どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

331

確か8歳、その時だったか
……ハロウィン当日、もう直ぐ暗くなるってのに俺は外に出て、あいつを待ってたんだ。

噴水広場の噴水付近で俺は、道行く人を見ていた。
街がハロウィン一色に装飾されて、いつもと違う街並みになってた。
この時の俺は、別世界の様に写ってただろうな……。
あ、それと若干イライラもしていただろう。

「遅いな……」

きょろきょろ見渡しながら待ち人を待つ。
しかし来ない、そのせいか、タンタンタンッと足を鳴らす。

と、その時だ。
少し遠くから声が聞こえた。

「おぉい」

しかも手を振ってる。
だんだん俺に向かって近付いてくる。
それを見て俺は、大きくため息を吐いて「やっときた」と呟いた。

タッタッタッ……。
小走りして来たのは黒髪ポニーテルの少女、少し高そうな黒の服、ひらひら靡くスカートを着ている。

そう、この人物こそ……8歳の時のアヤネである。

「お待たせ」
「あぁ、待ったな」
「ごめん」

淡々と喋る俺達、そして俺は「ふぅ……」と息を吐く。

「皆待ってるぞ」
「そう」

このとき、俺は皆に誘われたんだよな。
「お菓子アホほど食べようぜ!」と言う誘いにまんまとのった。

あ、言っておくが……俺はアホほど食うつもりはなかった。
ただ……楽しそうだから参加しただけだ。

と、弁解した所で何をするかと言うと……お菓子を貰いに行くんだ。
ハロウィンでのイベントの1つだな。
トリックorトリートって言ってお菓子を貰うあれだ。

で、それをするために待ち合わせしてたんだがアヤネが来ない。
他の奴等に「様子見て来い」と言われて、アヤネの家付近である噴水広場で待ってたって所だ。

待ちぼうけをくらって、暇だなぁって思ってた所にアヤネが遅れてやって来た。
今も昔もマイペース、遅れて来ても表情1つ崩さずに簡単に謝る、これでも一応反省はしているらしい……。

「早く行くぞ」
「うん」

ふんっ……と、鼻を鳴らして言うと、アヤネがこくっと頷きながら答えた。
俺とアヤネは並んで待ち合わせの場所へ歩いていく。

「アヤネ、時間は守れよな。皆遅い遅い言ってたぞ」
「抜け出すの手間取ったから仕方ない。今日の見張りはしつこかった、だから私のせいじゃない」
「……そか」
「うん」

そう……。
アヤネの家は厳しい、あまり外出させてくれない所を、アヤネは抜け出して来たんだ。
悪い事したなぁ……まぁ「アヤネも一緒に行かないか?」と言って誘った俺も悪いけどな。

仕方ない、アヤネは俺の幼馴染みで親友だし……一緒に楽しみたかったから誘ったんだ。
そしたらあいつは、喜んで首を縦に振ったよ。

「ひとり気絶させたの」
「え、それって大丈夫なのか?」
「へいき、鎧からパンチしたから生きてるよ?」
「へぇ」

はい、ここで幼き頃の俺は突っ込むべきだった。
「そう言う問題じゃないからな!」て言うべき所だ、だが子供だから仕方ないか。

「シルク」

ここで、きゅっ……と俺の手を握ってくる。
押さない俺は、分かりやすく顔を真っ赤にさせた。

「ん?」

それを誤魔化すために、大分間をあけて問いかけた。
顔真っ赤なのアヤネにはバレバレなのに、隠せてると思ってる。
これはあれだ、恥ずかしがってるバレたくないから強がってるんだ。

「手、繋ぎたい」
「もう……繋いでる」
「あ、うっかりしてた」

ほら、俺の喋り方可笑しいだろ? ボソボソって言ってるし、妙に間あけて喋ってる。

アヤネはそれを見てクスクク笑ってる。
「なっなんだよ……」と言って睨んでやると「何でもないよ」と言ってくる。

「シルクは素直じゃない」
「……うるさい」

ぷいっとそっぽを向いた。
もう何も喋ってやるもんか……とか思ったんだろうが、幼い俺よ、それは無理だ。

アヤネは無視されたら、話し掛けるまで付きまとうぞ。
だから適度に話してやれ。

「シルク」
「……」
「シルク?」
「……」
「……かぷっ」
「うぉわぁっ!?」

ほら、無視したから耳を甘噛みされただろ?
で、恥ずかしい声あげてぴょんっ跳び跳ねて、周りの人達の注目を浴びただろ?

いま凄く恥ずかしいよな? 顔赤くしてるもんな……。
こうなる事を学習したら、今度からはアヤネに対して無視をするんじゃないぞ?

「なっなんだよ」
「あのね、楽しもって言おうとしたけどシルクは無視した。無視はダメ、次は本気で噛む」
「きっ気を付ける」

本気で睨んでくるアヤネに身震いした。
普通、冗談だろ? と思うだろうが……目が本気なんだよなぁ。
こんなの、黙って頷くしかない。

「じゃ、改めて言うよ。シルク……今日は楽しもうね」
「……うん」

ぴたっ、身体を密着させてくるから俺の心は揺れた。
それを素に出さないよう気を付けながら言った台詞。

だが、さっきと同じでバレバレ……。
その事に気付かず、8歳のアヤネとのハロウィンが始まった。

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