どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

214

あれからロアと別れて1人、城を彷徨うろついて、偶然ラキュに出会ったり、鬼騎と出会ったりと、そんな1日を過ごした俺。

その翌日の事だった。
今日も天気が良い魔王城、その城内では……恐ろしい事が起きていた。

「皆さん、これからお説教しますから……覚悟してください」

俺達は、ロアの部屋で正座をさせられていた。
いや、正確に言うならば……ヴァームを除く全員が正座させられているのだ。

いやぁ驚いた、朝起きて朝食を済ませた瞬間、ヴァームが「皆さん、少しお話があります」と良いながら食堂に現れた。

そこで皆が集められて「取り敢えず、正座しましょうか……言い訳は無用です、しないと色々と折ります」と言われて即言う事を聞いた。

……で、今に至ると言うわけだ。

ヴァームにバレないようにこっそり、辺りを見渡してみると皆、いや1人を除いて暗い顔をしている。
あの鬼騎までもだ、それほどまでにヴァームが恐いのだ。
因みに、誰を除くのかと言うと……ラムだ。
1人だけ鼻息? ふんふん鳴らして興奮している、ドMには恐怖感が無いんだろうか?

「さて皆さん、私……言いましたよね? 犯人を探してくださいって……はっきり言いましたよね?」

笑顔のまま見下ろしてくるヴァーム、非常に恐い。
例えるなら、地獄にいる鬼の様な覇気を出している……いや、ヴァームはドラゴンだから、この例えは可笑しいか……あははは。

……現実逃避はここまでにして、真剣に正座をしよう。
変な事考えてるのを悟られたら全ての怒りが俺に向く。

「いや、そのな? えと……わっ忘れておったんじゃよ、くはははは」
「笑い事じゃありませんよ?」
「うっ……すっすまぬ」

主に説教する従者……こう言うの前にも見た事あるな。

さて、何故ヴァームが怒ってるかと言うと……。
俺達はヴァームの頼み事を忘れたからだ。

「あれですか? もしかして、私の頼み事は面倒臭かったですか?」

くそっ、俺のバカっ! なんでヴァームの頼み事を忘れるんだ!
忘れたらどうなるかって身に染みて分かってただろうに。

と、後悔しても遅い。
現に面倒臭い目にあっている……。
はぁ……ほんっと、なんで忘れたんだろうな。

「……皆さんどうして無言なんでしょうか? 本当に面倒臭いって思ったんですか?」

目をギラつかせるヴァーム、それにビクつく皆……。
いや、約1名は興奮してるな……。
頬を赤く染めて「あぁ……ヴァームの説教快感ですわぁ」と呟いてる。

……うん、無視しよう。
今はドMに構ってる場合ではないのだ。
早急に何か喋らないといけない、例え本心で「その通り」って思っていてもだ……。

焦りを隠して冷静に話そう。

「いっいや、そんな事は」
「あらあら、でしたら何故頼み事を忘れたのか言ってください……当然言えますよね、シルク様?」

……っ!
しっしまった、俺墓穴を掘ったかもしれない。
周りを見ると、「あぁ……」と言う悲壮感に道溢れた目で俺を見てくる。

ラキュに至っては手を合わせてる。
おい、なんだそれは……止めろよっ、怖くなるだろう!

あとアヤネっ、小声で「さようならシルク」って言うな! 聞こえてるからなっ! 物騒な事を言うんじゃない!

「どうしたんですかシルク様? 顔が真っ青ですよ?」
「え……あっ、その……あの……あっあははどうしたんだろうな」
「今、笑うところではありませんよ?」 
「…………はい、すみません」

恐い。
凄く恐いから……頭を掴むのは止めてくれるか? そのままグシャッて潰されそうで……ほんと怖いんだ。

「で? 理由はなんなんですか?」
「りっ理由……か」

あっあぁ……恐すぎて震えてる。
歯がカチカチいっちゃってる。

とっ取り敢えずあれだ、理由を言えば良いんだよな? そっそしたら許して………くれるか分からないな。
だって、理由を言ったら許すなんて一言も言ってないもの。

「そっそれを話せば……ゆっ許してくれるのか?」
「そうですね……それは理由次第になります」

りっ理由次第と来たか……。
くっ、理由はあるにはある。
忘れてたのは本当の事だが……きちんと理由があるのだ。
だが、それを言うのは物凄く恥ずかしい。

だが言わないなら言わないで酷い目に合いそうだ。
まだ頭を掴まれてるんだが、そこから強く力を込められてバキグシャと潰されるなんて事が起きそうで恐い。

洒落じゃない、怒っているヴァームならやりかねないから本気で思ってるんだ!

「……あっあの、えと」
「なんですか、もごもご言っていては分かりませんよ?」

俯く俺は考えた。
言って助かるか、言わないで酷い目に合うかを。

言えば当然、俺がロアを誘った事が皆に知れ渡る。
で、物凄く恥ずかしくなる。

しかし、しかしだ!
今の状況を考えてみよう。
絶対に言わないとダメな状況だ。
今まさに皆の視線が物語ってるんだ、「言って楽になれ」と……。

そっそうだよな、恥ずかしさなんて命と天秤に掛けたら軽いもの……。
ここは、ハッキリと言おう!

「おっ俺はだな……あっあの時、きゅっ急にロアを誘いたくなって……そっその、ロアと一緒に外に出て……ますた、はい」

ゆっくりとヴァームの方を見た後、震えながら言う。
そしたらだ、ロアが、何言ってんの!? って顔を向けてくる。

すまん……言った後、気づいた、これ……ロアを巻き込む形になってる。
ごめんなロア、恐怖感でそんな事考える暇なんて無かったよ。

「なるほど、ロア様と外にですか……」

うっ……。
ヴァームの声のトーンが下がった!
やっやられる……やられてしまうっ、このままぐしゃっといってしまう!

終わりを悟った俺は、ぎゅっと目を瞑る。
あぁ……短い人生だったな。
などと命を諦めていたその時だ。

「誘ったのはシルク様ですか?」
「……え」

そんな事を聞かれた。
こっこれは正直に答えるべきだろう。

「そっそうだ、俺から誘ったんだ」
「あらあら……珍しい事もあるんですね」

目を少しだけ見開いて驚くヴァームは、ロアの方を向く。
そしたらロアは、びくっ! と身体を震わせた。

「との事ですが……本当ですか、ロア様?」
「っ、ほっ本当じゃ……」

聞かれた事を正直に答えるロア……その事は決して嘘じゃない。
恥ずかしがりながらだが、俺は確かにロアを誘ったぞ。

「そうですか……」

あっ、やって頭から手を離してくれた……。
そしたら、その手を自分の口元に持っていき、押さえ考える仕草をとる。

なっなんだ? 何を考えてるんだ?
自分の身に何か起こるんじゃないか? と言う危ない考えが次から次へと考え付く。

……くっ、この沈黙が凄く恐ろしい。
早いところ何かを言ってくれ! そう願った時だ。
ヴァームは口を開いた。

「そうですか……シルク様はやっとご自分で前に進んだのですね?」
「……へ?」

わっ訳が分からない事を言われてしまった。
とっと言うか……ヴァームが笑顔になった。

「ロア様、良かったですね」
「ふえ? うっうむ……そっそうじゃな……」

ロアは急に名前を呼ばれた事に驚き、苦笑いする。
疑問を浮かべる俺とロア……そんな2人にヴァームは微笑んだままこう言ってきた。

「その理由でしたら私も目を瞑りましょう、だって素晴らしい事ですからね、うふふふふ……」

……何が素晴らしいか分からないが、なっなんか許された……のか?

「ロア様とシルク様は部屋から出ていって下さい」
「え? あっあぁ……」
「わっ分かった……のじゃ」

何が何だか分からないが、そう言われたのなら即刻この部屋から出ていこう。
そんな訳で、直ぐに立ち上がり部屋から出ていく俺とロア。

部屋から出ていく時に俺とロア様は一礼してから出ていった。


「ふぅ……すっごい疲れた」
「おっ同じくじゃ……」

部屋から出て、廊下に座り込む俺とロア。
同時に大きなため息をはいてしまった。

「シルクっ、一瞬わらわを売ったのかと思ったぞ! 酷いではないか!」

そしたらだ、ロアは俺に覆い被さり、胸ぐらを掴まれる。
涙目で睨んで来てる……やっやっぱりその事で怒られるよな、ここは素直に謝ろう……。

「あっあれは……その、わっ悪い……言ってから気付いたんだ」

嘘は言ってない……本当にあの時は恐怖でどうにかなってたんだ。

「そっそれはそうじゃが……いや、そのお陰で助かったのじゃから何も言うまい」

そう言った後、苦笑いするロア。
あっあはは……そう言ってくれると助かる。

「……ありがとう、シルク」
「おっおぅ……どういたしまして」

体制はそのままで、感謝してくるロア。
……照れてるのか、頬が赤く染まってる。
かっ可愛い……そう感じた瞬間、俺は横を向いた。
そしたら、ロアは俺から身体を離して壁にもたれ掛かる。

「皆は……上手く逃げられるかな?」
「分からぬ……と言うか、今はわらわの命が助かった安心感で他人の事を心配する余裕など無いのじゃ……」

……その通りだな。
言っては見たものの、実際心配する余裕なんてない。
だって、冗談なしに寿命が縮む体験をしたからな。

はぁ……朝から寿命が縮む経験をするなんて……。
本当にここでの生活は安心できないな。

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