どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

215

「あぁぁ……朝から酷く疲れたよ」

現在、俺とロアは食堂にいる。
遅れてラキュやアヤネ、メェと鬼騎がやってきた。
ラムは……まだ来ていない、きっとヴァームにお仕置き、いや……ラムにとってはご褒美か? それを受けているんだろう。

「そうだな……俺も疲れた」

カウンターに、べたぁっと顔をつけるラキュ、その表情は疲れきっていた。
朝からあんな目に合えば当然だろう。

同じく俺も疲れてる。
当然、疲れてるのは俺とラキュだけじゃない……皆疲れてるんだ。

「むぅちゃんは怒りすぎ……まだキンキン響いてる……耳が痛い」
「うぇぇ、メェもですよぉ」

椅子の背もたれにぐでぇっともたれ掛かるアヤネとメェ……昨日、なんか喧嘩? してたみたいなのに同じ体制をしていて、仲が良いな。

「しっかし……皆が来たのは昼過ぎと来たか、こりゃヴァームは凄く怒ってるようじゃのぅ」

俺の隣の椅子に座り肘を つきながら難しい顔をしているロア。
そうだよな、普通説教でこんなに長くならないぞ? あの説教、朝から始まったんだからな。

で、その説教をご褒美ととるあのスライムは少し頭が可笑しいんじゃないか? と思うのは俺だけだろうか。

「まぁ、なんつっても自分の大切にしとる服を盗まれたんじゃ怒るんは無理もないだろう」

手慣れた手付きでフライパンを振いながら語る鬼騎、まぁそりゃそうだな。
と言うか、口に出しては言えないが、その件に関しては盗んだ奴に盗んでくれてありがとうと言いたいよ。

「なんかあれじゃの。海から帰って来て可笑しな事が続いておる気がするのぅ」
「あぁ、そうかもね。姉上の言う通りだよ」

そうだな……。
帰ってきたら城の扉は開いてたしな、ヴァームの服の盗難の他に何か起こりそうで怖い。
俺はそう思ってるよ。

「あぁ、その事なんだが、ちゃっと聞いてくれや」

コトッ……。
とフライパンをコンロに置いた後、火を止める鬼騎、そこからフライパンで炒めていた物をトングを使い皿に盛っていく。

どうやら今日の昼飯はペペロンチーノらしい。
唐辛子の香りが食欲をかきたてるな。

……と、なんか鬼騎が気になる事を言ったな。

「なんかあったの脳筋」
「あったから聞いてくれやって言ったんだろうがシスコン」

あ、またこの2人はこりもせずにまた口喧嘩か? さっき疲れたって言ったのに疲れる事をするなよ。

「こらっ止めんか! で? 何か起こったのかえ? もしそうなら話すが良いのじゃ」

おぉ……。
また口喧嘩が始まるのかと思ったが、瞬時にロアが止めてくれた。
ラキュと鬼騎は気まずい顔をする、それから鬼騎は少し間を開けた後、話始めた。

「……気付いたのは最近なんだが、日が経つ度に食材が少しずつ減っとる気がするんだ」

その話を聞いた時、皆は口をぽかーんと開けた。
なんと言うか、その……もっと大変な事件でも起きてるのかと思ったら、全然そんな事は無かった。

「えと……鬼騎? それって知らない内に食材を多く使ってたって事じゃないのか?」

と、そんな感じに思った事を口にしてみる。
そしたら、鬼騎は首を横に振った。

「いや、俺は皆の食べる分を計算に入れて食材を買い込んどる……しかしだ、最近になって計算があわん、誰か盗み食いでもしとるんか?」

おっおぉ……さらっと凄い事を言ったな。
皆の食べる分を計算してるって、料理の腕だけじゃなくそう言う所も凄いんだな……まるで母さんみたいだ。

って、鬼騎……ラキュの方を見てるな、なんと言うか……疑いの目線? まぁそう言う風に見つめている。

「………ねぇ、なんで僕の方を向くのかな? もしかして意味も無く疑ってるの?」

それに気付いたラキュは、瞳をギラつかせ睨む。

「まだ疑っとるとか言っとらんだろうが、そう言う事を言うって事は、お前が盗み食いしとんのか?」
「はぁぁ? 盗み食いするのはトマト料理だけだし! 他の料理は盗み食いしないよ」
「トマト料理は盗み食いしとるだろうが! さらっと白状すんなボケぇっ!」
「ごめんねぇ、言うタイミング間違えたよ」

……あ、始まった。
お互い顔を近付けて睨み合って言い合う。
そんな光景に苦笑いしてると、ロアがドンッ! とカウンターを叩く、そして一言……。

「黙れ」
「「……はい」」

2人同時に返事して黙り込んでしまった。
ロア、今の凄く低い声だったな……。
ヴァームと同じくらい恐かったぞ。
なんと言うか、その……魔王の威厳? と言う奴を見たな。

「……ね、パスタ食べて良い? お腹減った」
「アヤネ、この状況で良く言えたな」

立ち上がって、カウンターの向かいにある、パスタが盛られた皿を持ち上げる。
口からはヨダレが垂れてる、アヤネは場の空気より、自分の空腹の方が大切なんだな。

「ダメなの?」
「ダメなのかは鬼騎に聞いてくれ」
「分かった、パスタ食べて良い?」

あ、本当に聞いた。
それに対して鬼騎は戸惑った後、「おっおぅ……ちと待て、今取り皿を配る」と言って、アヤネが持ってる皿を自分の側に持っていく。

「あぁ……なんと言うか、服の盗難、食材の持ち去り、何とも微妙な事件を起こす物じゃな……迷惑な犯人め」

はぁ……。
大きなため息を吐くロア、そして俺の方を見てこう言ってくる。

「シルクも気を付けるのじゃよ?」
「あぁ……用心するよ」

今の所、大した事件は起こっていないが……用心するにこした事はないだろう。

「まぁ一旦その話は忘れて腹ごしらえせんとな、沢山食ってくれや」
「うわぁぁいっ、きぃ君のご飯ですぅ」

何時の間にか取り皿に盛られたパスタを、何時の間にか配っていた鬼騎。

それに喜ぶメェ、鬼騎はそれを見て「おっおふぅっ、あっありごとございまですっ」と何時もの様にキョドっている。

鬼騎の言う通り、一旦忘れようか。
まっ、その間にまた事件が起こった時は、目も当てられないんだけどな。

そんな事を思いつつ、俺は「いただきます」そう言って昼食にありついていく。

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