どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「で? 話ってなんだ?」

静かなスタッフルーム、そこにいるのは俺とラムただ2人。

少しシリアスな雰囲気が漂っている。
ラムがこれから話す事は、何か大切な事なんだろう。
と、俺は予想する。

「あら、そんな畏まらなくてもよろしくてよ? ちょっぴりシリアスな感じになりましたが、するのは世間話ですわ」

……あれ? 違った? 予想が外れた?
シリアスな話じゃなくて世間話か、畏まって損してしまった。

「ですから楽にしてくださいませ」
「……」

にこっ。
ラムは笑顔を見せる、断定は出来ないが、何か裏を感じてしまう。

俺の中の怪しさセンサーが鳴っている。
……今からするのは本当に世間話か?

そう疑いながら、髪の毛を弄る。
ラムは、ぷるんぷるんと身体を振るわせながら、まだにこにこしてる。

「では、お話しますよ?」
「あぁ」

そう言わなくても、さっさと話してくれ。
なんて思いつつ返事する。

「シルク様」
「ん?」
「ハロウィンについて、詳しくお話して欲しいですわ」

そしたら、やっと話した。
で、その話と言うのが……ラムの言った通り世間話だった。

世間話だったんだが……ハロウィンについて教えろだと? 何故今それを聞く? 今じゃなくても聞ける時間はあるんじゃないか?

そしてなにより、何故それをラムが知りたがるんだ?
疑問が次々沸いて出てくる。

「なぜそれを知りたいんだ?」

なので聞いてみた。
そしたら、こう返ってきた。

「そんなのどうでも良いですわっ、早く教えて下さいですのっ」

……まっまぁ、どうでも良いんだが。
何か裏を感じるんだよな、別に教えても良いんだが……教えてしまっても良いのか?

そんな考えが出てくるんだ。
「ふむっ」そう呟きながら腕を組む。

そしたら、ラムがテーブルをぽにょんぽにょん叩きながら「はーやーくー」と言ってくる。

…………怪しすぎる、なんでこうも知りたがるんだ?
そう思いながらも「まぁ、教えても問題は無いだろう」そう思って教える事にした。

「えと、ハロウィンと言うのは……」

俺が話し出すと、それを食い入るかの様に前のめりで話を聞いてくる。
その様子に驚きながら、俺の知る限りのハロウィン知識を教えた。


「へぇ、トリックオアトリート……ですか」
「そう、お菓子をくれないと悪戯するぞっ、て奴だな」

ハロウィン、人間が仮装して色んな家に行って「トリックオアトリート」と言う。
そしたら、その家の人がお菓子をくれるんだ。

俺が子供の頃も仮装して色んな家を回ってお菓子を貰った。
その時アヤネも一緒だった、沢山お菓子を貰って笑いあったのは今でも良い思い出だ。

「ハロウィンは、子供が大人からお菓子を貰う日ですの?」
「いや、元々そう言う日では無かった……と思う。悪いな、実際どういう日なのかは俺も分かってないんだ」

そう、今話したのは今の人間達で作った風習だと聞いた事がある。
実際、どうなのかは言った通り分からない。

「いえ、構いませんわ。そのシルク様の知識だけでも良いのですわ」
「そうか? なら良いんだが」

わくわくした様子で話すラム。
聞いてる時もそうだが、俺の話を聞いて凄く楽しそうにしてる。
特に「トリックオアトリート」の所を話した時からだ。

「ねぇ、シルク様?」
「なんだ?」
「お菓子を貰えなかった時、貰う側がお仕置きされるなんて事は……」
「無いから安心しろ」
「……つまらないですわ」

薄々感ずいてはいたが、やはりそう言う意味で聞いていたのか。
ほんと、どうしようもないドM脳だ。

「あ、では今からその風習を作りませんこと? 絶対に流行り……」
「流行る事はない、俺が絶対に流行らせない」

かっ!
目を見開いて、言い切ってやる。
そんな風習作ってなるものか!

俺の言葉を聞くと、あからさまに落ち込む。
「意地悪……」と、ぼそっと呟く。
だが直ぐに、ぱっ! とあかるい表情になって。

「今のは焦らしプレイですの!?」

と叫ぶ。
なのですかさず……。

「違う!」

と言ってやった。

「……つまらないですわ。ハロウィンと言うのは面白くないですわね」
「ごめんな、ドMには面白くない日で。て言うか、お前の様にそれ目的で楽しむ日じゃないからな?」
「あっても良いじゃありませんか! なんで作らないですの?」
「あってたまるか! って、俺に怒るな!」

頭が痛くなってきた。
もう、突っ込むのもしんどい。

「……まぁ良いですわ。で、シルク様?」
「今度はなんだよ」

次、変な事を言ったら無視するからな。

「ハロウィンはお菓子を貰うだけの日なんですの?」
「ん、いや違うぞ」

まともな話だったから話してやろう。
ハロウィンは、子供が大人にお菓子を貰う日だ。

しかし、ハロウィンにはもう1つの楽しみ方がある。

「大人も子供も、色な物に仮装するんだよ。お化けとかゾンビとかに」
「まぁ、楽しそうなですわ。まるでお祭りですわっ」

むにょんっ、と手を合わせるラム。
つまらなさそうな顔は何処へやら、瞬時に明るい顔になった。

「ハロウィンは祭日だからな、祭なのはあってるぞ」
「なるほど、シルク様のいた街でもそうでしたの?」
「あぁ、その日は殆どの人が仮装して街を歩いてたりしたな」

その日は、この街みたいに変わった人達が練り歩くのが見れた。
俺は仮装しなかったが、見てて楽しかったのは覚えてる。

「あぁ因みに。お菓子を貰うのも、仮装するのも夜にするんだ」
「夜に……ですの?」
「あぁ」

夜の暗さもあって、その楽しさは倍増するんだよな。
ゾンビやお化けの仮装して奴が夜に歩くんだ。

仮装だから怖くない、寧ろ楽しい。
だから見てて楽しいんだ。
俺のいた街では、仮装の他に屋台も出てたな。
ゾンビの仮装した奴がフランクフルト買うのを見た時は笑ってしまった。

「それだけ聞ければ良いですわ、ありがとうですの」

と、昔の事を思い出してたらラムは立ち上がって、ペコリと頭を下げる。
そして俺の返事を聞かずに嬉しそうにスキップしながら裏口から出ていってしまった。

「……なんだ、もう良いのか。折角だから昔の事を話そうと思ったのに」

そう呟きながら肘をつく。
そのまま暫くぼぉっとする。

よし、あと10分くらいしたら営業を再開しよう。
そう思いつつただぼぉっとする。


…………この時、俺は過ちを犯している事に気がついていない。
それに気付いたのは……退路を絶たれた時だと言う事は、知るよしもなかった。

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