どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「なぁ、あれラキュ様だよな?」
「あぁ、そうだな。あの可愛らしい感じはラキュ様だよ。なんで家の前にいるんだ?」
「知らねぇ……」

うぅ……あぁ……、ほんっと視線が集中してるね。
そして、さらっと不愉快な言葉が聞こえた。

「クー……はやく開けて」

心の奥底からの言葉がポツリと出てしまった。
これ以上待ってたら、今でもヒソヒソと「可愛い」だの「男の娘」だの言ってる奴を殴り飛ばしちゃいそうだ。

まぁ、別に殴っても良いんだけど……あいつ等ドMだから殴ると悦ぶんだよね。
そんな顔を見たくないからやらないでいる。

だからさ、早く開けてよ。
ガクッと肩を下げると、ガチャッとドアが少しだけ空いた。

「クー!」

直ぐ様身体を動かして、ドアに手をかける。
そしたら……。

「ひゃぅわぁぁっ!?」

小さく叫ばれて。
きっと驚いたんだろうけど……今に限っては構ってる場合じゃない。
散々またされて聞きたくも無い不愉快な事を聞かされたんだ。
多少強引にいかせて貰うよ!

「クー、何してたのっ……さ?」
「は……う……ぁぅ」

…………え。

「クー……被り物は?」

してない、今は素顔のままだ。
超顔真っ赤だけど……。

「うぅぅぅ……あぁぁぁぁっ」

いや、うぅぅぅっあぁぁぁぁっじゃなくてさ……。
それ、答えになってないよ。

呻き声を上げたクーはしゃがんで手で顔を覆ってる。
完全に恥ずかしがってるね、そんな風になるの分かってるだろうになんで被り物してないのさ……いつもならしてるのに。

「あぁいや。今はそれは良いや。入って良い?」

そう聞いて見ると、激しく首を縦に振るう。
ふわふわのオレンジ色の髪がわっさわっさ激しく揺れる。
……良いみたいだから、入ろう。

「じゃ、入るよ」
「……」

そう言うと、クーは勢い良く立ち上がって、ささっと小走りしてキッチンの方へ走ってった。
どうしたのかな? 妙に騒がしい。

「しゅっ! しゅわ、しゅわしゅわ……しゅっしわわ」

なんか、しゅわしゅわ言ってる。
座って……って言ってるのかな? 何となくだけど、そんな気がする。
そう言う事にして座ろうか……うん。

「しょっ、おしょく、しょく! しょく……じじじっ」

……随分遠くで話してくるんだね。
何いってんのか分かんないよ。
もう目線なんか何処向いてるか分かんない位キョロキョロしてるじゃん。
と言うか、たまぁに被り物外す時あるけど……その時、恥ずかしさで緊張してるの見た事あるけど……。

今日のは、それを遥かに越えてる。

「ねぇ、なにかあったの?」

そう思ったから聞いてみた。
そしたら分かりやすく、ピョンっと跳び跳ね……。

「なっなん、なんなんなん……でっももももも、なっなない……でです」

とか言い出した。
いや、何でもないです、って簡単な言葉ハッキリ言えてないんだから何かあるよね? 苦し紛れ過ぎるよ。

「うぷっ……」
「ちょっ! 吐きそうになってるじゃん!」

顔面蒼白になり、口に手を当てるクー。
直ぐ様立ち上がりそっちに行こうとした。

「来るなぁぁぁぁぁっ!!!!」

が、しかし。
今日初めてのハッキリした言葉で止められた。
いや、そんな大声で言わなくても……必死すぎない?

しかも、顔が怖すぎる……どんだけそっちに来て欲しくないのさ。
軽く傷ついたよ。

「だっだだ……だいじょぶ、そっそこに……すすっ、すわっ……てて」

うん、大丈夫に聞こえない。
今までクーの緊張仕切った喋り方の中で一番凄い。
もう、口に手を当てたままだ。
これ、下手したら吐くんじゃ無いかな? 呼吸荒く見えるし、顔色悪いし……。
今すぐにでも近付いて被り物を被せたい。

でも、クーの迫力が凄すぎて近付けないんだよね、足を少し動かしただけで睨んでくるし……。
って、あれ? そう言えば被り物は何処に置いてあるんだ? 何時もなら見える場所に置いてそうなのに……見当たらない。

まぁ、何処かに置いてるんだろう。
それよりも、クーの言葉に返事しないといけないね。 

「まぁ、そう言うなら座ってるけど……無理ならいいなよ?」
「はっははっはひ!」

もう「はい」も言えなくなってるじゃん。
ほんとに大丈夫? すっごく心配だよ。
そう思いつつ、僕はクーの様子を伺いながら待った。

ほんと、吐くとか勘弁してよ? そうなったら近くに行くからね……。

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