どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

176

ロアは泳ぐ、どんどん泳ぐ。
俺は浮き輪を装備してばちゃばちゃとばた足して泳ぐ、ロアに引っ張って貰っている。
で、アヤネは……。

「ぷはっ……」

じゃぷんっーー
息継ぎの為に海から顔を出して再び潜る、そう……アヤネは潜水して泳いでいる。

まぁ、見ての通り俺達は泳いでいる。
それはロアがジャンケンに勝ったからだ、長いラリーの末、ロアがグーを出して勝った。

で、今に至ると言う訳だ……。

「なぁ、ロア」
「なんじゃ?」
「随分島から離れたが大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、問題ない」

……なんだろう、今物凄く不安になってしまった。
何気ない普通の言葉だったのに……何故だ? まぁ、別に気にしなくていいか。

「そんな事より、シルク……楽しいかえ?」

正面を見ながら話し掛けてきた、楽しいか……か、ここは正直に答えよう。

「ん? 楽しいかと言われれば……楽しくない」
「じゃよな……」

そりゃ、さっきから泳いでばかりだからな……。
チラッと後ろを見ると、あぁ……もう島からあんなに離れてるな。

「まさか本当に島から島まで行くとは思わなかった……」
「しっ仕方ないじゃろ……わらわは、シルクを1人じめしたいのじゃ」

1人じめか……残念ながらアヤネもこの場にいるから1人じめにはなっていないけどな。
と言うかアヤネは大丈夫なのか? さっきから潜ったまま息継ぎに顔を出していないが……。

ざぱぁぁっーー
あっ、良かった……出てきた。
アヤネは無表情で俺の方によってくる、それに気付いたのかロアも振り替えってこっちにやってくる。

「飽きたから戻ろ」
「うむ、アヤネの言う通りじゃ……戻るのじゃ」
「…………そうだな」

色々と文句を言ってやりたかったが……言わないでおいた。
俺も正直戻りたいと思ってたからな、戻ってくれるならありがたい事だ。


と言う訳で戻って来た、で今俺とロアとアヤネがしている事は……。

「出来たぞっ、砂の城じゃ!」
「おぉ……凄いな」

砂浜で砂遊びだ、実はこれは海に来て1回もやってない事だ、なのでしようっ! と言うことにはりしている。

それにしても立派な城だな……クオリティーが高い、俺はこんなの作れないぞ。

「ロアは手先が器用なんだな」
「えっ……なっ! きゅっ急にほめるなっ!」

べちっ……。
あっ、殴られた……少し痛い。

「……すまん」
「あっ、いや……うん」

……謝ったら謝ったで赤面して俯いてしまった。
そうだ、アヤネはどうした? さっきまで近くで砂遊びしてた筈なんだが……あっ、いた。

「シルク、見て……メェちゃんに頼んで作って貰った、即席巨乳」

アヤネは直ぐ側にいた、顔以外が砂に埋もれてるが……で、やけに胸の部分が盛られている。

なるほど、即席巨乳か……言葉通りだな、で……それを遠くで見ているヴァームの視線がやたら怖い、砂で出来た巨乳でさえも嫉妬するんだな……。

「おっおぉ……なんか、凄いな」
「ふんっ、そんな偽物より本物の方が良いに決まってるのじゃっ」

ロアはそう言い俺に抱き付いてくる、こうやって抱き付かれる度俺は色々と耐えているんだが……ロアは気付いてるのか? いや、気付いてないから止めないのか……それとも気付いていて俺の赤面する顔が面白くてやっているのか、そのどちらかだな。

「そんな事ない、シルクはむっつりだから喜んでるはず」
「誰がむっつりだ……」

流石に砂で出来た胸で興奮する奴なんていない、嫉妬する奴はいるけど……。

ん、なんだ? ロアの抱き付く力が強くなったな、胸が更に押し当てられるから止めて欲しいんだが……。
むにょんむにょん、して気持ち……ごほんっ、いけないから離れて欲しい。

「シルク」
「ん?」

そう思った矢先、ロアが悲しげに話し掛けて来た。
その顔を見て戸惑う俺……数秒間見つめ合った其のときだ、ロアが俺を押し倒した。

「……え」

自分が一瞬何をされたのか分からなかった、頭が真っ白になった……その様子を見てるアヤネも口をポカーンとあけて呆けていた。
……ロアの目がうっとりとしてくる、褐色の頬が少し紅潮し、俺に覆い被さってくる、ここでやっと俺は今の状況を理解した。

「ろっロアっ! なっななっなななっなにをっ……むぐっ」

だから押し返そうとした、しかしそれをさせる事なくロアは俺にキスをした。
久し振りのキス……むにっとした柔らかな感触、仄かに感じる甘い香り、目を細めて熱い視線で俺を見るロア……その全てが久し振りだった。

手は俺の手首を押さえ付け動かない様にされてしまっている……。

「むっ……んっ……」

小さな声を出しながらキスを続けるロア、俺はと言うと……。

「おっ……おひ……ひゃ……ひゃめ……ろっ!」

それに悶えつつ抵抗した……だがロアは動かなかった。
くっ……ほんと久し振りだったからすんなりキスされてしまった……。

「こっこら! ロアっ! そこから……離れろ!」

ボコォッ!
盛られた砂を自らの力でどかし俺とロアの所へやってくるアヤネ、顔を真っ赤にしている……。

すると横目にそれを見たロアは微笑して俺から唇を離す。

「くふふふ……やっといつも通りになったのぅ」

そう呟いた後ロアは俺を素早く持ち上げこの場から飛び退いた。

「っ、ロア……シルクを離して」
「離して欲しくば何時もの様に立ち向かってくれば良いじゃろう?」

あれ? なんかこの雰囲気も懐かしいな……まるで、ロアとアヤネが初めて会った時の様な……そうだ、今ここで壮絶な戦いでも始まりそうな雰囲気……そんな感じだ。
って、冗談じゃないぞ!

「ロア、アヤネ……今は遊んでるんだ、だから乱暴は……」

ダメだぞ? と言おうとしたその時……。
ロアとアヤネは互いに向かって走り出した、俺は「ひゃわっ!」と情けない声を出した……。

「だったら奪い返して押し倒して水着を剥いだ後キスする!」
「出来るものならしてみるが良いのじゃ! 出来なければわらわがそれと同じ事をする!」

自らの意思を語った後、2人は拳と脚とでぶつかった。
ロアの手でお姫様抱っこされてる俺なんて無視して……。

「やっやめろ! せめて俺を降ろせぇぇぇっ」

そんな悲鳴は綺麗な白い砂浜に木霊するだけで誰の元にも届かなかった……。

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