どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「…………」

僕の話を黙って聞いたクー。
その話を聞き終わった時……クーの首筋に一筋の水滴が伝っていく。

それを見た僕は戸惑う……え、あそこから水滴って……まさか!

「くっクー? どっどうしたの? なっ泣いてるの?」

泣いてるのは明らかなのに聞くのはどうかと思うけど、つい聞いてしまった。

だって……突然泣き出したら誰だってそう聞くでしょ?

「うっうぅ……」
「えっ、ちょっ……なっなんで? なんで泣くの?」

どっどうしよう、焦った僕は立ち上がってあたふたする。
そして、泣かしてしまった罪悪感に襲われる……僕、泣かすような事言ったかな?

「……めて……です」

え?

「はじめて……です、そんな……事、いっ言われたの……わ」
「……クー」

泣きながら言ったその台詞は、喜びながら言っている……僕はそう感じた。
ひくっ……ひくっ……とすすり泣きながらクーは後ろを向いて、被り物を取り涙をぬぐう。

そうした後、また被り物を被って僕の方を向く。

「うっ……嬉しい……です。ぐずっ……」
「え……うっ嬉しい? いやいや僕は対した事言ってないよ?」

ただ単に思った事を言っただけ……それなのに、泣く程嬉しかったの? へっ変な娘だなぁ……。

「……」
「……」

あ、黙っちゃった……。
んー……また気まずくなっちゃった。
どうしよ、正直あんなクサイ台詞言った後何か話すのは恥ずかしいなぁ。

足と腕を組んで考えてみる……んー、どうしよ、て言うか無理に話す必要無いかも。

こうやってお茶を飲んでゆっくりするのも良いかもしれない。
だってこんなに美味しいんだもの……あ、そろそろおいとまするのもありか。

でも、もう少しお茶を楽しんでからにしようかな。

という訳で、すすすぅっと飲む。
音を立てるのは良くないのですすすぅっとだ。

そんな様子を肩をはって見てくるクー。
あぁ……泣いてたから「大丈夫?」とか言った方が良かったかな?

うん、言おう……ことっとテーブルにティカップを置いて、言うことにした。

「ねぇ、大丈じょ……」

だけどそれを言い終わる前に、ぶわんっ……と空間が歪んだ。

「ふぇ!? にゃっにゃに……にゃんです……か?」

え……なに? 急になんなの?
驚いて声が出なかった。
クーも驚いたのか息を荒げてる。

……なんだか知らないけど、とっても嫌な予感がする。
あの歪んだ空間の先になにかを感じる。

毎回嫌と言う程追いかけ回されて精神的にしんどくなるそんな気配……っ!。

「まさか!」

咄嗟に身構えた。
ざっ! とソファーから立ち上がり歪んだ空間から離れる。

その瞬間だった。

「お邪魔しますよ」

メイド服を着たコスプレを強要する僕の敵がやってきた。
だから思いっきり嫌な顔を向けてやった、そしたらクスリっと笑ってきた。
ちっ……なんできたのさ、来なくて良いのに。

「どっドラゴンっ! あっあわわわわっ!」
「始めまして、私はロア様に仕えるメイド、ヴァームと申します」

深々と頭を下げるヴァーム、それに合わせてクーも震えながら頭を下げた。
そしたら、ごとんっ……と被り物が落ちてしまう。

「っ、ひゃぁ!? あっうっ……あぁぁ」
「あら、うふふふふ」

当然慌てまくるクー、それを見て口に手を当てて笑う。
……微笑ましい光景ではあるけど、僕にとっては不味い状況だ。

「うぅ……」

直ぐ様、被り物を被り直す。
それを見守ったあと、ヴァームは「さて……」と言って僕の方を向いた。

「ラキュ様、お迎えに来ました。あ、お召し物大変似合ってますよ? そのまま外出なされて私は嬉しいです」
「いや……僕だってこの姿まま出て行きたくなかったからね? 変な勘違いしないでね」
「うふふふ、照れ隠しですか? 可愛いですね」
「は? 違うから。って……なんでこっちに近付いてくるのさ」

変な事を言ったと思ったら、笑顔でこっちに近付いてきたよ。
きっ気味が悪い……だからゆっくりと後退りする。
だけど、ヴァームは構わず近づいてくる。
仕舞いには壁際まで追い詰められてしまった。

まずい……僕の感覚が言っている、ここで一緒に帰ったらダメだと。

「さぁ、帰りましょう」
「帰るなら1人で帰るよ。だから心配しなくて良いよ」

笑顔で言ってくるので、僕も笑顔で言った。
まぁ……笑顔と言っても苦笑いだけどね。
そんな僕とヴァームの様子を困ったように見てくる。

出来れば見てないで助けて欲しいんだけど……うん、無理そうだね。

「あら、それは出来ません。そんな可愛らしい服を着てるんです、100%襲われますよ?」
「その時は返り討ちにするから……ね? 安心だよね?」
「ふふふ、ラキュ様? 私がラキュ様に用があるので一緒に帰って欲しいんです。ですのでそんな言葉を言って貰っては困ります」

こっこいつ屈託の無い笑顔でさらっと本音を言ってきたよ。

「こっちが困るよ! なにさ、急に本音をぶちまけて! 用って一体……あ、やっぱ言わなくて良い! 絶対コスプレさせるんでしょ? 言われなくても分かってるよ!」

そう僕が言うと、ヴァームが驚いた様に目を見開いた。
そして、パチパチと手を叩きながら話してくる。

「あらあら、良く分かってらっしゃいますね……では帰りましょうか」
「帰らないって言って……ちょっ! こっち来るな! だっ抱きつくな! おっお姫様抱っこするな! おっおい! どっ何処へ……何処へ行くんだよっ、おい!」

僕が喋ってる間にヴァームは僕をお姫様抱っこしてきた。
結構抵抗したんだけど……動じなかった、なんなのこのメイド。
ここまで嫌がってるのにコスプレ強要してくるってなんなの?

「では、ラキュ様のご友人様? お騒がせしました……」
「え、あ……はっはい!!」

僕をお姫様抱っこしたままヴァームはお辞儀する。
そして、そのまま振り替えって玄関へと足を進める。

「えっ、ちょっ! 本当に帰るよの? ねぇちょっと! なっなんで急に黙るの? ねぇ!! なんか喋りなよ! おぉぉぉいっ!!」

……バタンッ
僕の叫びを無視して、ヴァームはクーの家から出ていった。
きっと1人残されたクーは困ってるだろう……そして、この後僕は、まぁ……うん、予想通り酷い目にあったよ。


  ……と、ハチャメチャな事があり僕は城に強制的に連れ帰されてしまう。
そう言う事があった日から、僕はたまにクーの家に通うようになった。

極稀にクーからお誘いの手紙が来る事もあった。
そして大分、クーが僕の事をラキュ様からラキュ君と呼んでくれ様になった。

これが僕とクーの出会いの話し。
これがクーの言う、あの日の話し……僕はその事を染々と思い出したのであった。

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