どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

85

「ふぅぅ……疲れた」
「ん、何か大変な事があったのかえ?」

ようやくロアの洗浄から解放された俺は立派で豪華な風呂に浸かる、全身をぐぐーっと伸ばしながら肩まで浸かる、すると湯船がゆらゆらと揺れた。

「ん、何に疲れたのじゃ?」

こいつさっきの事を忘れたのか?本気で張り飛ばしたくなってしまった。

「そうだな……簡単に言えばお前等との生活に疲れた」
「んなっ失礼な奴じゃなシルクは!」

ほざきやがれ迷惑魔王が!身体現れてる間、物凄くどきどきして疲れたんだからなっ分かってんのか?

「あとさっきの事にも疲れた」
「むぅ、不満ばかり口にだしおってぇ……さっき満更でも無い顔をしておった癖に!」
「っ!」

断じてそんな顔はしていない、していない……筈だ! 身体洗われてる時は身体がむずむずしたがあれは恥ずかしかったからだ!

「シルクはむっつりじゃのぅ」
「誰がむっつりだ!」

ばしゃっ……お湯をロアに掛けながら言ってやる俺、ってこれ完全に照れ隠しみたいじゃないか? そんな俺の様子を見ながらニヤニヤ笑う……完全に思われてるじゃないかこの野郎ぅ。

「さて、からかうのはこれぐらいにするかの」
「あぁ……それは良かった」

ゆっくりと肩まで浸かっていくロア、ちゃぷって音を立てて湯が揺れる、なんか今のロアと並んで風呂に入ってたらまるで親子見たいで変な気分がするな。

「今のわらわとシルクは親子みたいじゃな」

どうやらそう思っていたのはロアも同じみたいだ、俺は軽く微笑みながら「そうだな」とだけ答える、すると、ふとした事に俺の親の事を考えてしまう。

「母さんは元気かな?」

そんな事を口ずさむとロアは首を傾げる。


「ホームシックかえ?」

それはどうだろうな……1人暮らししていたからホームシックとは違うと思う、母さんはのほほーんとした性格だけどしっかり者……それでも心配な物は心配だ、父さんは……勢いで旅に出た人だ、何とかやっているだろう……今何処で何をしているのか気になるなぁ……って、おいおい、俺を誘拐したお前がそれを聞くのかよ。

「いや、心配になっただけだ」
「そうか」

ロアはちゃぷちゃぷと手で湯舟を揺らす……ん? そう言えばロアの親とは会ってないな……よし、気になってしまったので聞いてみようか。

「なぁ、ロアの親の事を聞いても良いか?」
「わらわの親?……ほほぉ、もしや結婚する前に親に挨拶するつもりじゃな?」
「誰が誰と結婚するって?」

何でそうなるんだよ……純粋に今何処にいるのかって聞きたいだけだ、此処に来てから会ってないしそれらしい人も見当たらないからな……。

「むぅ……少しボケただけじゃのに」
「今のボケだったのか?」

悪いが本気で言ってるのかと思ったぞ?普段が普段だからな。

「で、親は何処にいるんだ?いたら文句を言ってやりたいんだが……」
「もっ文句じゃと!?
なっ何か至らぬ所があったのかえ?」

何、驚愕の表情してるんだよ……普段俺にやって来たハードなスキンシップの事を思い出してみろ! 考えても「それの何処に不満があるのじゃ?」と考え付くだろうが……よーく考えろ!

「まぁそれは良いよ……で?本当に何処にいるんだよ、何で姿を見せないんだ?」

深いため息をつきロアに話してみると、ロアの表情が曇った……その瞬間俺の脳裏に「やってしまった」と言う思いが過った、もしやロアの親はもうこの世にはいないんじゃないか? あの悲しげな曇った表情を見れば分かってしまう……いけない事を聞いてしまった、直ぐに謝ろう……そう思って口を開いた時だ、それよりも早くロアが話し出した。

「わらわの親は……」

言い掛けた言葉を飲み込んでしまう……ロアは言葉を詰まらせたが直ぐに口を開いて続きを話す、無理に話さなくてもいいんだぞ?

「親はわらわを残して……」

すぅっーーと大きく息を吸い込み天井を見る、そしてカッ! と目を見開いて叫んだ!

「人間界に遊びに行きおったのじゃぁぁ! あんの駄目親がぁぁっ! 何が珍しい物を沢山見たり食べてきますねっ! じゃっ、城の公務を放り出してわらわに代わりの魔王を任せ親が遊びに行くじゃと?
 ふざけんななのじゃぁぁぁぁ!! しかしもこれは1度目ではないっ過去にも同じ様な事を繰返し行ってきおった……親同士でイチャイチャしたいので遊んで来ますって言いおったり……少し疲れたので遊んで来ますって言ったり……魔王があんなんで良いのかぁぁっ否っ断じて良くない! うがぁぁぁぁっ!思い出したら腸が煮え繰り返って来そうじゃぁぁ! 何食わぬ顔で帰って来たその日には、わらわの大魔法で糞父上、糞母上もろともぶち飛ばしてやるのじゃぁぁぁ!!」

なっ何か延々と早口で親の悪口を叫んでいるんだが……俺は唖然としてそれを聞き続ける、こうしてる間にもロアの親の悪口は止まらない、余程うっぷんがたまっていたらしい……そして5分後、やっと親への悪口が治まった。

「でぃ……でぃ……でぃ……」

叫び疲れたのか湯船に目線を向け息を切らしている、俺はぽんっとロアの肩に手を乗せ「落ち着いたか?」と言ってやった、親の事で苦労しているのは俺だけじゃない……ロアも同じだったんだ。

「だっ大丈夫じゃ……問題ない……えと、要約するとわらわの親は今は魔王城にはいない」

良く分かったよ、そしてさらっと衝撃の真実を言ってたな、ロアが仮の魔王だって事を……そうか仮だったのか、仮がついても魔王は魔王だよな?

「すまぬ、かなり取り乱してしまったのじゃ」
「いや、気にするな……」

ロアに同情するよ……駄目な親を持つと苦労するよな?

「俺の親も似たような感じだ」

俺はロアの頭をぽんぽんしながら微笑んだ……あっ、少し馴れ馴れしかったな、そう思い直ぐに手を退ける……ん、ロア何か顔が赤くないか?

「……のじゃ」
「何か言ったか?」

ボソボソと俯いて何かを喋ったな……何て言ったんだ?

「やはりシルクは男の方が良いのじゃ……そう言った」
「……何だそれ」

お前に言われなくても俺は元々男だ……速いところこの身体からはおさらばしたい。

「もう少し……」
「ん?……わっ!」

ロアは俺の肩に手を乗せ自分の方へ引き寄せる……うっ、胸が近い!

「もう少しだけ温まって良いかの?」
「それ、俺も付き合わないと駄目か?そろそろ逆上せそうなんだが……出て良いか?」

正直に言えばロアの胸が近くにあるから離れたいだけ……普通に断っても「駄目なのじゃ」と言われるからそう言ったんだが……俺の予想通りロアが言った言葉は……。

「駄目なのじゃ」

だった……こうなると絶対に離してくれない、嫌でも付き合うしかなくなった。

「仕方無いな……もう少しだけ付き合うよ、だからこの手を離して」
「いっやなのじゃぁ」

俺の言葉を遮ってロアは俺を抱っこしてくる、ちょっ! 何やってんだ! 風呂の中でもそんな事するのかよ……まぁ予想はしていたがな!

「くふふ……シルク好きじゃぞ」

俺を抱き寄せたまま告白してくる……これ何度目だよ。

「……何度も聞いたよ」
「シルクがYesと答えるまでわらわは言い続けるのじゃ」

胸がずきっーーと痛む、告白されても俺の答えはNO、俺には好きな人がいる、それを言った筈なのにロアは諦めない……俺も俺でロアがこんな事を仕掛けて来る度に少し……ほんの少しだけだがロアに引かれつつある、これではナハトに悪い……思っちゃいけない感情を抱いてしまう、絶ちきろうとしても無理だ、確実に思ってしまっている……ロアとの日常は楽しいと、こんなの好きになってしまうのは時間の問題じゃないか? 俺にはナハトがいる……好きになってはいけない、いけないんだ。

「そっそうか……」

yesともNOとも言えない曖昧な返事をしてしまい、また俺の心が傷んだ、ロアに悪い事をしてしまう……だがロアは気にも止めずただ満面の笑みで笑っていた。

「……そろそろ逆上せてしまいそうじゃな、さっもう出るのじゃ」

そう言って俺を抱き抱えたまま風呂から出てしまう、ゆっくりと床に下ろした後俺の手を掴み出口へと歩いていく。

「パジャマに着替えた後は一緒に寝るのじゃ」

またそんな事を言って来た……そうだ、俺は何を迷っている、決めたじゃないか、ロアにはナハトと重なる部分がある……ロアのスキンシップを少しだが受け入れる、そう決めた筈だ、ならばやる事は1つしかないだろう。

「……わっ分かってるよ、断ってもするんだろ?
あんまり変な事するなよ?」
「……ふぇあ!?
しっシルクが素直になっあのじゃ……まっまぁ良いじゃろう、そうと決まれば服を着るのじゃ……ヴァームっパジャマの用意は出来ておるかぁ?」

俺が素直にこんな事を受け入れるなんて思って無かったんだろう、驚きの反応するロア、こうやって一緒に過ごせば分かる筈だよな……ロアがナハトと重なってしまう訳を。

「はいっ、既に準備は出来ています」

何処からともかく脱衣場に現れるヴァーム、その手には小悪魔を思わせるパジャマが掴まれていた。

「おぉっ今日も素晴らしい出来じゃな!」
「褒めて頂きありがとうございます」

パジャマだと言うのに布の面積が少ない……くっ、我慢しろ俺! 答えを出す為だ……耐えるんだ、これは答えを出す為にやらなきゃいけない事なんだ! そう決心し俺は身体を拭かれた後、パジャマに着替えた……その際素直に着替えさせられた俺を見て驚く2人だったが……俺は気にしない事にした、前みたいに逃げたりしない! 今度こそ、今度こそロアを見て答えを出すんだ!
少しずつで良い、皆が言っている様にロアをもっと良く見てやろう、そう思いつつ俺は固く拳を握った。

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