どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

305

「ママ! なっなんで……いるの?」
「わぁ、驚きですぅ……アヤネちゃん見付けましたぁ。でもぉ、もっと最初に見つけたんですけどねぇ。えへへへぇ」

沈黙を破るかの様に2人は話始めた。
アヤネとシズハさんはお互い近寄っていく。
って、シズハさん……隠れて様子を見てたんなら出てくれば良いのに、なんで今の今まで隠れてたんだよ。

「久し振り」
「はぁい、久し振りですねぇ」

……なんだろ、2人は親子なのに友達的なノリだ。
まぁ俺はこのノリは見た事あるから慣れたが……うん、やっぱり他の奴等はぽかーんとしてるな。

……そろそろ、俺も部屋に入ろう。
疲れで重くなった身体をゆっくり動かす、うっ……脚が重いな。

「……で、ママ。ここに何しに来たの」
「えぇ、それはですねぇ。アヤネちゃんを探しに来たんですよぉ。でも、見付けたから遊んでたんですぅ。ここは楽しかったよぉ、綺麗な洋服はあるしぃ、ご飯は美味しいしぃ、あとピアノ! ここピアノが置いてるんですよぉ」

えらい話の変わり様、同じ様な話し方をする人同士が話すとこうなるのか……。

と言うか、今の言葉で今まで起きていた謎の現象がハッキリと分かった気がする、あれは全部シズハさんのせいか……。

「勝手に人の家入っちゃダメ」

ビシッと指をシズハさんに向けて、むっとした表情を見せる。

「えぇ、でもぉ」
「でもじゃない」

皆がぽかぁんとしてるなか説教が始まった。
こうしてみると、どっちが親だか子だか分からない。
言ってしまえば姉妹に見えてしまう。

「お外は寒いしぃ、お腹すいたしぃ……仕方なかったんですぅ」
「それでも人に迷惑かけちゃダメ。あ……ここは魔王のお城じゃないから人のじゃなくて魔物のだった」
「へぇ……魔物なんだぁ。だから角とか尻尾とか生えてる人がいるんだぁ」

……なんだこのゆるゆるな会話は。
突っ込みたい、ものすっごく突っ込んでやりたいが……息が切れてて突っ込むのがしんどい。

「魔物の家に勝手に入るのもダメ、ママはもう少し常識を身に付けて」

アヤネの口から常識って言葉が出たな。
普段常識外れな行動するし、常識外れな身体能力してるのに……なんか、違和感を感じる。

「えぇ……」
「えぇじゃない」

ぷくぅ、と膨れるシズハさんの頬をアヤネが両手で押さえ付ける。
そしたら、ぷひょって音が出た。

「という訳でママ、皆に謝って」
「……はぁい」

アヤネにそう言われたシズハさんはしょんぼりと落ち込みつつ、ロア達の方を向いて頭を下げた。

「ごめんね」
「……ママが謝ったよ、だから許して」

ロア達、こんなにしっくりこない謝罪は初めてだろうな。

「え……あっえと。ゆっ許してやる? のじゃ」

ロアが混乱しつつそんな事を言う。
それに続いて、すっかり大人しくなったヴァームも……。

「……えっえぇ。ゆるし……ますよ」

と言った。
あんな妙な光景を見たら、怒る気なんて起きない。
ただバカらしく思えて、場が落ち着く……シズハさんが暴走したらアヤネがこうやって落ち着かせるんだ。

と言うか、こうしないとシズハさんは止まらない。
つまりアヤネはシズハさんのストッパーなのだ。

「…………」
「…………」

メェと鬼騎が黙っている。
2人とも、何が起きたか分からない顔をしてる。
メェ、鬼騎……気にしてはダメだ、ここは素直に受け入れてくれ。

「……」

と、ここで俺は息を整えながら改めて周りを見てみる。
うん……静かになった、良かった……あのままカオスな状況が続くかと思ったよ。

「一件落着……だな」

ぽつりと呟くと、ロアがゆっくり俺に近付いて来た。
そして、耳元に小さな声でこう言ってくる。

「シルク、こやつ本当に一児の母かえ?」
「……それは言ってやるな」

確かに話す事は子供っぽいし、行動も子供そのもの……。
だが、あれでも一児の母で凄くいい人なんだから。

「なるほどのぅ……。しかしあれじゃな、静かになったが、ふに落ちん静けさじゃな」
「まっまぁ……静かになったから、いっ良いじゃない……か」

ずっとあのままよりかは遥かにましだ。

「まぁ、そうじゃな。しかしシルクよ……なぜそんなにも息を切らしておる?」
「色々……あったんだよ」

苦笑いをしながらそう言うと、ロアは暫く黙ったあと同じく苦笑しながら。

「ふむ、そうか」

そう言った、そして腕を組んで。

「なんか、あれで丸くまとめられたのは、やはり不服じゃのぅ」

眉をピクピクさせながら言った。
かなり怒ってる……シズハさんを睨んでる、だけどシズハさんは笑顔を見せて手を振ってくる。

「ちっ……」

それを見て舌打ち。
はっははは……静かにはなったが、丸く収まるのはもう少し掛かりそうだな……。

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