どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

406

アヤネの事が好きだと気付いた僕は、力が抜けてぐでぇっと椅子に持たれる。

「あぁ……なんか、どっと力が抜けたよ」

ほんと、糸が切れたようにね。
なんだろう、不思議と清々しい気分だよ、つっかえた物が取れたみたいな感じ? そんな感じがする。

「けっ。そう言いながら晴れやかな顔しとるじゃねぇか」
「それはお前のせいだろ? 脳筋」
「お。やっと元に戻ったなシスコン」

……そうだね。
今の鬼騎の言葉は、まさにその通りだって思うよ。
と言うか、さっきまでの気持ちが嘘みたいだ。

「でよぉ、どうするんだ?」

ん、なに? いきなり質問? どうするって何を? って、そうか……これは聞かなくても分かる。
確実にアヤネの事をどうするか聞いてきてるんだ。

「さぁ。どうしようか」

正直その点はなんにも思い付いてない。
だって、さっきまで考えもしなかったんだもん。
でも、そんな事も言ってられないよね、早いところ考えないといけない。
じゃないと、アヤネが何処かに行っちゃいそうだからね。

あ、そうだ。
忘れる所だった、改めてあの事を言っておこう。

「そう言えば、クーがなんとかするって言ってたね」
「ん、そう言えばそんな事言っとったな」

だから大丈夫だとは思うんだけど、心配だよね。
今頃何してるんだろ……気になる、凄く気になる。

「まぁ、クーがいるから大丈夫だと思うけどね」
「そうか」

クーはあれでしっかりしてるからね。
きっと今もアヤネを引き留めてるだろう、それを信じよう。

「まぁ、それはそれとしてだ。どうやって引き留めるか考えてるのか?」

あ、それだよね。
その事を考えないとダメだね。
って……なんか鬼騎に背中を押されるのって初めてだよね。

くそっ、前までは告白するのにビクビクしてたのに。
立場が逆になった。
今になって腹ったって来た、なんで僕がこんな事言われなきゃいけないんだ。

「……」
「どうした、なんにも浮かばねぇのか?」
「腹立つ」
「ん? なんか言ったか?」
「別に」

でも、鬼騎のお陰で自分の気持ちに気づけた部分もあるからキツく言えない。
と言うか、さっきまでの僕は一体なんなのさ! うじうじ考えてて鬱陶しい。

そりゃクーもあんな反応取った筈だよ、あの時は思いもしなかったな。
今度クーにはお礼をしないといけないね、この件が片付いたら会いに行こう。

「そうか。まぁ……行動すんのは速い方が良いんじゃねぇか?」
「そうだね」

確かにその通りだ。
クーが引き留めてると言っても、こっちからも行動した方が良いよね。
……今気付いたけど、こうやって悩みまくるのって僕らしくないかも。

うん、だったらあれだ。
色々悩むのは止めて、アヤネの所へ言って言いたい事を言おう。

僕らしい言葉でね、まぁでも、あれだね。

「今は遅いから……明日の朝早くに行くよ」
「おっおぅ。そうか……こう言うのって直ぐに行くもんだがなぁ……まぁ良いか」

そうなんだけどね、夜遅くに行っても寝てるかも知れないでしょう? だからそんな呆れた顔しないでよ。

「……鬼騎」

さて、その話しはもう終わりで良いよね。
だったら僕の話しを聞いてもらおう。

「なんだ?」

そう思って話してみたら、首を少し傾けて応えてきた。

「一応お礼は言っとくよ、ありがと」
「おぅ」

軽い感じで返した後、ニッと笑う鬼騎。
あ、因みにまだ話したい事があるんだ、だから……ちゃんと聞いてよね。

「でさ、なんで鬼騎は僕にあんな事を言ったの?」
「ん、あぁ……それ、気になんのか」

そりゃ気になるよ。
普段口喧嘩ばっかりしてるのに、急に手助けしたりして、少し変な感じだよ。
まぁ……そのお陰で助かったけどさ。

でも気になるんだよ、出来ればその理由を聞きたいんだよね。
そう思って鬼騎の返事を待ってみる、そしたら暫く間を開けた後「ふっ」と笑う。

「そりゃお前、好きなのにそれを伝えずにうじうじしてんのを見てれば周りの奴が苛つきもするだろ? だから手助けしたりしてやったんだよ。有り難く思えや」

そして、こう言ってきた。
そりゃぁもう、すっごい腹の立つ笑顔をこれでもかと見せつけながら……。
その瞬間、プツンっと僕の中の何かが切れた。

眉をピクピク動かして鬼騎を睨み付けてやる。

「へぇ、付き合った瞬間えらく調子のってるじゃん。なに? 恋愛マスターになったつもり? 脳筋ヘタレ」
「あぁ? んなもんになったつもりはねぇよ。ただお前にされた事をそっくりそのまま返してやっただけだ、シスコンヘタレ」

お互い睨み合ったまま立ち上がり、ダンッ! とお互いの足を踏みつけ合う。

「と言うか、なんで僕が悩んでるのに気付いたの?」
「何年の付き合いだと思ってんだ。そんくらい見てれば分かるわ。つぅか、ありゃ見ざるをえんくれぇに悩んでたぞ」

そのまま話し合う、ギリギリと足が食い込んで痛いけど構うもんか。
このまま、潰すつもりで踏みつけてやる。

「え、なにそれ。それでずっと見てたの? 彼女がいるのに男に興味あるんだ、意外と両方イケちゃう魔物なんだ、僕はノーマルだから付き合う気はないから、ごめんね」
「俺もそんな趣味はねぇ。変な勘違いしてんじゃねぇぞ、おぉ? つぅかお前もなんだ? 色々悩んでよぉ、俺の事いえねぇじゃねぇか。あんときはまるで、恋に悩む乙女みてぇだったぞ」

こいつ、ニヤニヤ笑いながら気に障る事を言ってきた。
だれが乙女だ、本当にお前の足潰すよ? 凄まじい気迫を鬼騎にぶつけると鬼騎も同じくらいの気迫をぶつけてきた。

そして無言で睨み合う、その数秒後。

「くふふっ……」
「かかっ……」

何故か吹き出してしまった。
それを皮切りにお互い声を出して笑った。
思えばこうやって喧嘩するのは久々かもしれない、色々悩んで神経が張り積めてて喧嘩する気にもならなかったからね。

でも、今まさに喧嘩した。
やっぱり僕と鬼騎は喧嘩し合ってる方がしっくりくるね。

そんないつもの様に戻してくれた鬼騎に感謝だね。
ありがとう、お陰で自分を取り戻せた気がするよ。

そのお礼に、しっかりと自分の気持ちをアヤネに伝えてくるよ、自分の言葉と自分のやり方でね。

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