どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

158

「眠い……」
「じゃ、寝る?」

ラムの打ち上げ、夕食、お風呂と……あれから色々あって今、海の宿の部屋にいる、既に布団は用意され、俺とアヤネはその上に座っている。
因みにアヤネは寝る為なのか括った髪をほどいている……ストレートヘアのアヤネは初めて見たな、似合っている。

「そうだな、今日は静かな1日だったが疲れた……」

こんな日は何も起こらない内に寝てしまうのが一番だ、と言うかこのまま起きていたら確実に何かが起きる、何故そう思うか? その理由は……。

「ん、そだね……今はあの魔王がいないから好都合」

そうなのだ、どう言うわけかこの場にロアがいないのだ。
普通に考えて有り得ない、寝る時になると「一緒に寝るのじゃ」と言って無理矢理布団の中に潜り込んでくる奴だぞ? この場にいないのは可笑しいんだ。
これまでの経験上……確実に何かがある!

「おやすみアヤネ」
「おやすみ……よいしょっと」

だから早く寝ないといけない! って……なんか今、アヤネが俺の布団に入ってきたぞ?

「さぁシルク……夜は長いよ、熱くなる事しよ?」
「夜は長いからな、その分早く寝ないといけないな……じゃ電気消すぞ」

俺は布団から出て灯りを消す。
当たり前だが辺りが暗くなったので俺はゆっくりと布団へと近付く、だが元の布団にはアヤネがいる。
そこに入ってしまうと大変な事になるのは分かりきっている……だから隣の布団の中に入る……が、それを見越したのかアヤネは既にその布団にいた。

「ふっ……逃がさない」
「…………いいか? 1回しか言わないから良く聞けよ? 寝ろ」

ふぅ……ゆっくりと息をはき、アヤネを見つめて優しく言ってやる。
そして俺は素早く布団の中に入りアヤネに背を向け目を瞑る。

「やだ、夜は夜更かしする為にある」

うぉっ! 抱き付いてきた! だがもう無視だ無視、アヤネの小さな胸が当たっているのが超気になるが……無視する! 俺は今から寝る事に全神経を駆使する事にしたんだ。
並大抵の事じゃ目を開けないぞ!

スパァンッーー
「シルク! 今から肝だめしをするのじゃ、起きろ!」

勢い良くふすまを開けた音が鳴ったかと思ったら奴が来てしまった、そう……ロアである。

「……っち」

くそっ、こうなるから早く寝たかったのに……アヤネが色々してくるから寝れなかったじゃないか!

「これ、起きんか! って……なっなっ! なにしとるんじゃアヤネ!」

ぱっーー
部屋に明るくなった、ロアが電気をつけたのだ、うぅ眩しい……目を擦りながら前を見たらロアが叫びを上げた、そして俺とアヤネの方を指差す。

「なぜ貴様がシルクと一緒の布団の中に入っておる! うらやま……けしからんではないか!」
「魔王がいないのがいけない……それにシルクは私と一緒に寝たいと言った」
「いや、言ってない……ロア睨むな、ほんと言ってないから……」

だから無言でこっちに来るな、しかも何だよその睨みは……虚ろな目で俺をみるんじゃない!

「これは……教育が必要な様じゃな」
「は? なっなんだよ……教育って……っ! おっおい! お前まで布団の中に入ってどういうつも……っり!」

口を塞がれた、キスと言う形で……俺は驚きのあまり目を見開いた。

「っ! こっこらぁぁっ! 私のシルクにキスするなぁ!」

俺の背後でアヤネが暴れる、その度に小さな胸が、とんっ……とんっ……と当たっている、顔が紅くなったのは言うまでもない。

「んっ……れろ……ちゅっ」

小さな声でキスをし続けるロア……時折舌で俺の唇を舐めてくる。
ここで俺は、はっ! となりロアの肩に触れ押し退けようとする……しかし!

「んっ……んぐっ!」

ぎゅっーー
抱き付かれた……押し退けるのは不可能になった。
これはいつものパターンに入ってしまっている。
くっ……くそっ……ロアの奴、いつにもまして……はっ激しい……じゃないか!

「離れろ! シルクから離れろぉぉ!」

べちっ! べちっ!
俺の背後にいるアヤネがロアを攻撃、なんの変鉄も無い軽い平手打ちをロアの頭に喰らわせる……だが無意味、全く効果がなかった。

「くっふっふっ……さぁシルク、今度は深いのをしてやるのじゃ」
「しなくて良い、しなくて良いから……離れろ」

深いの……どう言う事なのか今はあえて聞かない、それよりも大事な事がある。
キスされて忘れていたが言わないといけない。

「胸が当たってる……」

むにょんーー
ロアの柔らかいのが俺の胸に当たってる……さっきから、むにむにした感触が気になって仕方がない、だがそんな思いはロアの一言によって無視される。

「当たってるのではない、当ててるのじゃ」

なんと言う笑顔……しかしなロア、そんな酒の席で酔った女性が言いそうな台詞を今言うじゃない。

「こら魔王、無視するな!」
「……おっと、危ないではないかアヤネ!」
「うわぁっ、むねっむねが……って、顔近い!」

もう少しでキスする距離だ、だが前だけでは無い……後ろもヤバい事になっている。
どんな事になってるかって? アヤネがロアと同じ様にぐいぐい俺に寄り掛かって来るんだ……お前ら、俺の自制心をごりごり削ってるの分かってんのか?

「んう? くふふ……シルクぅ、顔が紅いがどうかしたのかえ?」
「おっ主にお前等のせいだよ! 阿呆ぉぉぉ」

叫んだ、腹の底から叫んだ……だがそんな叫びもロアの明るい「くふふふ」と言う笑い声によってスルーされる。

「まっ魔王もシルクにキスしたなら……私は……はむっ!」
「ひっ!」

もう一度叫んでやろうと思った時だ。
アヤネがやってくれやがった……俺の耳を甘噛みしてきた。
ぞわぞわっーー
全身が震えた……あまりの衝撃に俺は声にならない悲鳴を上げた。
やばい、まずい、これ以上は危険だ……誰かこの部屋に入ってこないと俺は……俺は! どうにかなってしまう。


それから時間が経った……俺は布団にうつ伏せのまま倒れていた。

「ふぅ……教育も出来たしすっきりしたのじゃ」
「魔王ばかりずるい、私もしたい」

ロアとアヤネに好き放題やられた、俺の身体と心はボロボロだ、もう寝たい……俺に安息を与えてくれ。

「よしっ、シルク! 肝だめしにゆくぞ!」
「うっ……あぁ……やっやめ……ろ」

力の抜けた俺は軽々とロアに抱えられお姫様抱っこされる、そして部屋から連れ出される……。
話し聞いたか? 俺は止めろって言ったんだぞ?

「あっ、魔王待って! シルクにお姫様抱っこするのは私!」
「ふっ、そうはさせんのじゃ!」

俺が「せめてゆっくり歩け!」と言うのを無視してロアは走っていった。

こうして俺は参加したくない肝だめしに参加する羽目になった……静かな1日だと思ったらこれだ、絶対に平穏にはならないよな……はぁ。

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