的な呟きだと、俺の本能が囁く。
「それにしても……」
ここは王室。オルドの他にもう1人。
室内の奥にある王座にはモナルが座っている。
表情に影がさして、憂いを秘めている。
原因は腹心であるクルスの体調不良か……それとも、『魔王』軍との開戦が原因か?
「……いや、オルドとモナル以外にもいるのか」
俺が呟くと、隣でぼやいていたオルドが反応する。
「ほう、分かるのか?」
「えぇ、魔法を使用した気配遮断ではなく、技術レベルで気配を消している。
……全員が全員、凄腕なのでしょ?」
俺が賛辞を送った相手は、モナルの奥に潜んでいる数人に向けてだ。
あれがクルスが編成した親衛隊か。
「元々はワシの弟子たちだったからな。才能は折り紙付き。育てられなかったのが、心底嘆くほどよ」
「ん? 弟子なんですよね?」
「あぁ、元々はな。ところが、うちに来た初日にクルスが片っ端から打ちのめしていくからな。結局、全員がクルスに師事を求めるようになってしまうのだ」
「なるほど。光景が目に浮かびますね」
雑談も一息つき、本題へ入る。
「戦場はナシオン側の領地で、『魔王』軍を向かい撃つ。そういう作戦に決まった」
オルドは用意された巨大なテーブルに地図を広げる。
もう決定事項なのだろう。モナルは何も質問せず、オルドに話を促させる。
「ただ、取戻した領土の『コワン』も無視できない。そこで少数精鋭で『コワン』に防衛線をはると同時に遊撃隊として、『魔王』領に侵入。我らナシオン軍と『魔王』軍のぶつかり合いが始まったタイミングで、『魔王』軍本体の補給線の分断や予備部隊を叩いてほしい」
「―――それを俺にやってほしい……と?」
「ユズル……いえ、ユズルさま。これは王女モナルとしての命ではなく、私個人のお願いです。
私は、この世界の歪んだ魔人の使い方を正そうとしているユズルさまに共感しているのです。いや、ユズルさまだけではなく、敵である『魔王』にも……しかし、でも、理想を叶えるために、私は貴方を死地へ……」
「……」
俺は即答できなかった。
戦地。戦争。俺が自らの手を持って人の生命を奪う。
それが想像できない。
やるのか?やらないのか?
しかし、もう―――選択肢はない。
俺は関わり過ぎた。この世界の理を無視できないほどに―――
もはや俺にできる事は、自分の意志によるものではなく、巨大なうねりのような物に身を委ねる事であり、
それをはひょっとしたら―――
運命という物の力なのかもしれない。
ならば――― だから―――
俺は承諾する。
オルドはそう言った。
まさか「貴方の娘さんをベットにエスコートしていました」と言えるはずもなく、
俺は適当に「……少し、ちょっとした野暮用ができてしまったので」と答えた。
「うむ」とオルドは興味をなくしたような様子。
口ひげを弄りながら、独り言を呟き始めた。
「―――なんじゃい、なんじゃい。―――人の娘を―――野暮用扱い……」
俺は、オルドの呟きを意識的に脳外へ排除する。
何か、こう……うまく言えないけれども……
聞いてしまうと、決定的で、致命的な呟きだと、俺の本能が囁く。
「それにしても……」
ここは王室。オルドの他にもう1人。
室内の奥にある王座にはモナルが座っている。
表情に影がさして、憂いを秘めている。
原因は腹心であるクルスの体調不良か……それとも、『魔王』軍との開戦が原因か?
「……いや、オルドとモナル以外にもいるのか」
俺が呟くと、隣でぼやいていたオルドが反応する。
「ほう、分かるのか?」
「えぇ、魔法を使用した気配遮断ではなく、技術レベルで気配を消している。
……全員が全員、凄腕なのでしょ?」
俺が賛辞を送った相手は、モナルの奥に潜んでいる数人に向けてだ。
あれがクルスが編成した親衛隊か。
「元々はワシの弟子たちだったからな。才能は折り紙付き。育てられなかったのが、心底嘆くほどよ」
「ん? 弟子なんですよね?」
「あぁ、元々はな。ところが、うちに来た初日にクルスが片っ端から打ちのめしていくからな。結局、全員がクルスに師事を求めるようになってしまうのだ」
「なるほど。光景が目に浮かびますね」
雑談も一息つき、本題へ入る。
「戦場はナシオン側の領地で、『魔王』軍を向かい撃つ。そういう作戦に決まった」
オルドは用意された巨大なテーブルに地図を広げる。
もう決定事項なのだろう。モナルは何も質問せず、オルドに話を促させる。
「ただ、取戻した領土の『コワン』も無視できない。そこで少数精鋭で『コワン』に防衛線をはると同時に遊撃隊として、『魔王』領に侵入。我らナシオン軍と『魔王』軍のぶつかり合いが始まったタイミングで、『魔王』軍本体の補給線の分断や予備部隊を叩いてほしい」
「―――それを俺にやってほしい……と?」
「ユズル……いえ、ユズルさま。これは王女モナルとしての命ではなく、私個人のお願いです。
私は、この世界の歪んだ魔人の使い方を正そうとしているユズルさまに共感しているのです。いや、ユズルさまだけではなく、敵である『魔王』にも……しかし、でも、理想を叶えるために、私は貴方を死地へ……」
「……」
俺は即答できなかった。
戦地。戦争。俺が自らの手を持って人の生命を奪う。
それが想像できない。
やるのか?やらないのか?
しかし、もう―――選択肢はない。
俺は関わり過ぎた。この世界の理を無視できないほどに―――
もはや俺にできる事は、自分の意志によるものではなく、巨大なうねりのような物に身を委ねる事であり、
それをはひょっとしたら―――
運命という物の力なのかもしれない。
ならば――― だから―――
俺は承諾する。
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