79

「やはり卵焼きには唐辛子に限りますね」
「何を言ってますの？マヨネーズですわ！」

ふざけないで欲しい……卵焼きにはケチャップ1択しかないでしょ？ なんて事を思いながらケチャップを卵焼きに掛け食べる、姉上の作った少ししょっぱい卵焼きとトマトケチャップの酸味が上手く合わさって美味しい……でも姉上、卵の殻が入っているのはいただけないなぁ。

「まぁ、それは良いとして……まだ減らないんだね」

山盛りに盛られた卵焼きも減りつつあるけど、シルク君の所に行ったらまだあるらしい、どんだけ作ったんだよ……。

「うふふ……そうですよ」

いやいやそうですよじゃ無いでしょ……僕これ以上卵焼きは食べたくないからね？

「あぁ、ロア様が作った卵焼き……あたしは幾らでも入りますわぁ」
「だったら全部食べてくれない？ これ以上食べたら胃がもたれるよ……」

ばくばく卵焼きを口に入れるラム、本当に良く入るお腹だ、ラムのお腹を横目にトマトジュースをグラスで飲む……うん、今日のトマトも最高の出来だ。

「はい、追加の卵焼きです、どんどん食べてくださいね？」
「お皿によそってくれた所悪いけど……要らない」

これ以上食べたら吐く……あっ、トマトジュースは別だよ。

「ですが食べてしまわないと……腐ってしまいます」
「いや、そんな悲しい顔されても……もう食べられないんだって」

折角姉上が作ってくれた卵焼き……腐らせるのは勿体無い、と言うかこの卵焼き……シルク君の為に作ったんだよね？ だったら彼が全部食べれば……なんて考えはよそう、きっと向こうも食べきれずに苦しんでるだろうから……今頃姉上に無理矢理食べさせられてるんだろうなぁ…頑張れシルク君っと呑気に思ってる場合じゃない、早急に何とかしないと駄目だ。

「もう皆にあげたらどうかな？」

と言ってももう答えは出てる、僕達が食べられなければ皆に食べて貰えば良いじゃないか、言わばお裾分け作戦って言う奴だね。

「うふふ、つまりラキュ様は住民達に卵焼きをあげれば良いと仰っているのですね？」

改めて言うまでもないだろうにヴァームは説明してくれる。

「ロア様には申し訳ありませんが、あたしももう入りませんの……」
「さっき幾らでも入るって……なにその身体」

え、グロい事になってるんだけど……ラムは食べ物を食べるとそれが透けて見える身体になってる、それが今は……。

「あらあら……全身卵焼きでぎゅうぎゅう詰めですね」
「いや、軽く微笑んで言う事じゃないと思うよ」

もう全身まっ黄色だ……ラムは苦しそうに口を押さえて心なしか顔が真っ青になっている、おいおい……僕の部屋で吐かないでよ？

「ふふっ……ではラキュ様の言う通りにしましょうか
私ももう入りませんしね」

ヴァームは立ち上がり胸から何かを取り出した。

「では早速準備しましょう」
「準備って何の……」

いっ嫌な予感がする……内心では分かってる筈なのに聞いてしまう、ヴァームは妖しく笑ってこう言った。

「街に出て配りましょう……その際にそれなりの服装がいりますよね？ シルクさんにも手伝って貰って皆様にサービス致すのです」

ははっやっぱりそれ関連ですよね……分かっていたよ。

「因みに拒否権は？」
「ありません」

ですよね……うん、分かっていたよ、分かっていたけど……あんまりじゃないか！ もう泣いて良いよね？

「今回はシルクさんが女体化したと言う事で……姫コスでいきましょう！ ではラキュ様……白とピンクどちらが良いですか？」

そう言って胸から取り出したのは白とピンクの可愛いドレス……うわぁ、死んでも着たくない。

「たまには自分で着たらどう？」
「何を言うのですっ、私はメイドです！ よってメイド服しか着られないんです！」

そんな事ないと思うけどなぁ……。

「あっあたし的に……ラキュ様には白のドレスを……着て貰いたい……ですわ……うぷっ」
「少し黙ろうか……」

吐きそうになりながら何を言い出すんだこのドMスライムは。

「さぁ……どちらになさいます？ 因みにティアラもちゃんと用意していますのでご心配なく」

いや心配はしていないからね？ ……はぁ、これ選ばないとまた『鬼ごっこ』の再来だよね？ あんな事は２度とごめんだ、物凄く逃げたいけど選ぶしかないよね。

「じゃっじゃぁ……白で」
「ふふふ……ではどうぞ」

そう言われて白のドレスを渡される、はぁ……女性が着るべき可愛いドレスを何で僕が着ないといけないのか、理解に苦しむよ。

「ではラム、貴女もラキュ様とシルクさんのお手伝いをしなさい」
「わっわかり……まし……たわ」

もう限界寸前のラム、早急に何とかしないといけない問題が此処にもあった。

「ラム……トイレなら向こうだから楽になって来なよ」
「あっあり……がとう…ござい……ますわ……おえっぷ」

指を指してトイレの場所を教えると、ラムはよたよたとよろめきながらそこに移動する。

「では、私はシルクさんの所へ行きます……がその前にドレス着せてあげますね？」

結構だよ……と言おうとしたら脱がされてドレスを着せられた……朝からとんだ災難だ、本当に泣きそうになるよ。


「で、こうなって事か……」
「僕があんな事を言った性だよ……ほんっとごめん」

城下町の中で一際魔物達の行き来が多い中央街に僕とシルク君……いやこの場合はちゃんかな？ いや、何時も通り君で行こう……じゃないとシルク君の心が折れそうだ。
今のシルク君は幼児化されていて当然何時もより背が低い、１つ括りの髪型も縮んでいて可愛らしいと思ってしまう。

「なぁラキュ……」
「なんだい？」

ピンク色のドレスを着るシルク君は物凄く似合っていた、本人曰く、いきなりヴァームが現れて有無を言わさずに服を脱がされて訳も分からず此処に来たとの事……こんな事になって理由は先程話したけど納得していない、そんなシルク君が僕を睨みながら話し掛けて来た、何だろう？

「何で俺の方を見ないんだ？」
「……ごめん」

幼児化ならまだ直視は出来たよ……でも女体化は予想外だった、あの時見捨てておいて何だけど……可愛そうな事になってしまった。
シルク君は女体化していて無い筈の胸が有り、有る筈のあれが無い……もう完全なる女の子で僕にはシルク君が悲惨過ぎて目も当てられない。

「視線を反らすなよ、俺を気づかうなら俺を見てくれ」
「うっうん」

肩を強く持たれてそんな言葉を掛けられる、声音も幼女ボイスになってる……これずっと聞いていたら沸いちゃいけない愛情が生まれそうだよ。

「ちょっと2人共っ喋ってないでお客様の対応をなさい！」

と、そんな事をしていたらラムに怒られてしまった……良くもまぁこんなに集まった物だねぇ。

「ラキュ、俺物凄く逃げたい……」
「無理だよ、きっと直ぐ捕まる」

だから諦めて対応するしかないんだ、同じタイミングでため息を吐き目の前に広がっている光景を改めて見てみる。
僕とシルク君の前には大きなテーブルがあり、そこに皿に大量に盛られた卵焼きがあった、これ……もはや山だよね？ しかも驚くのはそれだけではない。

「ふぉぉぉっ！シルクたんが女体化してるぜぇぇ！」
「しっしかもロリ化だと！？」

最高潮にたぎっている住民達ばかどもが騒ぐ、良く見れば城下町地下の住民もいるね、殆どゾンビが来ている、あの種族は太陽の光を浴びると溶けちゃうから黒いローブを着ている、まるでどこどに出て来る邪教徒だね。

「おっおうふ……ラキュ様が姫コスとか……マジパネェっす！」

興奮しているのは緑色の小さな小鬼……ゴブリンだ、よしっあの顔しっかり覚えたよ、ゴブリン君……夜道を歩く時には後ろに気を付けるんだね……。

「よぉしっテメェ等覚悟は良いな？ シルクたん＆ラキュ様のあーん会心してご奉仕されるぞぉぉぉっ！」
「「おぉぉぉぉっ！！」」

襲撃計画を立てていた時だ、住民達ばかどもを率いる狼の獣人がある場所に指差す、そこには大段幕があった……そこには大きくこう書かれていた。

"第5回 2人のお姫様が貴方達にご飯を食べさせてあげるんだからねっの会"

……ぐっ、古傷が疼くよ。

「ヴァームって本当に馬鹿げたのを開くよな？ ん？ 第５回って過去に４回開かれたのか？」
「シルク君……人にも魔物にも知られたく無い過去の１つや2つあるんだよ」

苦しみに震えながらそんな言葉を聞いたシルク君は「すまん……」と謝って来る。

「テメェ等ぁ！ 順番に並んだなぁ？」
「「おぉぉっすっ！！」」

あの狼人間の一声で騒いでいた魔物達は一直線に並ぶ、はぁ……辛い辛くて死にそうだ。

「シルク君……さっさと終わらせよう」
「あぁ、そうだな」

こうしてネーミングがダサい恥辱の時間が始まってしまった……終わったら事の発端を作った姉上に文句言ってやる！