どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

319

ヴァームが喋り終わったら俺達は着替える為に男女別れた。
正直着替えに行きたくなかったが、ヴァームのあの時の眼が凄く恐かった。

なんと言うか、何かにとり憑かれた様な眼をしていた……。
まさにあれが極限状態って奴だ、あんなになるまで服を作るなんてな……ある意味努力家だよ、ヴァームは。

「はぁ……やれやれ、姉上は突然こんな事やらかすからねぇ。疲れるよ」
「それには同意だ、たくっ……」

俺の店の倉庫に着いたとたんぶつぶつ文句を言う2人。
その気持ち分かるぞ、ほんっと疲れるから止めて欲しい、だが……言っても止めないんだろうなぁ。

「だがまぁ……ハロウィンだけは正直楽しみなんだよな」
「へぇ……。そうなんだ、まぁそれに関しては僕も興味あるね。それに関してはだけど」

嫌なのはコスプレだけだ、それさえなければ、俺はハロウィンが待ち通しかったし楽しんだだろう。

……まぁ、過去の事を悔やんでも仕方無いか。

「じゃ、そろそろ着替えよっか」
「そうだな、はやくせんとヴァームが何仕出かすか分からんしな」
「あぁ、そうするか」

俺達は、はぁ……とため息をついた後着替えを始める為に紙袋の中身を確認する。

そう言えば、貰ったときは何か見てなかったんだよな……なんの衣装を貰ったんだろ? 結構重いからな、すっごく気になる。

「うわっ……」
「どうかしたか? ラキュ」

と、その時だった。
ラキュが明らかに表情を歪めた。
気になって声を掛けてみたが……何も言わないで俺と鬼騎を見てきた。
そしてそのまま紙袋の中身を見せてくる。

なんだ? なんの衣装……って、これは。

「角と尻尾……あとは、白い服?」

なんだこれ、なんの衣装だ?

「ドラゴンの角と尻尾、あとは鱗の服だな、これは」
「え、ドラゴン?」

鬼騎がぽつりと呟いた。
こっこの角が?
気になって手にとって見てみる、うわっ……すっごいすべすべだ。
とっても鋭いし長い、立派な白角だ。

「ご丁寧に尻尾まであるなてかこれ、どうやって付けるんだ?」

尻尾も触ってみる。
こっちもすべすべだ、太さはそんなに無い……長さもそんなに無い小ぶりの白尻尾だな。

鱗の服も触ってみる。
うぉぉ……鱗だから硬いと思ったが、そんな事は無い。
とっても柔らかい、着心地は良さそうだ。

「くっ……、何が悲しくていつもコスプレ強要してくる奴と同族の物を身に付けなきゃならないのさ!」
「うぉっ、いっいきなり叫ぶなよ」

ぜぃ……ぜぃ……と呼吸するラキュ、「ごめん」と小さな声で謝った後、ぱさっ……と服を脱いで行く。
白い素肌が露になった、おぉ……腹筋がある、それだけじゃない、全身程よく筋肉がついてる。
ラキュは細マッチョだったのか……羨ましい。

て感じで羨ましがってたら、後ろを向いてがくっと落ち込んでしまう。

「まぁ、何時ものよりかはマシだから着るけどさ……。くっ、ドラキュラがドラゴンに仮装するってなんなのさ!」
「さっさぁ……なんなんだろうな」

心の奥底からの嘆きを言った後、思い手つきで着替えていく。

「うわ、手袋まであるじゃん……これつけるの?」

ん? まだ下に何かあったんだな……。
ラキュは白い手袋を掴んでヒラヒラさせる。
指先には爪があるな、まさかあれ……本物か?

「……見てないで着替えたら?」
「あ、すまん」
「おぅ」

そうだな、見ていてもしょうがない、俺も着替えよう。

「ねぇ 脳筋はなんの衣装だったの?」

と思ったらそんな問い掛けがとんできた。

「ん、俺か? ちょっと待っとけ。んー……ん! 包帯だけしか入ってねぇな。っ! まさか……マミーか?」

鬼騎はガサゴソ漁りながら低い声で答えた。
マミー……だって? なんだそれ、しかも包帯だけだと?
それってつまり、全身包帯でぐるぐる巻きにしろって事か?
……それってコスプレなのか?

「へぇ……そうなんだ、ぷふっ」
「っ!! なっなに笑っとんじゃっ」
「いやだって可笑しいよね、鬼がマミーのコスプレするんだよ? 笑うしかないよね?」

あ、ラキュが鬼騎をからかってる。
久し振りに見たなぁ、最近見てなかったんだよな……それにラキュの様子が可笑しかったしな。
だがこれを見て安心した、いつものラキュみたいだな。

「なんで笑うしかないんだ!」
「だってあいつらほそっこいよね? でも脳筋はガチムチ……筋肉質なマミーなんて聞いた事がないからついね、悪気は無いんだよ? 気に障ったなら謝るよ、ごめんねぇ」
「てめぇ、謝るんならこっちに面見せて謝れや」
「ごめん、それは無理だよ。今すっごく笑い堪えるの必死だから……くふふふ」

だけど……目の前で喧嘩するなよなぁ、止められないんだよなぁ。

「よし分かった、喧嘩売ってんだな? 上等だ! 表でろやぁぁぁぁっ!」
「出ても良いけど、喧嘩してこの衣装に傷をつけたら……どうなるか分かってる?」
「っ!? ……ちっ。くそったれ……見逃してやらぁ」

あ、始まらなかった。
そうか、そうだよな。
今、ヴァームが作った衣装を着てるから傷をつけるわけにはいかないんだよな。

筋肉質の鬼騎でもヴァームが恐いのか、舌打ちして怒りを治めた。

はぁ……焦った、心臓飛び出るかと思った。
……と、そろそろ俺も着替えよう。

早くしないと後が怖いからな……。
さぁて、俺はどんな衣装を貰ったんだ?
紙袋はやけに重いんだよな……何が入ってるんだよ。

重いから一旦紙袋を床に置いて漁ってみる。
……ん?えぇと、これは……なんだ?

「服……じゃないな」

なんだこれ、これ……着れないよな? と言うか着るものじゃないし、服ですらないよな?

どういう事だ? 
そう思ったから、渡された紙を見てみる。

えぇと、なになに……"ゾンビ"か。
なるほどな、ゾンビか……よく墓場にいそうなイメージがあるあいつか。

俺はまた紙袋の中身を見る。
……因みにその中身はペンキだ、色は緑と黒、あとは白のトランクスタイプのパンツ、あとは手持ちタイプのブラシだ。
ペンキの缶って重量あるのに、よく紙袋が破けなかったな……これも魔法の力か?

でも、なるほど……これを見て大体察しがついた。
つまりあれか? このペンキを全身に塗れってことか? パンツにも色をつけろと? この格好で外を出歩けと?

俺は暫くそのままの状態で硬直した。

「なぁ、ラキュ」
「絶対やだ」
「まだ何も言ってないだろ?」

俺はロアに渡された紙を見て、再び紙袋の中身を見てみる。
あぁ……夢だ、これは夢だ……夢であってくれ。

「じゃぁ、鬼騎」

藁にもすがる思いで言ってみる、だがしかし……首を横に振って頭を下げてくる。

「すまん。その表情で分かっちまった。ヤバイ服なんだろ?……諦めて着てくれんか」
「諦められないから頼んでるんだろ! と言うかこれ! 服じゃないから! 着るものじゃないから!」

俺は手をブンブン振りながら主張した。
ラキュと鬼騎は哀れみの表情を向けてきた。

「そんな顔するなら交換してくれ!」
「ごめん、もう着ちゃったし……交換できないや」

見せ付ける様にラキュはその場でくるりと回る。
いつものタキシードではなくドラゴンのコスプレだ。

「ドラゴンのコスプレつっより、竜人のコスプレだな」
「だよね、まぁ……これはこれで良いと思ってるよ。露出が少ないし」

呑気に会話してんじゃねぇよ! そもそも竜人ってなんだよ!

「鬼騎! 頼む! 交換してくれ!」
「しぃ坊、お前も男なら……覚悟決めろや」

なに格好つけて格好良い事いってんだ!
男なら覚悟を決めろ? うるせぇ! そんな事言ってられるか!

「1人だけコスプレじゃなくて、ボディペイントなんだぞ! ふざけんな!」
「あ、そうなの? じゃぁ僕は外で待ってるね」
「あ、ラキュ! 待て……」

俺の制止も聞かずにラキュは出ていってしまった。
俺は直ぐ様鬼騎に視線を向けた。

「俺だけじゃ、包帯巻けんから手伝って貰うわ」
「あ、おい!」

鬼騎も制止を聞かず颯爽と出ていってしまった。
残されたのは俺1人……ぐっぐぐぐっくぅぅぅぅ……。

「はは。まじで……辛い」

くっ……ヴァームの奴、何考えてんだ……ほんっと何考えてんだ!
服作りで疲労がピークに達して頭が変になったか? せめて緑色の服にしろよ! それにゾンビっぽく色塗れば良いだろうが!

「あぁ……どうしよう」

俺は頭を抱える、そして数秒動きを止めたあと決意した。

「抗議するしかないな……」

俺はそう呟いて部屋を飛び出した。
一言言ってやらなきゃ気がすまない! ヴァームに会った瞬間思いっきり突っ込んでる! 流石にこれは酷すぎる!

そんな事を思いながら、ズンズンとヴァームがいる所へ向かっていった……。

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