どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

167

それはアヤネがクータンを追い掛け回して酷い目にあわせたから謝りに行く時の話……その時僕が案内をした……その時、実はこんな事があったんだ、今から話すのはその時の話だよ。

その時の空は晴れていて、小鳥のさえずりが心地よく聞こえてた。
日が射さない、いりくんだ路地裏、アヤネを横に連れて右にいったり左にいたり進んでいく。

「らっ君……案内させちゃってごめん」
「気にしなくて良いよ、僕がしたかったからしただけだから」

事の発端はこうだ。
アヤネがクータンを追い掛け回し怖がらせた、だから謝りに行きたい……で、僕が案内役をかって出たと言う訳だ。

引き受けた理由は別に深い意味はない、ただあの場に僕がいたら邪魔になるからだ。
そうなるのは、僕にとって面白く……ごほんっ、心が痛む事だからこうして案内をしているんだ。
それともう1つある、それは……。

「アヤネは確実に道に迷うからでもあるんだけどね……」
「何か言った?」
「何も言ってないよ?」

あっ、つい呟いちゃった。
聞こえたら怒られる内容だから黙っていないとね……。

「そう……」

えと、物凄く睨んでるだけど何でかな?
もしかして聞こえてたの? だとしたら地獄耳だよ、物凄く小さな声で呟いたのに……。

「らっ君」
「なにかな?」

だからとビビる事はないんだけどね? 聞こえてたら聞こえてたでからかってあげよう、くふふふふ。

「迷ってない?」
「迷ってないよ、安心してくれるかな」

……睨まれたあげく迷ってないか聞かれちゃったね、不安だったのかな? 一応僕、ここに住んでるんだから迷う事なんて無いんだけど……頼りなかったのかな?

「さっきからぐねぐねしてる」
「まぁ、右に左に曲がってるけど……大丈夫、迷ってないよ?」
「ほんと?」
「うん、ほんと」
「絶対に?」
「うっうん……絶対に」
「……そう」

凄い迷ってないから聞いてくるね……疑われてるよね、これ、ってあれ? なんで僕疑われてるの?
まぁ……いいや、アヤネは変な娘だから一々気にしちゃいけないよね?

「今失礼な事思わなかった?」
「……気のせいなんじゃない?」
「少し間があった、怪しい」

以外と勘が鋭いね、ちょっとドキッとしちゃったよ。

スタスターー
あれから暫く歩いているたら目の前に壁が現れた、行き止まりだ。
でも、ここが城下町地下一階への道、その壁をまじまじと見つめるアヤネ、直ぐに僕を見てこう言った。

「迷った?」
「だから迷ってないって、信用してよ」
「……うん」

しょんぼりと肩を下ろすアヤネ、あぁ……さっきからこの態度はもしかして、クータンの事を反省しての事かな? ちゃんと謝りたいから本当に辿り着くか心配で心配で仕方なかった……そう僕は推測する。

まぁ、それだったとしても……もう少し信用してくれても良いんじゃないかな? と思うんだけね。

「待って……えと、確かここを……よし」

そんな不満を抱きつつ壁をペタペタ触っていく、すると……ゴゴゴっ! と音を立てて地面に穴が空く。

「おぉ……隠し穴」
「シルク君と似た反応だね」

驚くアヤネに笑い、続けて僕は言う。

「この下が目的地だよ、えと……下に降りるけど大丈夫?」
「ん、平気」

あっ、ここはシルク君と違う反応だね、「下に降りる」って聞いた瞬間、顔が凍り付いたシルク君と違ってアヤネは平然としてる。

「そう……安心した、って! アヤネ!?」

これなら僕が担いで下に飛び降りても平気そう……と思ったら、なんの前触れも無くアヤネは飛び降りた。

「っ……くっ!」

慌てて僕も飛び降りる、ほんと何考えてるんだよバカ!

僕の身体に勢い良く風が当たる、いや……そんな事気にしてる場合じゃない、早くアヤネをどうにかしないと地面に激突してしまう。

だから、早く落ちる様に重心を下に向ける。
そしたら直ぐにアヤネに追い付く、そしたら素早く抱き寄せ僕の足を地面の方に向けつつアヤネをお姫様抱っこする。

「らっ君!?」
「ちょっと黙ってて!」

靡くタキシードをうっとうしく思いつつ着地の事を考える、あぁ……もう足が地面に向いてるんだしこのままで良い! そう決心した僕は足に力を入れる、その刹那……どすんっ! と着地した。

「……なんとかなった」

着地は無事成功、あぁ良かった……失敗してたらどうなった事か。
ほっ……と胸を撫で下ろしていると、アヤネにデコピンされた。

「こらっ」

むっとした表情のアヤネ、僕のオデコに少し強めのデコピンを喰らわされた……え? なんで? なんでデコピンされたの?
僕は無表情のまま、眉がピクリと動く。

「乙女を急にお姫様抱っこしたらダメ」

ポコンッーー
今度は軽めのパンチを当てられた。
腹パンだ、これはあれかな? 「早く降ろして」って意味なのかな? じゃ……降ろそう。

という訳でアヤネを降ろす、まだむっとした顔なのは変わらない。

「えいっ」
「いたっ……」

今度は跳びながら頭を叩かれてしまった。

「私は傷ついた」
「……ごめん、そこまで気が回らなかった」

取り合えず笑顔を作って謝る。
イライラしてるけど怒らない、ここはアヤネの言葉を聞こう、それから怒ろう。

「らっ君」
「なに?」
「何で抱き寄せたの?」
「アヤネが急に穴に飛び降りたから慌てて僕も飛び降りて抱き寄せたんだけど……何か問題あったの?」

それを聞いたアヤネはズビッーーと指さし言い放つ。

「問題はある、初めてはシルクが良かった」
「……でも、あのままだと地面に激突してたんだよ?」

怒りがふつふつ沸き上がる……それを堪えて話す。
と言うか、もう怒ってもいいんじゃないかな? 我慢する必要ないよね?

「あっ……そこまで頭が回らなかった」

わぁお、なんたるバカっぷり……まさか何の考えも無く穴に飛び降りたなんて……本当にバカだ、普通の人なら考えがつくのに……アヤネは特殊な人だなぁ。

「ごめん、らっ君……助けてくれたのに怒っちゃった」
「うん、別にいいよ」

にこっーー
アヤネに笑顔を見せ、僕は彼女の頭に手を置く。

「……あの、なに?」

急に頭に手を置かれ困惑する、くふふふ……さて、女の子相手だから軽ーく、ほんのちょっと軽く怒りをぶつけよう。

グググっーー

「らっ君、痛い……」
「くふふふ、痛いのはアヤネの頭なんじゃない?」
「失礼なっ、いたっ! いたい……いたいいたい! やめっやめてっ」

満面の笑みを浮かべてアインアンクロー、アヤネは僕の腕をがしっと掴み離させ用と頑張る。
だけど離してあげないよ? 
よしっ、アヤネは強いからもう少し力を加えよう。

ギリギリギリッーー

「うっ……あぁぁっ……いっいたっ……いた……いよ、らっ君……」

なんか痛がる声が色っぽい……いけない事をしてるみたい、そう思ってしまったので僕は手を離してあげた。

「……酷い」
「酷いのはアヤネの頭でしょ?」
「……酷いっ」

さっきの事がちょっぴり恥ずかしかったので誤魔化す為に毒を吐いてあげた。
ちょっぴりスッキリした、残りの怒りは鬼騎に八つ当たりしよう……うん、それが良い。


それから僕とアヤネはクータンの所へ向かった。
で、この一時で僕は学習した……アヤネって危なかっしい人だね、保護したい衝動にかられてしまう、そんな事を思いつつ僕は上を見上げて歩んで行った。 

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