どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

183

ここは魔王城、海から帰って来て直ぐに事件が起きた。
お陰でパレードは中断になってくれて嬉しいが、何やら穏やかじゃない空気に包まれている。
皆が魔王城入り口に集まるとヴァームは血相を変えてこう言った。

「扉が抉じ開けられています!」
「なっなんじゃと!」

ヴァームの声に驚く面々、扉が壊されている……それって間違いなくゆゆしき事態じゃないのか?

「それって、泥棒に入られたって事だよな?」

思った事を口にする俺、そんな言葉を聞いて、表情が変わる。

そこからは慌ただしさが加速した、何か盗られてるんじゃないか? と慌てて魔王城に入っていく。

扉が壊されてる動揺なんかは一瞬にして消え去ってしまった。
残ったのは俺とアヤネとロア、後はラキュだ。

「ロアとラキュは確認しに行かなくていいのか?」
「くふふふ、心配せずとも盗まれない様に大切なのは側においておるよ」

なんか不適に笑って俺を見てきた。
すすぅっと俺の腕に手を回してくる、なるほど、ロアの言う大切な物は……俺か。

くっ、照れ臭いのやら恥ずかしいのやら良く分からない感情に襲われる。
全く、変な事を言わないで欲しい。

「私もロアと同じ、大切なのはいつも一緒」
「そっそうか、えっえと……ラキュは行かなくていいのか?」

このまま話してたら照れ臭くて顔が真っ赤なのを見られてしまうのでラキュに話を振る。

すると彼は「くふふ」と不適に笑ったあと。

「僕の部屋は進入不可能だからね、心配ないよ」

そう言った。
キッパリと断言したが大丈夫なのか? あぁ、そう言えばラキュの部屋って棺桶でしか行った事ないな。

もしかしてラキュを通じないと部屋に入れない、そう言う事なのか?

「僕の心配より姉上やアヤネの事を気遣ってやりなよ」

くふふふふっ、そうラキュが笑った後、ロアとアヤネはラキュの言葉に賛成するかの様に「そうじゃ」「らっ君の言う通り」と言ってくる。

その後は散々揉みくちゃにされた。
で、それから時間が経ち、ヴァームの衣装部屋から1着服が無くなっていた、そんな報告を聞かされた。

そんな報告を受けて1週間程経った頃だ。

「シルク、たっ大変じゃ! ゆゆしき事態じゃ」
「今度はなんだよ、最近やたらと騒がしいな」

俺は窓の外を見てる、今日も元気に魔物達が働いてる、そんな時長い髪を揺らしながらロアがやって来た。

非常に慌てている、実は魔王城から帰って来た時以来ずっとこの調子なんだ。

「そっそりゃそうじゃろう、空き巣に入られていらい、不思議な事が続いておるのじゃから」

伏せ目がちに言うロア、その頭をぽむっと優しく撫でる。
そしたら、ロアは「うっ、撫で撫でしてくれるとは……くふふふ」と笑う。
撫でない方が良かったかな?

と、そんな事よりもだ。
ロアが言うように、この城に空き巣が入ったんだ。

「と言うか、空き巣に入られる魔王城ってどうなんだ?」
「ぐっ、そっそれは……もっ門番のケールが悪いのじゃ、侵入者を撃退するのが門番の勤めじゃろ?」

まぁそうなんだが、もっと扉に厳重に鍵を掛けるとか合っただろうに。

「そっそんなに睨むな! ぬっ盗まれた物はとんでもない物なんじゃぞ!」
「いや、まぁ……そうなんだが」

ロアの言う通り、盗まれた物がヤバすぎる、よりにもよってヴァームが仕立てた服なのだ。

「なっなんじゃその顔はっ、えぇいっ、そんな顔で見るなぁっ」

うぉっ、殴って来た。
ちょっと痛い、とそんなやり取りをしているとアヤネが入ってきた。
俺とロアを見ると素早く近付いて来てロアの腕をつかんで投げ飛ばす、まるで小石でも投げるかのように……。

「うぎゃぁっ、あっアヤネ、何をするのじゃ!」
「シルクを叩いちゃダメ」

空中で受け身を取り着地したロアはアヤネに食って掛かる。
俺はと言うと、そのやり取りを見ずに窓の外を見てる、あぁ今日も平和だなぁ。

「ふんっ、あれは叩いているのでない! 軽いスキンシップじゃ」
「スキンシップするのは私」

ぎゅぅ……って背中を抱き締めてくるアヤネ、あぁそんな事したらロアの顔が真っ赤になって口喧嘩が始まってしまう。

……そんな事になったら面倒だ、止めるのも面倒だが事前に止めておくとしよう。

「ロア、そう言えば大変な事が起きたんじゃ無かったのか?」

振り向いてロアを見ると、鋭い目付きをして口を開いていた、だが俺の言葉に「あっ、そう言えばそうじゃった」と言って気付く。

「ロア、何かあったの?」

アヤネは俺の背中にいる、なので顔だけひょこっと出して聞いてみる、そしたらロアが渋い顔して近付いて抱き付いてきた。
お前ら、俺にも理性と言う物があるんだからな?

「じっ実はな、またヴァームの衣装部屋にある服が1着盗まれたんじゃよ」
「それ大変だね」

俺としては大変喜ばしい事だ、だがアヤネの言うように大変なのだ。
ロアが言ってる、ヴァームが作った服の盗難は海に帰って来て直ぐに起きたのだ、そうあの時の扉破壊騒動の後の事だ。

いち早く気付いたのはヴァーム、血相を変えて「服が……盗まれました」と呟き、悲壮感に溢れていた。
だがその直後だ、あらゆる獣をビビらせるかの様な怒気を発した、その時ヴァームはこう言ったんだ。
「ふふっ、ふふふふ……犯人には死より恐ろしいお仕置きが必要ですね」……恐ろしい、何が恐ろしいってヴァームの表情が怒りに満ちてたからだ。

それ以来、誰もヴァームに近づいていない。
それなのに、犯人はまた服を盗んだ……ヴァームは怒りに怒りを重ねている。

「だっだからな? 決してヴァームには近付くでないぞ? 今朝不用意に近付いてしまったラムが……くっ」
「えっ……ラム? おっおい何があったんだよ!」
「いっいえぬっ! 流石にわらわも、あっあれは……あれは!」

顔を真っ青になったロアは俺から離れて口元を押さえ俯く。
おっ怯えている? あのロアが? らっラムに何が起きたんだ! こっ怖いっ、絶対にヴァームには近付かないでおこう。

と言うか、ヴァームが作った服を盗む奴か……。
一体どんな奴なんだろ? まぁ確定なのは、同じくコスプレが好きな奴なんだろうな。

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