どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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あの後、シズハさんはハロウィンの知識を披露した後、突然「話すの飽きましたぁ」と言って部屋を飛び出していった。

ぽかーんと口を開けていたロアは暫くしてから「なっなんじゃあの勝手なやつは! やはり好きになれんっ」とか言って追い掛けていった。

残された俺とアヤネは顔を見合わせ、俺が……「久々に2人でゆっくるするか」と言った。
そしたら「うん」と返ってきた。

シズハさんの行動は謎が多すぎる。
それは昔から分かっていたが、改めて思ったよ。

で……今アヤネとゆっくりしている。
2人して、ソファーに座ってぽけぇっとする。

「なぁ、聞きたい事があるんだが……良いか?」
「なぁに?」

このまま黙ってるのもあれなので話し掛けてみた。

「シズハさん、このままここで暮らすのか?」

さっきまで好き勝手話して何処かに言ったが……あのままどうするんだ?

「分かんない」
「……だよな」

多分だが「楽しそうだからぁ、ここに暮らしまぁす」とか言いそうだ。
……そうなったら、俺の苦労の種が増えそうだ。

なんか、ここに長く住むに連れて苦労の種が増えてる気がする。

「ママに聞いてみよっか?」
「あぁ……それは任せる」
「ん、任された」

ぐっと手を握るアヤネ、ふんすーと鼻息して気合いを入れる。
なんか、気合いを入れてる様だが……そこまで入れなくても良いんじゃないか?

「ね、シルク……」

なんて疑問を感じてたら、俺の裾をちょいちょい引っ張ってくる。

「どうした?」
「あのね、大丈夫?」
「……え?」

大丈夫? なんの事だ? んー……と考えてみる、しかし思い付かない、アヤネは何に対して俺に「大丈夫?」と言ったんだ?

「さっき息切らしてたよ、もう大丈夫?」
「ん? あぁ……その事か」

一体なんの事かと思った、そうか……その心配だ。

「その事なら大丈夫だ」
「そう……良かった」

気遣ってくれてたのか……これは素直に嬉しいな。

「シルク、よわよわだから心配だったの」
「よっよわよわ……」

さりげに酷い……ほっ本当に心配してくれてるのか?
まぁ、にこっとしてるから本当なんだろうが……良く分からなくなってきたな。

「もっと体力つけないとダメ」
「それは常々自分でもそう思ってる」

特にヴァームに追われてる時は特にな……。

「そう。だったら鍛えてあげよっか?」

ん? アヤネが俺を鍛える……なるほど、それは良いかも知れない。
アヤネは強い、それに昔からの知り合いで身が入りやすい。
だから頼んで見ようかな……と思った時だ、アヤネが先に喋ってきた。

「毎日地獄の特訓してあげる」
「あ、いや……自分でするから大丈夫だ」

即答だ、地獄の……の辺りから反応して直ぐに言ってやった。
ここでも地獄に近いものを見せられてるのに、鍛えるのまで地獄だなんて断る!

それに、アヤネの言う地獄って表現が俺の想像を遥かに越えてそうで恐い、だから断った。

そしたら、一気にしゅんっ……と落ち込んだ。

「……どうしても?」
「どうしてもだ」
「私、シルクをムキムキに出来るよ」
「いや、そこまでなりたく無いんだ。軽く筋肉付ける程度で良いんだ」
「そこの所も上手くやれるよ? 私賢いから」
「きっ気持ちは嬉しいが……こう言うのは自分1人でやった方が良いだろ?」

偉くぐいぐい頼んでくる……どうしても俺を鍛えたいらしい。
だが……良いのだ、俺は地獄を見たくないんだ!

「そだね、シルクの言う通りかも」
「だろ?」
「うん」

ふぅ……なんとか折れてくれた。
だが、アヤネは俺にどう言う風に鍛えようとしてたんだ? 気になるが聞くと後悔しそうだから聞かないでおこう。

「あ」

と、考えてたら……何か思い出したのか俺の肩をがしっ! の掴んできた。

「ハロウィン……楽しみだね、実はそれを言いたかったの」

おっおぉ……そうなのか、だったらそれを言えば良かったのに。
あ、そうか……俺が先に話したから話す機会が無かったんだな。

「そっそうなのか、何時も通り唐突に言ってきたな」
「そんなに褒めちゃダメ」
「いや、褒めてないぞ」
「……そうなの?」

くりゃって小首を傾げるアヤネ、そしたら黒髪がふわりと揺れる。
可愛い……って思ってしまった。

顔が紅くなるのを隠しつつ黙っていると。

「ハロウィン……するのかな?」

話しを変えてきた。
ここは突っ込まずに話しに乗るか。

「あぁ、そんな話ししてたからな。するんじゃないか?」
「そうだったら嬉しい……」

にへぇって笑うアヤネ、本当に嬉しそうだ。 

「ねぇ」
「ん?」

アヤネは爛々と目を輝かしてる。
そのまま俺の手を掴んでくる……どきぃってなった俺は「ひゃっ」て声を上げてしまった。

「ハロウィンやるなら……私が楽しましてあげる」
「……そっそうか」

手を握られたままだから、キョドった感じで返事してしまった。

「私、頑張るね」 
「おっおぉ……頑張ってくれ」

何を頑張るのか知らないが……うっうん、頑張るなら頑張ってくれ。

恐らく俺だけが変に緊張したまま、こんな時間は暫く続く。

この時、俺は気付いていなかった。
アヤネが何を思って「私、頑張るね」と喋っていたのかを……。

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