どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

502

パチッパチパチ……バチっ……。

集めてきた枝が焼かれて音が鳴る、このパチパチッて音……なんか良いなぁ。
何でかは分からないが優しい感じがするんだよな、それだけじゃない。
すっごく暖かいんだよ、なんと言うか……優しい温もり? そんな感じがする。
焚き火って、こんなに暖かくて優しいものだったのか。
だがまぁ、火だから扱いに気を付けないといけないけどな。

「シルク、これ焼けた」
「お、ありがと。アヤネも良さそうなの取って食べろよ?」
「ん」

アヤネに指差された物を手に取り俺も火の通りが良さそうなのを指差して言う。

「あむ……んっ、んむっ……」

そして食べる。
昼間に焚き火、そして焼きキノコ、良いもんだな。
あぁ今思った事だが、小さい頃は焚き火とかに憧れたな。
んで、今やってみたいに焚き火を囲んでの食事、何度か夢見てた気がする、それが今叶ったわけだ。

「うん、味付けなんもしてないけど旨いな」
「そだね」

小さい頃に思った夢が叶った事を嬉しく思いながらキノコの食レポをする。
ほんと味付け無しでもイケるんだよ。
だがしかし、ここにバターがあったならそれを付けて食べるのもまた良いかも知れない。
 
「ははは……」

なんだろ、そう思ったら今まで色々考えてた事が軽くなってきた。
同時に自然と笑えてくる、可笑しいな……こんな状況なのに、俺、楽しんでるぞ。

「よかった」
「え?」

アヤネがふと呟いた。
なんか、安心した顔だ……なんか、そんな顔されると変な気分になる。

「シルク、最近元気なかった。でも今笑ってくれた、元気出たっぽくて良かった」
「あ。顔に出てたのか」
「ん。出てたよ」

そうか、出てるとは思って隠すようにはしてたが、隠せてなかったか。
なんか、心配させてたみたいだな。

「なにかあった?」
「……」

アヤネは心配そうに聞いてくる。
そりゃ聞くよな、誰だって気になる……だけど、言い辛い。

「もしかして……ロア絡みの事?」

うっ。
見抜かれた……ここで隠すわけにはいかないから、黙って頷いておく。

「そか。ロアの事なんだ」

そう言ったアヤネは一口キノコを食べる。
そして……。

「食べないの?」

と聞いてくる。

「あ、いや……食べるぞ」

だから慌てて食べた、その時だ。
ジュッーー

「あつっ!?」

思いっきり火傷した! そしたらアヤネが慌てて近寄ってくる。

「だいじょぶ?」
「あっあぁ……大丈夫だ」
「そ、良かった」

ふふっと笑うと、アヤネは俺の方に寄り添ってくる。

「あ、アヤネ?」
「好きな人と一緒にいるからこうするね。今思い付いたの」

うっ……今ここでそれを言うのか。

「あ、顔真っ赤……」
「うるさいな。そんなん言われたら顔くらい赤くなるだろう」

そう言った後、勢い良くキノコをかじる。
一種の照れ隠しだ、あぁくそっ、美味しい筈のキノコが変に緊張して味が分からなくなってる!

「ねぇ」
「ん?」
「なにがあったか聞いて良い? 気になるの」

真剣な表情をしたアヤネを見て俺は黙ってしまった、気になるか。
本心は言いたくないが、そんな顔をされたら言わないければいけない気がしてくる。

だから俺は重くなった口を開いて、俺が今感じてる事を話した。
勿論、つい最近の夜に聞いた事も全てだ、それを話したから同時に俺の過去の事を話す事になったが……アヤネはそんな俺の長話をしっかりと聞いてくれた。

そして、俺が話し終えたその時。

すっ……。
優しく抱き付いて来た。

「そか。そんな事があったんだ」
「あや……ね?」
「そう言う事聞いたらチャンスって思っちゃう」

当然、内心驚いたが……いつもの様に「離れろ」なんて言葉は出てこなかった。
ただ、されるがままにアヤネのハグを受け入れた。
その間で、優しく話してくる……。

「シルクは優しいね。そんな事思っちゃうんだ」
「……」

優しくなんて無いさ。
俺はずっとロアの抱えてる物に気付いてやれなかった。
俺が昔会った好きな人なのにだ……そんな奴が優しい人な訳がない。

「いま、辛い?」
「……正直言うと、辛い」
「そか」

自分自身が許せない。
何度そう思った事か、今もそれを強く思ってる。
俺がそう語ると、手を回し優しく俺の腕を掴んできた。

「だったら、出てかない? 私と……一緒に」
「え?」

出ていく? 詳しく意味を聞かなくてもわかる。
魔王城から出ていくって事だよな。
そっそれって本気で言ってるのか?

「ごめん、今の嘘。流石に卑怯だから止める」
「おっおぅ……そっそうか」

うっ嘘か。
なんだか良くわからないが茶化された気分だ。

「その代わり……これでもかって位シルクとイチャつく。だから元気になって」
「はは、無茶な事を言うんだな」

可笑しくて吹き出してしまった。
そしたらアヤネは、むっとしてほっぺたを膨らました。

「無茶じゃない、やるの」
「っ! いひゃい! ほっへたつねりゅな」

むぃぃっと俺の頬をつねるアヤネの腕をタップする。
そしたら直ぐに離してくれた、そして直ぐ様ズズッ……と後ろに下がってアヤネを見る。

うぉぅ、鼻をふんすっと鳴らしてこっちを見てる。
おっ怒ってる? そう思ってると。

「ぷふっ」

突然吹き出した。

「シルク、間抜けな顔してる。可愛い」
「なっ! まっ間抜けってそんな訳ないだろ!」
「ほんと、してるよ」

ケラケラ笑うアヤネは、ひぃひぃ呼吸してる。
いっいやいや、そんなに笑う事か? そんなに間抜けな顔してるか?

そう思って、そっと自分の顔をペタペタ触る。
まぁ当然そんな事で分かる筈も無く……なんだか知らないがバカらしくなってきてクスッと笑えてきた。

「ははは……そうか。間抜けな顔か」
「うん」
「いや、そこはハッキリ言われると……いや良いや。もうどうでも良くなってきた」

この事でとやかく言っても無駄な気がしてきた、今はそれよりも……。

「そろそろキノコ食べようか。山菜も忘れずに食べないとな」
「そだね」

俺がそう言うとアヤネはススッと俺の方に近寄って座り直す。
なにか一言言ってやろうかと思ったが、止めた。
アヤネのお陰で気持ちが楽になったからだ。 

だから俺はアヤネに寄り添われたまま、昼の森の中での食事を楽しんだ。
キノコと山菜、どれも美味しかったよ、今度来るときは……調味料でも持っていきたい気分だ。

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