どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

229

日が傾いて黄昏時になった頃、俺達のお腹は「腹減った」と言わんばかりに小さく鳴った。

「結局、夕食出来るまで居座りやがって……覚えとれよ?」
「ごめん、後々困る様な事は忘れる様にしてるんだ。だから覚えてないよ」

あれから、頼まれていた犯人探しをせずに、ずっとここに居座ってしまった俺とラキュ。

これがヴァームに知られたら確実に怒られるだろう。
そんな恐さがあるのに居座った原因は……ラキュと鬼騎が喧嘩しない為だ。

あのまま、俺だけ出ていけば良かったんだが……放っておいたら、喧嘩しそうだったからな。

だから、離れられなかったんだ。

「……くっ、お前が変な事言うからドキドキしてきただろうがい!」
「え、なんで? なんでドキドキしてるのかな?」
「めっメェさんが、こっこここっここに来るからだよ!」
「うわっ、意識しまくりだね。恥ずかしくないの?」
「はっ恥ずかしいわっ、見て分かれボケェ!」

な? こんな風に喧嘩を始めるんだよ。
止める奴がいないと手が出そうな勢いだからな……毎度思うが、なんで会う度に喧嘩するんだろうな。

「なぁ、なんで喧嘩ばっかするんだ?」

気になったので聞いてみた。
すると、2人は俺を見て口々に答えた。

「初めて会った時からヘタレそうで気に食わなかったからだよ」
「初めてこいつを見た時、人をからかうのが生き甲斐ですって顔をしとったからだ」

あぁ……なるほど、会った瞬間から仲が悪かったんだな。

もう、そこまで行くと「そっそうか」と言うしかないので、そう言った。

そしたら、ラキュはくすりと笑いだす。

「ま、思った通りヘタレだったから僕の予想は当たってたよ」

それを聞いた鬼騎は、ピクリと眉を動かした後、口元を緩ませ言い返す。

「俺の方も予想が大当たりだ。人をからかって喜ぶ様が腹がたって仕方ないな」

……空気が冷ややかになった。
なにこれ、ここにいる俺、凄く気まずいんだが。

「くはははははっ」
「かっかっかっかっ」

うわっ、お互い笑い始めた。
あ、でも……目が笑ってないな。
なんて乾いた笑いなんだろう、聞いていて恐怖を感じるよ。

「ちょっと表出よっか」
「あぁ? 上等だこら」

……あぁ。
口喧嘩で終わらずに本当の喧嘩が始まってしまう。

「2人供、落ち着けって……」

睨み合う2人の視界に入って止める俺。

「シルク君、これは喧嘩じゃないんだよ。口で言っても分からないから、拳で語り合うんだよ」
「そうじゃ、だから何の問題もない」
「いや、問題あるからな! 不良みたいな事言うな!」

もう、お互い睨み合ってバチバチだ、収まりようがない。

と、その時だ。
ガチャッ……扉が開いて声が聞こえた。

「飯じゃぁっ」
「お腹すいた」
「腹ペコですぅ」
「お腹空きましたわ……」
「鬼騎さん、お料理の準備は出来ていますか?」

ぞろぞろと女性陣が入ってきた。
皆、お腹を擦ったり空腹そうな顔をしていたりしていた。

おいおい、魔王城のフルメンバーが揃ったんじゃないか?

いや、ケールがいないから揃ってないな。
と言うか……ラム、久し振りに見た気がする。

確か、ヴァームに怒られた時以来見てないんだよな……元気そうにぷるぷるして安心したよ。

わざと、お仕置きされて昇天したもんだと思ったが、そんな事は無かったな。
本当に良かったよ、色んな意味で……。

「あ、皆……珍しいね、揃ってくるなんて」

先程の睨んだ顔は何処へやら、何事もなかったかの様に笑顔を見せる。
鬼騎は腕を組んで、くるっと回って、背中を見せた。

2人供、変わり身早いな。

「うふふ、私とアヤネとメェはずっと一緒にいたのですが……ここへ来る時、偶然皆様に出会ったんです」

と説明するヴァーム。
ほぉ、これまた珍しいメンバーで一緒にいたな……アヤネがメェの所へ行ってたのは知ってたが、まさかヴァームと一緒だとは思わなかった。

「ヴァームの言う通りじゃ、わらわは犯人探しをしてる時に、夕食時じゃから一緒に行きましょうと誘われてな……お言葉に甘えて一緒に来たのじゃ」

ロアよ、お前は頑張って犯人探しをしてたんだな。
なのに俺は休憩していたよ……ごめんな。

「あたしは縛られた縄を自力でほどいて、ここに来ましたわ」

ラム、お前は一体何をされてたんだ?
あ、ヴァームがくすくす笑ってる……何したんだよ、この竜人は。

なんて、口々に喋った後、皆が席に着く。
と、その時……俺は気付いてしまった。

メェ……服装はいつも通りなのに、何かが違うな。
髪型もいつも通り……なのに、何かが違って見える。

……これは気のせいか?
そう思うも、今は特に気にしなかった。

「さ、鬼騎よ! 今宵のご飯はなんじゃ!」

隣に座るロアが元気な声をあげた。
今日は色々会ったが、今から夕食の時間が始まる。

さて、今はこの時間を堪能しようか。

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