どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

69

ぐぅぅーー夜の森の中で虚しく響くお腹の音、もう私の空腹パーセンテージは限界を迎えていた。

「やっぱり……何か食べないと……無理」

空腹なのに走ったのが行けなかった、もう一歩も歩けない……私はその場に座り込む、近くには大きな木があったからそれを背もたれにする。

「……都合良くステーキ落ちてないかなぁ」

そんな訳あるわけ無いのに辺りを探してしまう……あぅぅ、何でも良いから食べないと私は死んでしまう、1食抜いても人は死なないけど乙女は毎日3食食べないとやってけない。
ぐぅぅーーと、またまた空しく響く腹の音、周りの獣のうめき声とのコンチェルト……全く美しくない。

「木って……食べられるよね?」

遂にそんな事を考えてしまう、だって食べられそうじゃない? ほら似た名前でニッキってあるから……きっと食べられる! あれ……ニッキって何だろう? まぁ良いか……そうと決まれば食べよう! 人生初の木の味はどんな物だろう……。

「……あむっ」

落ちていた木の破片を、がじっ! とかじる……っ!! ぺっ! 物凄く美味しくない。

「やっぱり人間は木は食べれない……気持ち次第でいけると思ったんだけど……無理」

当然此処までの一連の行動は所謂あれである……気持ち次第で何とかなるさ作戦だ、食べれる食べれると思えば木は食べれると思ったんだけど……無理! 人生そんなに甘くない、と言うかこれ人に見られたら私がアホの娘みたいじゃない……少し冷静になろう。

「はぁ……ぅぅぅ」

お腹が減りすぎて変な考えを起こす様になってる……これはいけない、私は1度深呼吸する。
すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……ふぅ、少し落ちていた、でもお腹は膨れない。

「その辺の草とか食べよう……かな?」

おもむろに雑草を引き抜く……青く小さな花を咲かせている、じゅるりーー、美味しそう……あっ一応言っておくけど、こんな状態じゃなければ普通のご飯を食べるよ? 草とか見て美味しそうと思うのは今だけだからね? 勘違いして私を変な娘だと思わないでね?

「……ん、羽音が聞こえる」

草を見て涎を垂らしていた時だ、何かが羽ばたく音が聞こえる……近くに鳥がいるのかな?

「鳥なら殴って倒せる……かな?」

少し危ない考えをしてみる……しかしこの羽音、かなり大きい、鳥にしては大き過ぎる……微かにだけど風圧も此処まで来てる。

「今日のご飯は焼き鳥にしよう……」

まぁ、そんな細かい事は置いておこう……狩った後焼くのに火を起こす手段が無いけど……大丈夫何とかなる、気持ち次第で生でも食べれるから! そうと決まれば狩りに行こう! ゆっくりと立ち上がる私、ささっと狩ってささっと食べよう、もう頭の中は鶏肉の事で一杯、さぁ1狩り行こうか。


「ふむ……この木はハチミツの様な甘さを感じる、中々に美味じゃないか」

何てこった……もう一度言っておこう、何てこった!

「実に素晴らしい……中々にクールじゃないか」

羽音を頼りに鳥を探していたら……大きな翼を生やした丸く整った緑髪のイケメンが美味しそうに木片を食べている所に出会した……あの人変な人だ! 私は木の陰からその人を見てみる、良く見ればあの人、執事服を着ている……うん似合っている。

「……あっ」

そんなイケメンさんをまじまじ見ていたら、ある事に気が付いた、お尻の上の所に棘が生えた太い尻尾が付いてる……あと翼も生えてる、後頭に真っ直ぐで短い角が2本生えてる……このイケメンさんは一体何者?


人間……じゃないのかな? 少なくとも翼と尻尾の生えた人間はいないよね?

「ごくりっ……」

うーん、あの尻尾……時折ぴくぴく動いてる、棘棘とげとげしてるけど、あの棘取ったら食べれそう、あぁ……涎が出てきた、あのイケメンさんを殴り倒して尻尾引っこ抜けるかな? はっ! 危ない思考をしてしまった、落ち着け私! こんな時は深呼吸しないと……ひぃ……ひぃ……ふぅぅ……よしっ! 落ち着いた。
と、落ち着ついた所でイケメンさんを見る、何か木を触ってる。

「さて……種を植えるとするか、イケメン足るもの自然は大切にしないといけない、これぞイケメン鉄の掟って奴だ、はっはっはっ!」

おぉ……何か格好良い事言ってる、イケメンさんはその木から離れて地面にしゃがみ込む、そして執事服の中から何かを取り出し地面に植える。

「よし……後は自然が何とかしてくれる」

そう呟いた後、私が隠れている木を見つめて来る、いけない……バレる! そう思い急いで身を隠す、別にバレても良いと思うんだけど咄嗟に隠れてしまった……まだ見てる、もしかしてバレてる? いやいや……私は隠れん坊の天才、バレる筈が無い。

「お嬢さん……そろそろ出ておいで」
「っ!」

と思っていたらバレてた、くっ……何でバレたのかな? 仕方無いので姿を現す私……そしてイケメンさんに近付く、うぉぉ……イケメンだ、近くで見れば尚イケメン、でもシルクには負ける、これは紛れもない事実……仕方ない。
そんな事を考えているとイケメンさんが手を降りながら深々と頭を下げてくる。

「お初にお目に掛かるね綺麗なお嬢さん……俺の名はヘッグ、気軽にイケメンと呼んでくれ」
「初めましてイケメンさん……私はアヤネ ブレイブ、アヤネって呼んで」

私も深々と頭を下げてご挨拶。

「ではアヤネと呼ばせて貰おうか……」

今更だけどイケメンさんは物凄い美声だ、甘く蕩ける声と言う奴だね……さどモテるんだろうなぁ。

「ふっ、あまり熱い視線を向けないでくれ……照れるだろう?」

髪の毛を、ふぁさぁって手で靡かせた、おぉ……イケメンの仕草だ! 格好いい。

「あの……」

私はなぜ此所に居るんですか?と聞こうとした……その時! ぐぅぅぅぅっーーと今までで一番大きなお腹の音が鳴った、うぅぅ……恥ずかしい。

「はっはっはっ、取り敢えずディナーにしようか」

軽く笑ってそう言うとイケメンさんは指を鳴らす、すると何も無い所から果物が現れた、見た事無い食べ物だ、棘棘で丸い果実……暗いから断定は出来ないけど黄色の果実……それを手渡される私。

「さぁ、食べてくれたまえ」
「……頂きます」

何だか良く分からないけど……お腹が空いていたし助かった、知らない果実だけど食べる、だってお腹が空いてるんだもん……。

という訳でその果実を食べる私……これが私とイケメンことヘッグさんとの出会い、この人と出会わなければ私は路頭に迷っていた……後々私はイケメンさんに感謝する事を私はまだ知らないでいた、気付くのはもう少し先の話し……当然この時の私は知る由も無いのである。

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