どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

322

「ひぃ……ひぃ……ひぃ……あぁ……あぁぁぁ」

運動なんてしてないのに、かっ身体が……熱い。
床にべたぁっと倒れた俺は天井を見る。
はぁ……あぁ、笑い死ぬかと思った、もうあれだ……一生分笑ったよ。

「ふふふ、見事なゾンビになりましたね」

あぁその通りだよ、俺はまさにゾンビになってる。
肌は緑色に塗られ、その上に黒をまんべんなく塗られた。

この色合い、ヴァームいわく、ゾンビの腐り加減をイメージした塗りらしい。
俺、腐ってないぞ……ちゃんと生きてる新鮮な身体だぞ

と、そんなボケは置いといてだ……渡された白いパンツも塗られる始末、もう恥ずかしくて堪らない。
だって、1人だけ裸の様なもんなんだぞ?

「くふふふ、これもわらわのブラシ使いのお陰じゃな。では、わらわはちゃちゃっと着替えてくるぞ」
「私も」

こっこいつら……。
倒れてる俺を気にかけず着替えに行きやがった、ほんと覚えとけよ?

ぜぃぜぃと呼吸を荒くしていると、ヴァームが俺の側にやって来て屈んでくる。

「どうです? ゾンビになった感想は」
「最悪だよ、肌がペタペタするからな」
「そうですか、まぁ……その内慣れますよ」
「簡単に言ってくれるな……くそったれ」

こんなんに慣れてたまるか。
ハロウィンが終わったら即刻身体を洗ってやる、そんでもって直ぐに寝てやる! ふて寝だふて寝、復讐するのはその後だ!

「ふふふ」
「なんだよ、まだ笑ってるのかよ」
「あぁ、申し訳ありません……先程のプレイで、シルク様の性感帯を見つけてしまったのでつい」
「…………」

うっとり……と頬に手を当てるヴァーム。
くっ……人が息荒くして倒れてるってのに、相変わらず毎度毎度不愉快な事を言う奴だ。

「あら、そんなに睨まなくて良いじゃないですか。私はただ、あの時のシルク様の事を思い出してただけですよ?」
「出来れば思い出すな、弱ってるんなら尚更だ。帰って寝ろ」
「お気遣い感謝します。ですがご心配なく、男の娘が側にいれば大丈夫です」

それ、大丈夫なのか? 普通は大丈夫じゃないよな?

「私の心配は良いですから、シルク様は外に出ていて下さい」
「あっあぁ……」

そう言われ、よっ! と体制を起こす。

「私はロア様とアヤネさんの様子を見てきます」
「そうか……」

その言葉を最後に俺は外に出る。

すると、外にいたラキュとメェが俺を見る。
それぞれコスプレをしているな……って、あれ? 鬼騎は何処行った? 代わりに頭から足の爪先まで包帯グルグル巻きの大男がいるが……誰だ?

「……」

と、そんな疑問なんて忘れたかの様に暫く沈黙が起きた。
……なんだよ、そんなにじぃっと見るなよ。

「シルク君、無事仮装は出来たみたいだね。見事なゾンビコスだと思うよ」

俺の様子をみながら苦笑いするラキュ。
……白いドラゴンコスプレ、くそっ、どうせ引くならこっちのが良かったよ!

「褒めるな……惨めになるだろう。あと無事? そんなわけないだろ……危うく笑い死に掛けたんだぞ!」

ロアとアヤネ、容赦なく塗りたくたからな……その間俺は笑い声を出しまくったよ。
そしたらあいつ等、嬉しそうに微笑むんだ、意味分からんだろ? こっちは苦しんでるってのに……。

もうなんと言うか、あれは地獄の様な時間だったよ。

やつれた顔をしてため息を吐くと、誰かが俺の肩をぽんっと叩いた。

「なんつぅか、大変だったな……」
「っ!!」

フゴフゴと喋り辛そうに包帯大男が親しげに話し掛けてきた。
え……えと、誰だ? そっちは俺を知ってる様だが、俺はあんたの事は知らないぞ?
どっどうしよ、突然話し掛けられて戸惑ってしまった……。

「おい、何驚いてんだ?」
「え、なんでって……」

そっそりゃ、こんな訳の分からん人……いや、魔物? に親しげに話し掛けられたら驚きもするだろう。

とっ取り合えず、話に乗るか? でもその後はどうしたら……ん? なんかクスクス笑い声が聞こえるな。

「くふっ……くはははは! 盛大に驚かれてるねぇ」

うぉっ、ビックリした。
なっ、なんで突然笑い出すんだよ。

「シルク君、心配しなくても良いよ。そいつ……脳筋だから」
「え、脳筋……って! もしかして鬼騎か?」
「もしかしなくても俺だ」
「うっそぉぉぉっ!」

 ほっ本当に鬼騎か? 顔も何もかも隠れてたからまっったく分からなかった……。
あ、でも良く見れば筋肉が凄いのが分かるな。

「しぃ坊」
「あ、えと……なんだ?」

低い声で話し掛けられた。
うわやばっ……どうしよ、おっ怒ったかな?
だっだって仕方ないだろ? 本当に分からなかったんだから。

あ、でも待てよ? そう言えば鬼騎は着替える前に包帯持ってたよな?
それを使ってるのって、俺の知る限りじゃ鬼騎しかいないよな?

……ごめん、これ、全面的に俺が悪いな。

「いや……やっぱ良いわ。分かんないなら仕方ねぇよな」

めっちゃくちゃ落ち込んだ、がくっと肩を落とし背中を向ける鬼騎。
こんな時でなんだが……それを見て、シュールな光景だと思ってしまった。

と、その時だ。
ポコンッーー

「いっ、だっ誰だ! って……うぉっ!?」

誰かが俺の頭を叩いて来た、バッ! と後ろを振り返ってみると……。

「もぅ、きぃ君になんて事するですか!」

ぷくぅっと頬を膨らましたメェがいた。
え……あ、うぅ……いっ衣装が、その……気品に溢れてると言うのか、独特な感じがする。
えと、説明するとだな……。

頭の中心には角、その角は鬼騎の物に良く似ている、で服なんだが……。
着物なんだ、俺が住む人間界、東の地域の人達が晴れ舞台や祭りの時に着るあの着物だ。

それをメェが着ている……。
着物の色は紫、その色が持つ雰囲気の性か今のメェは何時もの天真爛漫さとは違って、人気の無い所にひっそりと咲く一輪の百合の花の様な可憐な雰囲気を出してるんだ。

いっ何時ものメェじゃない。
喋り方は何時も通りだが……別人の様に感じる!
これが、メェがクジで引いた鬼のコスプレか……似合ってるな。

「ちょっと! 聞いてるですか?」

ずいっ! と前に詰め寄られる。
うぉっちっ近い、慌てて顔を背けた。

「こら! こっち向くですよ!」
「っ!」

両手で顔を持たれ、ぐいっと無理矢理メェの方に向かされる。

「きぃ君はメンタルの方はよわよわなんですっ! だから言葉には気を付けるですよ!」

いや、あんたの方が酷くないか? 今の聞いて鬼騎が更に落ち込んだぞ。
ずぅぅんっ……って暗い雰囲気出してるぞ、言葉に気を付けるのはメェの方だろ。

と言う感じでわいわい騒いでると、扉がガチャッ! と開いた。

「待たせたのっ!」
「待った?」

ロアとアヤネが出てきた。
それだけじゃない。

「ようやく全員揃いましたね」
「おほほほ、パーティの始まりですわぁっ」
「ハロウィン対に始まりますぉ」

後ろからヴァーム、ラム、シズハさんも出てきた。
勿論全員コスプレしている、皆のコスプレを見ながらロアが皆の中心へと歩いて行く。

「では早速会場に行くとするかの。パーティはもう始まっているのじゃ!」

うきうき声で喋るロアを見て俺は思う。
えと、なんでお前が"その"服を着てるんだ?

そんな疑問を抱きつつも、ロアの一声で皆は移動していく。
まっまぁ、それについては後でしっかり問い質そう、これは大事な事だからな……。

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