どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「あっあのっ! おっおおっお茶でしゅっ」
「あ、うん……ありがと」

たどたどしい動きをするクータンは、ことんっとガラスのコップをテーブルに置く。

現在、恩返しをされている……僕が困惑してるのに構わずもてなしてくる。
何度も「気にしないで」とは言ってるんだけど「だっダメですっ」と返される。
いやぁ、まいったね……もうどうする事も出来ないからこうやってゆったり座ってるんだ。
……このソファ、座り心地良いなぁ。

「えっえとっ、なっ何か……たっ食べ……たたたっ食べましゅ……きゃ?」
「きゃ? あぁ……食べますかって事か……えと、お構い無く」

盛大に噛んでるねぇ……。
と言うか、さっきも言ったけど……良く喋るね。
あぁ、さっきと比べたらの話ね。

だって、外歩いてた時はなんにも喋んなかったんだもん。
気まずかったよ、とってもね……まぁ、その気持ちは今も変わらないんだけどね。

あぁ……わたわた慌ただしく動いて、騒がしいなぁ。
少し落ち着きなよ、ドタバタした動きでキッチンへ向かうクータン……。

カチャンっ! ガサガサっ! バタァンッ、ドタンッ!

そして豪快に棚を開けたり、その中を漁ったりしてる……あぁあ、折角のアンティーク家具が傷付くよ?

ん? こっちに来た。

「なっなにを言うんですかっ、らっラキュさんは……あっあたいのけっ怪我を……って、ラキュ? ……っ!! ラッラキュって魔王様の娘のロア様の弟のラキュ様ぁ!? しっしちゅっ、しちゅちゅっれっれれれっれいしましたぁぁっ!」

……って、偉く間を開けて返事が返って来たね。
手をブンブン振りながら必至に言ってきてるよ……で、今更僕の事に気付くんだね。

まぁ、それに関しては別に良いんだけどね、だからそんなに深々と頭を下げなくても良いよ。

「うっ……あっうぅ、……あぅ」

あぁ、外にいた時みたいになったね……なんと言うか、ある意味忙しい魔物だね。


 「どう? 落ち着いた?」

僕の正面にあるソファーに座るクータンにそう話し掛けると、ぶんぶんっと首を振って「はひっ!」と大声で答えてくれた。

少し落ち着いたのか、喋り方はさっきの様に戻ったね、良かった……これで会話が出来るね。

「あっあのっ!?」

さて……なんて声をかけようか、なんて事を考えてたらクータンが前のめりになって喋ってきた。

「なっなに?」
「えっえとっ、かっ数々のしっ失礼な、たったたっ態度……をっををっをぅぇぇぇっ!!」

うっうわっ、なっなに? 急にうずくまったよ? まっまさか……はっ吐いちゃった?

「ちょっ、えっ! だっ大丈夫!?」
「すっすすっすみません……あっあたい……かっ会話するのって、にっ苦手で……えっえずいちゃい……まし……た。いつもの事なので、きっ気にしないで……くっくだっくだしゃい」

いや、大丈夫に見えないけど? 顔色めっちゃ悪いよ?

「あっあはは……あっあたいって、きょっ極度の会話下手で、そっ外にでっ出ると……緊張して、こっ声も……だっ出せなくなるんでっです。でっでも、家の中だと……すっ少しまっマシになるんです。まぁでも……こっこの通り、吐きそうになるわ、噛み噛みだわ……散々な話し方なんですけどね……本音を言うと、これ以上喋ると可笑しくなります」

かと思ったら、声のトーンを落として急にずぅぅん……て擬音が鳴る位暗い表情になった。
て言うか……笑ってるね、って言っても明るい方じゃない、乾いた笑い方の方だ。

「なっなんか……ごめんなさい」
「あ、いや……気にしてないから良いよ」
「ふふっふふふふ……らっラキュ様は……やっ優しい……あ、すいません。もう……むりっ、会話ムリ……コれ以ジョウするト……うぷっ!」

手で口を押さえて、悪かった顔色が更に悪くなってしまう。
うそ、会話しただけで吐くの? ここまで会話下手な魔物……初めて見たよ。

心配になって「大丈夫?」と声を掛けようかと思った時。

急に目をカッ! と開いたクータンはいきなり立ち上がる。
そして、僕の視線の奥にある扉の方へ音速超えたんじゃない? って位のスピードで走っていった。

……がこんっ、がしゃん。
おっ音が聞こえる。
あの扉の向こうで何やってるの? と言うか、1人ここで放置された僕は、何をすれば良いの?

途方にくれていた時。
ガチャッ……。
扉は開かれた、そこには……カボチャの被り物を被ったクータン……だよね? 同じ服装だし……えと、クータンらしき魔物が出て来た。

その娘は何事も無かったかの様に、ゆっくりと元の席まで歩いてきて座る。

「ふぅ……。おっお待たせしました。さぁ、いっ今から恩返しを……しますので、かっ覚悟して……ください」
「待って、そのまま進めないで。色々可笑しすぎて混乱してるから」

ばっ! と手を前に出して言うと、クータン? は首を横に少し傾ける。

そして、ぽんっと手を叩き……。

「あ、あぁ……この被り物ですか? えへへ、これ……あたいの自信作なんです。被ると視線が……きっ気にならなくなって、はっ話し易いんです。まっまぁ……ちゃんと緊張はしちゃうんですけど……ね」

と言ってきた。
なっなるほど、視線が気にならなくなるね……だからその被り物を被って来たと。

「じゃぁ、おっ恩返しをお見舞いしますっっ! かっ覚悟してくだしゃいっ!」

いっ言い回しが荒っぽい……クータンの言う通り、ちゃんと緊張してるね。
と、ガッチガチに緊張してるクータン、別に恩なんて返す必要なんて無いんだけどね……何度もそう言ってるのに。

だって、怪我させたの僕だし……お返しを貰うのは失礼だよ。
でも……これ、断れないなぁ。

だって、すっごい前屈みで言ってきてるもん。
きっと、被り物の中の目は血走ってるに違いない。

「わっ分かった、有り難く受け取らせて貰うよ……」

だからここは素直に恩を受け取ろう。

「はっはいっ! でっでわっ、色々しますっ! 」
「え、それは……」
「えっ遠慮はむっ無用ですよっ!」

ざっくりとした事を話した後、クータンはキッチンへ小走りで向かっていった。

「……はぁ。やれやれ、こりゃ城に帰るのが遅くなりそうだね」

勘だけどそう思う。
朝でて夜遅くに帰る、と言う事になりそうだ……クータンを見てそう思ったんだ。
あの手のタイプは、「まっまだ恩を返せてませんっ!」とか言って引き留めるタイプ……だと思う。
まぁ、僕もただ黙ってるだけじゃなくて、「もう充分だよ」って言うつもりなんだけど、どうなるんだろうね……自分でも分からないよ。

ぎしっ……。
ふっかふかの深く腰掛け直し、天を仰ぐ。
取り合えず、帰った時に姉上に言う言い訳を考えておこうかな。

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