どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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あれから朝食を食べたシルクは、店を開くために外に出た。
今回はどんな騒動が起きるのだろうか?


……ふぅ。
俺はため息をつき空を見上げて染々思う、あぁあ、今日も街は……。

「ふぉぉぉぉっ、シルクたんだぁぁっ!」
「歩いてるっ、超歩いてる! かわゆぃぃぃっ!!」

ひっじょうににやかましいな。
俺だって普通に歩く。
何が楽しくてギャイギャイ叫んでるんだか訳が分からない。

あとな、何度も何度も言わせるなよ?

「俺を可愛いって言うな!」
「おぅふっ、お叱りありがとうございますぅぅっ、ぶひぃぃぃ」

……しまった。
つい怒ってしまった、喜ばせるだけなのに。
ついイラッとしてやってしまった。
チッ……見られ無いように舌打ちした後、俺は先へ急ぐ。

速いところ店を開けよう。
って、うぉぅっ! なっなんだ? 後ろから誰か突っ込んできたぞ?

「あ、シルクみっけ」
「っ! おい……いきなり抱き付くな」
「っ……いたぃ」

どうやら後ろからアヤネにタックルされたらしい。
だから、軽く頭に肘打ちしてやった……しかし、アヤネの奴、痛がりはしたが俺の腰を掴んで離さない。

相変わらずの押しの強いスキンシップだな。

「はっなっれっろっ」
「あぅ、きゃぅっ、ひゃっ、いぅっ」

だからコツンコツンと連続で小突いてやった。
そしたら離れてくれた。

「酷い」
「酷いのは無理矢理抱き付いて来る方だ」

恨めしそうに睨んでる。
そんなに抱き付きたかったのか……だがダメだからな!

「ちょっとくらい良いでしょ?」
「ダメだ」

そう言って、先へ進む。
そしたら、アヤネはトタトタ着いてくる。
……また店に来るのか。
今度は変な事しないでくれよ?

「ねぇ、どうしてもダメ?」
「ダメだ」
「ケチ」
「ケチで結構」

っ、いたっ、ちょっ……。
めっちゃ背中を突っついて来た。
地味に痛い、抱き付かせて貰えないから嫌がらせしてきたぞコイツ……。

「……あ。もしかして、ここじゃ恥ずかしい? そだよね、今までのシルクみてたら分かる事。私……我慢する」

と思った矢先我慢してくれた。
助かったんだが、なんか腑に落ちない……でもまぁ、抱き付いて来ないんだから良しとしよう。

そう思って歩き進める。
もうすぐ店につく、そしたら忙しい一時の始まりだ。
気合いいれないとな。

「ね。シルク」
「ん、どうした?」

歩きながら話し掛けて来る。
だから、俺も前を向いたまま返事をした。

「私、まだ狙ってるから」
「……そうか」

狙ってる……か。
凄く気合いが入ってるのは、声で分かった。

俺は素っ気なく返事したのに、アヤネは笑ってる。
チラッと後ろを見てると……笑顔を見せていた。

それを見た後、直ぐに前を向いた。
あの笑顔を見ると、心がズキッと痛んだ。

「こら」
「あいた」

そのとき、アヤネに叩かれた。
だから立ち止まって、振り返りじっと睨んでやる。
そしたらまた軽く叩かれた。

「いま、申し訳ないって思ったでしょ」
「っ」

おっ思ってる事を見透かされた。
驚いて目を見開いていると、アヤネがぷくっとほっぺたを膨らませた。

「そんな事思うのダメ。シルクは今は別の人が好きだけど……今後私の事が好きになる。勿論恋愛的意味でだよ?」

自信満々に凄い事を言い出した。
なんでそんなにやる気になれるんだ? 不安にならないのか?

「だから、そんな事思うのダメ。シルクは今だけは好きな人の事考えて」

澄んだ眼、まるで俺を癒すかの様な声で言ってきた。
今だけは……か。
なんだよ、俺が色々悩んでたのに、アヤネがそんな事言い出すなんて……悩んでた俺がバカみたいじゃないか。

そう思ったら笑えてきたよ。

「あ、でも。あんまりその人の事を考えるのもダメ。最終的に付き合うのは私となの。だから、適度に考えて」
「……ふふ。折角良い事言ってたのにな」

最後にアヤネらしい事を言ってきた。
だから軽く笑ってしまった。
そしたら直ぐに「笑うなぁ」と言ってポカポカ殴ってくる。

適度に考えて、か。
はははは……また難しい注文だな。

「アヤネ」
「なに」

じと目で見てくるアヤネ。
まだポカポカ俺を叩いてる。

「急ぐぞ、そろそろ店を開けないとダメだ」
「え。あ……待ってシルク! 置いてくのダメ!」

そんなアヤネに素早く背を向けて店へと掛けていく。
アヤネは俺を追い掛けてくる。

……アヤネ。
ありがとな、お陰でスッキリしたよ。
お前がそう言うなら、俺は安心して自分の事に集中出来る。

だがまぁ、その前にまずは店の仕事を頑張らないとな。
今日も行くか、魔物へんたい共が集まる俺の職場に。

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