どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

156

あのビーチバレーから数日が経った、なのにその記憶は色濃く残っている。

「あぁ……何にもする気がでません」 

俺は海の家で店を開いている。
商品棚の横に椅子を用意して座るヴァーム……珍しくだらけている……しかも口から魂? が抜けている。
ビーチバレーの件をまだひきずっているらしい……横でリヴァイが「元気だせや……」と声を掛けているが元気になる様子は無い。

さて俺はと言うと店番をしている、店の様子は何時も通りだ。

「ふぉぉぉ! 黒い海賊コスぅぅ! ひぃぃぁぁぁ!」
「しかもエロい! ヘソだしだぁぁっ、しかも足出してるぅぅ!!」
「生足素敵ですシルクたぁぁんっ!」

不快極まりない……なんで俺は嫌々着せられた海賊コスでヒートアップする魔物へんたい達の世話をしなければならない? しかもこれに着替えさせたのはヴァームだ、やる気無い顔しながら「今抵抗すれば私は世界を滅ぼすかもしれませんよ?」と言ってきた、目が本気だった……恐ろしさのあまり身体が震えた。

「シルクシルク、胸触っても良い?」
「……黙ってくれるか?」

そんな事を思い出していたら魔物へんたい達に紛れてアヤネがひょっこり現れてそんな事を言ってきた。
アヤネも同じくヴァームに貰った海賊服を着ている、色は青、露出度は低め……だが身体のラインがしっかり出ていて綺麗な仕上がりになっている。

「けち」
「けちで結構」

ぷくぅと頬を膨らまし、じとぉと見てくるアヤネに俺は呆れてため息をつく。

「ならばシルク、わらわとデートするのじゃ!」
「突然現れて何いってんだ……と言うかその流れで良く言えたな」

アヤネの後ろから現れたのはいつものヘソだしの服を着たロア、髪の毛をゆらゆら揺らし微笑んでくる。

「くふふふふ、口ではそんな事を言っておるが……顔が紅いぞ?」
「うっうるさい、気のせいだ……阿呆」

そんな事言われた前なんて向けない、なのでそっぽを向く……そしたら。

「生ツンデレきたぁぁぁ!」
「びぃぃやぁぁぁぁっ!!」
「かっわっいっすっぎっるぅぅぅ!」

うるさい……ものすっごくうるさい、恥ずかしさが吹き飛び新たに怒りが沸いてくる。
お前等ぁ、雑貨屋来てるんだから物を買えよ!

「おい魔王……シルクとデートするのは私」
「なにを言っておるんじゃ貴様は……と、言いたい所じゃが今は用があるので言わん」

なに? 珍しい事もあるもんだ、ロアは椅子に座るヴァームの所へ行き「ヴァームよ、少し良いかの?」と話し掛ける、だが……。

「ロア様ですか? 今やる気がないのです……後にしてくれませんか?」

ぐでぇとだらしなく椅子に座り、失礼な言葉を掛ける、従者としてそれはどうなんだろう……。

「後ではダメじゃ! さっさとゆくぞ」

ロアはヴァームの襟首を掴みそのままずるずると引きずり海の家から出ていってしまう、連れていき方が強引過ぎる……なのにヴァームは全く抵抗しなかった。

「あぁ……移動が楽ですねぇ」
「くっ……こやつ完全にだらけきっておるわ」

ロアの言う通りだ、普段メイドの執務をこなす完璧メイドで自分の好みで俺とラキュをコスプレさせるダメイドが今はどうだ……完全に働かないダメイドになってしまった。
正直言えばその方が平和で良いんだが……何か変な感じがしてしまう、別に普段のヴァームが良いと言う訳じゃないのに……なんでだろうな?

「むーちゃん今日はやる気ない日?」
「かもな……」

分からないから考えなくて良いか、ため息を吐きつつ俺は接客する。

「物を買わない奴は帰れ、他の客の邪魔だ」
「物なんていらねぇ! 俺達ゃシルクたんの笑顔があれば充分だ! なぁ皆ぁぁ!」
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

……忘れてた、魔物達は漏れ無く全員が変なやつだった。
やるならば別の方法を考えなければいけない、ならば次する対応はこれだ。

「アヤネ、こいつらなんとかしてくれ」
「胸10揉みで手を打つよ?」

アヤネに何とかしてもらう、これしかない……そしたら変な要求をしてきた。
だがこいつ等に色々されるよりアヤネに胸を揉まれる方が1000倍マシだと思う……ここは承諾しておくか。

「好きにすればいいさ」
「ん、その言葉忘れないでね?」

きらんーー
目を輝かせるアヤネは魔物達の方を向く、そして1人の魔物に近付きその魔物の腰当たりを掴む。

「おぉふっ! 女の子にお触りされたぁぁ……べぇ! まじべぇよ!」

興奮する魔物、それをスルーしアヤネは静かに呼吸する……暫くそれが続くかと思った時だ、かっ! と目を見開く。

「ちぇいや!」
「へ? あぁぁぁっ!」

投げた、それはもう熟練した格闘家の様な体捌きで魔物を投げ飛ばす、その魔物は悲鳴を上げて水平線の彼方へと消えていった。
呆然とする魔物達、それに構わずアヤネはまた魔物の腰を掴む、そして投げる! 後はそれの繰り返し……千切っては投げ千切っては投げ「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」と絶叫をあげても、逃げ惑っても容赦はしない……お陰でものの数分で回りに魔物がいなくなった。
なんとかしろとは言ったが……なんか罪悪感が残ってしまった。

「よしっ、いなくなった」

ふんすぅーー
やりきった、と言わんばかりの鼻息……凄く誇らしげだ。

「じゃ、約束通り……もみもみ」
「うぉっ!」

しゅばっーー
素早い動きで俺の近くに来て胸を揉み始める。

「ふふふ……ぺったんこ、私と同じ」

ぺたんぺたん、両手で優しく胸を叩いたり、むにんむにん、と両手で胸を掴んだりする。

「はぁ……はぁ……男の娘のおっぱい」
「おっぱい言うな!」

そんなもの俺の胸には無い! と言うかさっきから揉みすぎだ、約束は10揉みの筈だ。

「もう10揉みしただろ? そろそろ離れてくれ」
「固い事いっちゃダメ、もっとしたい」

うるうるした目線、目が語っている「ダメなの?」と……そう言う事を上目使いで言うのは反則だと思う。
だからと言って素直に「もっと揉んでいいよ」とは言えない……俺が胸を揉まれるのが好きだと思われる、そんなのいけない。
だから「勝手にしろ……」と小声で言った、そしたら、ぱぁーーと見違えるように笑顔になって胸を揉み始める。
物凄く嬉しいんだろう、しきりに胸を揉んでいる、何がそんなに良いんだか……なので聞いてみる事にした。

「男の胸なんて揉んで楽しいのか?」

そしたら胸を揉むのを中断して真顔で言ってきた。

「男の胸じゃなくて男の娘の胸、間違っちゃだめ」
「いや、間違ってない」

何度も言うが俺は男だ、男の娘じゃない! 続けてそう言おうと思った時だ、アヤネは薄く笑い、ぽんっーーと俺の肩に手をおいた。

「シルクは鏡をちゃんとみるべき、紛れもない男のふみゃんっ」
「次そんな事言ったら本気で叩くからな」

アヤネの頭にべしっ! とチョップした、変な事を言うからだ。
アヤネは叩かれた頭を擦りながら涙眼で睨んでくる。

「いじわる」
「いじわるじゃない」

毎回毎回違うと言ってるのに何で「男の娘」って言うんだ。
そんなに俺が女に見えるか? いや、そんな訳ない……俺はれっきとした男だ。

と考えた時だ、ここである事に気付く……。

「いつもと比べて……静かな日だな」

そう……普段ならもっと騒がしく滅茶苦茶で終始がつかなくて手に終えない事が毎日続いた。
だが今はどうだろう、普段と比べて静かな時間を過ごしている。
毎日これくらいの出来事でおさまれば良いのに……そう思いつつ俺はため息をついた。
はぁ……もう少し静かにすればいいのにな。

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