どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「……よっと。はい、着いたよ」
「っ、ここは……城下町地下?」

ラキュの案内で辿り着いた場所は……なんと城下町地下だった。
降りるとき、背負って貰って来たから、ラキュの背中から降りて息を漏らした。

なんでこんな所にいるのか、そんな疑問が大きいが……それを考えるのは後だ。

ここにアヤネがいる。
正直に言おう、どうしてこんな場所にいる? なにがどうなってるんだ。
まっまぁ……一先ずは此処にアヤネがいる事に安心しよう。

「おぉい、何してるの? 早く行くよ」
「え? あっ、まっ待ってくれ、今いく」

安心してる場合じゃなかった。
俺がぼけぇっと辺りを見てる間にラキュは俺より少し先を歩いてた。

慌てて追いかけ追い付く。
ふぅ……あそこで置いてかれると困る、ぼぉっとするのはもう止めよう。

「アヤネはさ、シルク君の知ってる場所にいるよ」

追い付くと、話し掛けてきた。
ほぉ……俺の知ってる場所か、それは城下街地下で俺が知ってる場所って意味だよな?

となると、クータンの家か? そこじゃないとなると検討がつかない。

だからクータンの家だろうな。
いや、なんでそこにいるんだよ、なにがあってそこにいる? いや、別に知ってる場所にいてて良かったんだが……凄く気になる。

なんだろうな、この感じは。
もう魔王城から出ていってるのかと思ったのに。
いや待て、ここは出ていってなくて良かったと考えよう。

「どこだか分かる?」
「クータンの家か?」
「良く分かったね、あたりだよ」

くふふ、と笑うラキュはチラリと俺を見る。

「気になるよね? 理由言おっか?」
「あぁ、頼む」

ぶっちゃけ、凄く気になってた。
言ってくれるなら言って欲しい。

「理由は簡単、アヤネは城から出ていこうと思ったんだけど、迷って街から出られなかった。そこに偶然通り掛かったクーに拾われてクーの家にいるんだ」

なっなんともアヤネらしい理由だ。
今の話で理解したよ、この瞬間だけは、アヤネが方向音痴だったのを感謝すべきだな。

「なんか、こんな状況なのに……笑えてくるな」
「別に笑っても良いと思うよ。悩むよりはましだからさ」

まぁそうなんだが……複雑な気持ちだ。

「ほら、もうすぐ着くよ」
「おっおぉ」

なんにせよ、今は自分の事が大事だ、もうすぐ着くらしいから気を引き閉めよう。

ぐっと気合いを入れ、クータンの家付近の通りに出た。
ここに着いた時も思ったが……地上と同じで此処も魔物の通りが無いな。

地下暮らしだろうが、起きるのはまだ早いらしい。
なんて考えてたら、奥に人影っぽい物を見付けた。
気になって眼を凝らして見る、あれは……誰だ? こっちに近付いてくるぞ。

…………っ!
ぐぐっと顔を前に出して見続けてたら、ようやく分かった。
こっちに近づいて来てるのは……アヤネだ。
それと、側にクータンがいる。

「アヤネ!」

思わず声を出し、俺は走った。
アヤネも気付いたのか、身体をぴくっと動かした。
そのあと、側にいるクータンにそっと肩を触れられ何か囁いた。
そうされた後、アヤネも走って俺に近付いてくる。

久し振りにあった。
いや、久し振り……と言うのは可笑しいか、会ってなかったのは、ほんの数日だ。

でも今は久し振りにあった、そう言う感覚がする。
だから、アヤネに近付いた後、俺はくすっと微笑んで……。

「久し振りだな、アヤネ」

明るく、この言葉を掛けた。
そしたら、アヤネも髪を弄りながら微笑んで……。

「ん。お久……シルク」

こう返してくれた。
数日ぶりの再開、失恋した筈のアヤネは……明るく笑っていた。
その事に疑問を感じる、いや……笑ってるならそれで良い、きっとクータンの所で何かあったんだろう。

「なぁ。アヤネ」
「あのね、シルク」

だが、それはおいておいて言うべき事を先に伝える。
……っと、同時に話してしまった、気まずいな。
だから頬をコリコリ掻いてると。

「えと、その……あの……」

アヤネが気まずそうに話してきた。
うっ、そんな反応を取られると話辛くなるな。
なにせ、別れ際に泣かれてしまった……そんな事があっての再開だ。

いっ今更だが……どう話しを切り出すのか全く考えてなかった。
と言うか、今アヤネと同時に話してなかったら、そのままストレートに俺の想いを伝える所だった。

あっ危なかった。
伝えるにしても過程をすっ飛ばしすぎだ、同時に話してくれて良かった。

「ひっ久し振り……」
「あっあぁ、久し振り」

くっ、これはさっき言った。
相当気まずくなってきた……あぁくそっ、肝心な時に決められないんだな俺は! ほんっと情けない奴だ!
そんな自分に苛ついてると……。

「ちょっと待った」

後ろから声がした。
ラキュだ、振り替えると……まっすぐアヤネを見ながら、こっちに向かってきている。

「さっき言ったよね? まず、僕から話させて欲しいって」
「あ、そう言えば……そう言ってたな」
「あ、じゃないよ。忘れるなんて酷いね」
「うっ……悪い」

すっかり忘れていた。
いや、でも仕方無いだろ? 俺は凄く緊迫してたし……覚えられなかったんだ、だから勘弁して欲しい。

「じゃぁ、僕から話させて貰うよ。その間に心の準備、しときなよ」
「おっおぉ」

そう伝えた後、俺をぐいっと後ろに下げて、ラキュが俺の前に出た。
きょとんとするアヤネ、今なにが起きてるのか分かってないみたいだ。

まぁ、そう思う俺もアヤネと同じだ。
ラキュ……お前、この状況で何を言うつもりなんだ?

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