どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

35

「っ!」

身体に強い衝撃を感じた、凄く懐かしい出来事を見た……ナハトと出会った時の思い出だ。

「………」

寝返りをうって窓の方を見るとカーテンの隙間から外の景色が見える、まだ、外が暗い、まだ夜か? いや俺が寝込んだのは夜中だから夜明け前かも知れないな……。

「しかし……懐かしい夢を見たな」

俺が好きになった人、ナハトの出会いの思い出だ……何故そんな夢を今見たのかは分からない。

「ナハトは今頃どうしてるんだ?」

あの約束を交わして5年、もう姿が変わってるんだろう……深く考える俺、その時急に頭痛を感じる、風邪はまだ治ってないらしいく身体がまだしんどい。

「もう少し寝ているか……」

布団を深く被り目をつむる、そう言えば今アヤネはどうしてる? 俺がいなくなって心配してるか? 母さんは俺の事を心配してるだろうな……そして父さんは……どうでもいいや。

暫く目を瞑っているのだが一向に寝れる気配がない、どうしようか? こんな時はどうすれば良い? そう思った時だ、突如扉が開く。

「……! シルク起きたのか」

扉が開かれた瞬間ロアが姿を現す、驚いた表情でそう言って俺の元へ近付いてくる。

「ロアか……っ!」

この瞬間、俺の脳内にある人が思い浮かんだ。

「どうした? まだ体調が悪いのかえ?」

ロアの長い紫髪、褐色肌、そしてその顔立ち……。

「な……なは……と?」
「ん?」

ナハト…そう、ロアにナハトの姿を重ねてしまう、と言うか似ている……そっくりなんてレベルじゃない、呆けている俺の顔を見ながらロアは俺の元へやって来る、すると俺の額に乗っていたタオルを手に取り「温いな…」と呟く、そしてロアが俺の額に手を乗せる。

「まだ熱いのぅ」

この手の温もり……何だか懐かしい感じがする、何でこんな感じがするんだろう?

「まだ寝ていないといけないのようじゃの……今のシルクは色々と可愛いが暫くスキンシップは自重するとしようかの」

くふふっと笑う、その仕草もその表情もナハトは良くしていた、どうしてだ? 何故こんなにも重なって見える?

「ん? さっきからどうしたのじゃ? いつに無くわらわの顔を見て……」
「いっいや! なんでもない……」

小首を傾げるロア、熱で頭が可笑しくなってるのか? 目の前にいるのはナハトじゃないと言うのに……。

「そうか……」

少し顔を赤く染めるロアは水の入った器にタオルを浸け、しっかりと水気を絞り俺の額に乗せる。

「シルク……」

何故か寂しそうに話し掛けるロア、どうしたんだ? 何か様子が変だぞ。

「ん?」

何か言いたい事があるのか? そう思って優しく話し掛けてみる、すると、俺の目を真っ直ぐ見つめ喋りる。

「シルクは今のわらわはかっ完璧だと思うか?」
「すまん……質問の意味が分からないが?」
「そっそうじゃよな……すまぬ」

どっどうして悲しい顔をする? なんだ? 今のロアは何処か可笑しいぞ。

「まだ寝ていると良い……辛いだろ?」
「ん……まぁ……な」

話が急に切り替わった、さっき悲しい表情をしていたのにうって変わって笑顔になる、そこに疑問を感じたがダルさ故に気にならなかった。
するとロアは俺の顔の近くまで自分の顔を持って来る。

「おい……スキンシップはしないんじゃなかったのか?」
「これはおまじないじゃから問題ない」

そう言って軽くキスを交わしてくる。

「誤魔化すなよ……」
「くふふふ、まぁ良いではないか」

……ぶれない奴だな、その時だ! 俺はふとある事に気付いた。

「ロア、その指どうしたんだ?」
「んう?」

俺がそう言うとロアは自分の指を見る、そこには火傷があった。

「火傷してるぞ? 大丈夫か?」
「ふぇ!? だっだだだっ大丈夫だ問題ない!」

ぼんっーーとロアの顔が赤くなり後退り、何故そんなに恥ずかしがる必用がある?

「俺の看病をしてくれるのは有り難いが……自分の事も大切にしろよ?」
「……ぅっぅぅ! わっ分かっておるわ! すっ少ししたら飯を持って来る! もう少し寝ておれ! わらわはもう行くからな!」

だだだっーー
と、勢い良く出ていくロア、変な奴だなぁ……あっ! 扉開けっ放しで行ったな……仕方無い自分で閉めるか、そう思って身体を起こそうとした時だ。
ぴちょんっーー
と水の滴る音が聞こえた、気になってその方向を見てみる。

「シルクさん、お身体は大丈夫ですの?」
「らっラム!?」

何時出て来たのか知れないが部屋の奥にラムがいた、きらきらと半透明の身体が光っている。

「何処から湧いてきたんだよ!」
「天井からずっと見ていましたの、で? お身体は大丈夫ですの?」

いやスルーするなよ、色々大丈夫じゃないからな!

「……だっ大丈夫だ」

とっ取り敢えず今はこう言っておこう、体調が悪いから下手に突っ込んでラムを喜ばせる様な事はしたくない。

「そう……それは良かったですの」

ラムはそう呟いて俺の方へ歩いて来る。

「それは何よりですわ……お早くお身体を治してくださいね?」
「あっあぁ……」

そう言いながら、ラムが俺を見つめてくる、ん? 目尻が上がってる……もしかして怒ってるのか?

「シルクさん……」

そんなラムに妙なプレッシャーを感じる、するとラムが俺に指を指す。

「早くロア様の思いに気付きなさいですの!」

おっ思いには気付いてるつもりだが? ロアは俺の事が好きで何時もスキンシップを仕掛けてくる、俺の事が好きだから、無茶苦茶な事をするんだよな?

「では、あたしは帰りますの」
「………え?」

それだけ言って、本当に帰っていくラム……なっ何だ? 本当にラムは何をしに来たんだ? パタンーーと扉を閉めて部屋から出て言ってしまう。

「ロアの気持ち……か」

ラムの言っていたロアの気持ち…まだ気がついていない事があるのか? だったらロアの気持ちって一体何なんだ? ……ダメだ、考えても良く分からない、とりあえず今は考えるのはよそう、身体が治ったら考えれば良い……そう思って俺は目を瞑る。
この時そう思っていたのだがそれは叶う事はなかった、何故なら風邪がまだ治っていないからだった……この時俺は気付いていなかった、俺は身体に起きた変化の事をまだ知らないでいた……。

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