どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

185

「集まって貰ったのは他でもありません」

場所はヴァームの衣装部屋、そこには皆が集まっていた。
その皆の前にいつものメイド服を着たヴァームが立っている。

「度重なる衣服窃盗事件についてです!」

カッ!
目を見開くヴァームは、スカートをばさっとはためかせ勢い良く言い放つ。
嫌々集まった面々が緊張感に包まれる。

「で、僕達の中に犯人がいると思ってるの?」
「その通りですラキュ様」

呆れた顔をするラキュ、そんな彼にキッパリと言い放つ。
それを聞いたラキュは「はぁ」とため息をつく。

「私が造った服はどれも最高傑作です、それを盗むのは許しがたい事なんです」

ゴゴゴゴッーー
そんな音が出てきそうな程、ヴァームは怒っている。
それほどまでにヴァームにとっては許されがたい事件なんだろう、だが皆を巻き込むのは止めて欲しい。

ヴァーム、皆の顔見てるか? すっごい不満げな顔をしてるんだぞ。
まぁ大事な服を盗まれたんだから無理もないだろうが……。

「なぁ、それなら犯人はわし等じゃねぇだろ、犯行が行われたんは海に行ってる間だろう?」

険しい顔をした鬼騎が意見する、最もな意見だ。
そう……服が盗まれたのは俺達が海に行ってる間、その間に俺等が盗める筈がない、そもそも、ヴァームが造った服を盗むと言う事は命を捨てるのと同じ位の愚行である事は承知している。
皆も鬼騎の意見に頷く、するとヴァームは首を横に振るった。

「いえ、"それ"に関しては外部の者の犯行でしょう、私が言っているのは2回目の犯行です!」

ビシッーー
皆に向けて指されるヴァームの指、その指からは威圧感が出ていた。
って、ちょっと待て! 2回目の犯行? 俺は初耳だ、そんなの知らなかったぞ、周りを見て見ると皆が俺と同じ反応をしてる、いや……ロアだけは怯えてるな、恐らくヴァームが恐いんだろう。
ごくっ……、あまりの威圧感に生唾をのむ、くそっ、犯人は俺じゃないって言う確信があるのに恐怖を感じてしまう。
誰だよ、服を盗んだ犯人は!

「まず2回目の犯行に気付いたのは海に帰って来てから5日目の昼間、私が1回目に盗まれた服を必死になって探してる時です、その時に疲れてしまい息抜きにシルク様に着せる服を物色していた時です、いつもの衣装部屋に行った時……衣装ダンスが開けられていたんです、不思議だなと思い確認してみると、衣装ダンスの中が荒らされ服が1着盗まれていたんです」

前半部分物申したい事がある、俺を息抜きに活用するんじゃない!
……と言いたい所だが、今は止そう、とてもそんな状況じゃない。

命知らずな奴もいたもんだな、ヴァームが造った服を盗む+衣装ダンスの中を荒らすなんて、まさか犯人は痛め付けられたいドMか?
と、俺が思った瞬間ラムが近付いてきて「違いますわよ」と言って来た、心を読むな、このドM。

「まっ待つですよ! なんでヴァームはメェ達が犯人だと思ったですか? 同じ魔王城に住んでるのに疑うのはあんまりですよ!」

今日もぶかぶかの白衣を着るメェ、拳を握ってぶんぶん腕を振るって抗議する。
メェが言ってる事は正しい、ヴァームは仲間を疑ってる、それはとても酷い事だ。
だけど、真っ先に疑わしいのはメェだと思ってしまうのは俺だけか? だってそんな悪戯を仕掛けそうなのってメェ以外には有り得ない。

いっいや、ダメだ、決め付けは良くない。
あいつの薬で酷い目に合わされたが、それはそれだ。

「うふふ、そうですね……出来る事なら疑いたく無いんですよ?」

不適に笑うヴァームは拳をゴキゴキッて鳴らす、顔は笑顔だがとてつもなく恐い……。

「もしかしたら1回目の犯人と同じ人かも知れません、ですが……そうとは言い切れないんですよ」

なに、言い切れないだと? まさか何か証拠を掴んでいるのか?
疑問に思ってると、ヴァームはメイド服の胸元に手を突っ込む、その中から1枚の写真が出てきた。

「私が2回目に服を盗まれたのに気付いた時、衣装ダンスの側に落ちていました」

なに、それは本当か?
皆の注目は写真に集中する、その中に写っていたのは……酔っ払った時の俺の写真と猫耳姿のラキュの写真であった。

「「…………」」

言葉を失った、え? なにこれ、なんでこんな写真があるんだ。
しかも俺が写ってるその写真は……くっ黒歴史じゃないか! 最も消したい過去の写真じゃないか!

「ヴァーム、そいつを俺に渡せ!」
「ダメです、これは大事な証拠品です」

そんなもん知るか! こうなったら飛び掛かってでもその写真を……って、あれ? アヤネに羽交い締めされた。
くっ……うっ動けない。

「シルク、あの写真は私が貰う」
「だっめっだ!」
「いや」

くっ、キッパリと言いやがった。
って、あれ? ラキュは何も言わないのか? なんか考えてる仕草をしてるな。

「この写真を持っていて、尚且つ城に出入り出来る人物は限られています」

写真をぴらぴらさせ言う。
確かにヴァームの言う通り限られて来るだろうな、犯人は俺達の中にいる、と言う事になる。
って、それより早くその写真をどうにかして欲しいんだが……ダメか?

「もう、お分かりですね? 犯人は魔王城に住む人以外には有り得ないんですよ」

正論、まさに正論だ。
各々驚いた顔をするが直ぐに元の顔に戻る。

「そんならよ、犯人は大幅に限られて来るんじゃないんか? しぃ坊の写真なんだ、持つ人は限られるだろうが」
「そっそうですよっ、きぃ君の言う通りです!」

うん、そうだな。
不服だが俺もそう思う、城の住人を全員集めなくとも答えは分かりきってる、皆は既に察しているだろう。

「……ん、どゆこと? 分かんない」

あっ、皆じゃなかった。
アヤネは分かってなかった。

「つまりな、あの写真を持ってるのは限られるって事だ、これは分かるか?」
「ん、なんとか」

正直、こんな説明したくない。
だって、これは嫌な過去を掘り下げる事だからな。

「それと、ここで大切なのはヴァームが持ってる写真だ」

そう、あの写真は特別は写真……。
あれは俺が魔王城で酒を呑んで酔っ払った時にヴァームに撮られた写真。

「あの時、写真を撮ったのはヴァームだが、その他にもいたんだよ」
「……だれがいたの?」

首を傾げるアヤネを見た後、俺は辺りを見渡す。
……ん、いない、あっ、いやいた。
こっそり部屋から出ようとする奴を見付けた、俺はそいつに指を指した。

「ヴァームと一緒に居たのはあいつだ、一緒になって嬉しそうに写真を取る姿を映像の魔法で俺は見た……その時、あいつは俺の写真をヴァームから必ず貰っている筈だ」

その言葉を聞いた本人は身体をびくつかせ硬直してしまう。
そんな彼女に構わず俺は続けて強く言い放った。

「ヴァームの仕立てた服を盗んだ犯人は、ロア……お前しか有り得ないって事だ」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品