どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

155

ん……砂浜で倒れたんだから固い筈の地面、だがこの感触は地面じゃない、何か別の感触……そんな違和感からか俺は目を覚ました。

「……っ」

そしたら天井があった……地面の筈が畳の上、柔らかいのは布団だったらしい……その上に俺が寝ている。
起き上がって見ると額から濡れた布が落ちて来た。
それを掴んで辺りを見渡して見る。
頭がぼぅ……とする中でやっと気付いた、ここは海の家だと。

「……服着てる」

いつの間にか服を着ていた、その服がいつどやのワンピースなのは今は気にしないでおこう、そしてその上には布が1枚被せてある。
きっと誰かがかけてくれたんだろう。

「むにゃ……ふへへぇ、ロアしゃまぁ……しょこはらめぇれすわぁ」

あっ……ラムだ、ラムが寝てる。
相変わらず変な事を言っている、しかし……畳が濡れてるが良いのか? 
……いや待て、そう思う前に言うべき事があるだろう。

「なんでいるんだよ……」

ラムはあの時蒸発した筈……で、いつの間にか戻って来た。
それは分かる、それは分かるんだが……なぜいる? なぜ俺の横で寝息をたてて寝ている? 
……駄目だ、考えても分からない、ならば考えない。
なのでそんな事は気にせず更に見渡して見る、すると……。

「……夜?」

入り口から見える景色が暗かった……そう夜だった、つまり俺はあれから夜まで寝ていたと言う事になる。
余程疲れていたんだな……と思いつつ上半身を起こしてみる。

「誰もいない……な」

気付くのが襲い、と自分でも思った。
ここには誰もいない……いや正しくは俺と雪だるまのノースとラム、その3人だけが海の家にいた……静かだなぁ。

「おぉう? 起きたのかい?」

おっと、ぼぉ……としてたらノースがこっちに来た、手? にはかき氷が入った器を持っている。

「頑張ったな、こいつを食いな! 元気が出るぜぃ?」

俺の元に近付いて来てかき氷を手渡される。
いらない、と言うか食べたくない……だが食べないといけないんだろうなぁ、そう思いつつ食べる、因みに上に掛かっているシロップはレモンだ。

「おいしい……」
「そうだろう?」

表情が全く変わらないので分からないが……喜んだんだろう。
ぴょんぴょんと跳び跳ねるノース、その度に雪が落ちているが……大丈夫か? まぁ……大丈夫なんだろう。

「皆は外でパーティしてるぜぇ? もう大丈夫なら見てきな!」
「あぁ……」


と言う事で外に出た、ラムは寝てたので起こさずに俺1人でだ。

「……!」

そしたら驚いた、だって……特設ステージがあったからだ。
昼間はあんなのなかった……恐らくビーチバレーが終わってから素早く造ったんだろ。
にしても建てるのが速すぎる……きっと魔法を使ったんだな、それしか考えられない。

「……ヘッグ!?」

と、考えていたらステージの上にヘッグがいた。

「はぁっはっはっはっはぁぁ! まさにこの舞台ステージは俺の為にある! 何故なら! 俺が! イケメンだからさ!」

豪勢な舞台、上から多数のスポットライトを照らされ、魚人達が楽器を持って綺麗な音楽を奏でている。
その舞台中央でブーメランパンツを履いて格好良くポーズ、これ……一体何の舞台だよ、と思ってしまった。
と言うか、ほんと凄い賑わいだ……なんでヘッグを見て「わぁわぁ」言ってるんだ? 訳が分からない。

「取り合えず皆を探すか……」

と言う訳で探した。
そしたら直ぐ見つかった、賑わう魔物達を掻き分けたらいた。

「おぉ、起きたのかえシルク」
「あぁ」

そこには水着姿のロアがいた。
笑顔で俺に話し掛けつつ俺に身体を寄せてくる。

「うむ……まだ顔色が良くないのぅ」

冷たい手が俺の額に触れる、そうかまだ顔色が良くないのか……倒れたから当たり前か。

「っ……大丈夫だから、そんなに近づくな」

とんっーー
と優しくロアを手で押し退ける、すると心配そうな顔をして見つめてくる。

「しっしかし……その、心配なんじゃよ」
「……心配してくれるのは嬉しい、だが……その……近い」
「別によいではないか……心配ぐらいさせてくれ」

押し退けても直ぐに近付いてくるロア、また額に手を当ててくる。
あぁ……これは何を言っても無理だ。

「……じゃ、せめて手を離してくれ」
「うっうむ……」

くっ、なんか気まずい……そう思った時だ。

「魔王! そここら離れろ!」
「っ! 来たなアヤネ!」

アヤネが向こうからやって来た。
ロアに向かって走っていく、それに対してロアも同じ様にアヤネに向かって走っていく。

「……たくっ、舞台開催中は静かにしろや」

リヴァイだ、呆れた顔をしながら近付いてくる。

「よぉ、元気か?」
「あっあぁ元気だ……えと、ロアとアヤネは放っておいていいのか?」

俺の安否より向こうが心配だ。
だって少し向こうで格闘が始まったからな……リヴァイもそれを見る、そしてため息を吐きこう言った。

「付き合うの面倒くせぇから放置する」

……それが正しい判断だろうな、俺もリヴァイならそうする。

「……今の状況を聞いて良いか?」

なのでロアとアヤネの事は置いておいて気になる事を聞いた。

「ん? あぁそうか……寝てたから分からねぇよな?」

髪の毛をコリコリと掻きながらリヴァイは話してくれる、簡単にまとめるとこうだ。

・俺が倒れた後最下位とビリから二番目決定戦を開始した。
・そしてその試合の結果……ヘッグと鬼騎とメェが水着コンテストに参加する事になった。

なるほど……今やってるのは水着コンテストか、ずっとボディビルだと思ってた。
そうか水着コンテストか……なら必ずいそうな奴がこの場にいないのは可笑しい。

「……ヴァームがいないな」

そう、この大会を開催した張本人……水着コンテストとなればヴァームが来ないのは可笑しい。

「あぁ……参加するのがお前とラキュじゃないと決まってからずっと宿にいる」
「……そうか」

そう言えば「ふて寝します」って言ってたな。

「おっ……そろそろ来るぞ」
「ん?」

リヴァイが舞台に向かって指を指す。
そしたら大歓声が起きた、なんだ!? と思ってそこを見るとヘッグはいなかった……変わりにメェがいた。

「……」

言葉が出なかった、それほどメェがしていた水着は際どかった。
その水着姿は……なんとも危ない水着だった、どのように危ないかと言うと……心の中で思うのも恥ずかしいくらいに危ない感じだ。
とにかく卑猥だ、卑猥過ぎるっ、もうなんと言うか、可愛いを通り過ぎて可哀想だ……当然それを着ているメェは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている、そして……。

「うめぇぇぇぇぇっ! 辱しめを受けたですぅぅぅ」

そう言って走って逃げていった、そりゃそうだ……恥ずかしいもんな、眼が涙目だった、今夜は泣きっぱなしになるだろう……。

「あっ、因みに鬼騎は強制不参加だ……誰も筋肉マッチョマンなんど見たくねぇからな」

尚更メェが可哀想だ、心の拠り所でもあり好きな人なのにいない……。

「俺が鬼騎を椅子に縛り付けた……絶対にここにはこれねぇ」
「それ、酷くないか?」
「罰ゲームだからな……仕方ねぇだろ?」

いや……仕方ないとかそう言う問題じゃない。
きっと次の日メェは喚き散らずだろう……リヴァイよ覚悟しろ? 恐らくメェは必ず仕返しする、だから身体の心配をしておけよ。

「おーい」
「ん……ラキュか」

後ろから声が聞こえた、声の主はラキュだ。
あっ……海パンに着替えてる、ずるい。

「あっ、大丈夫? 頭痛くない?」
「大丈夫だぞ」

ぺたぺたと俺の身体を触ってくるラキュ、するとリヴァイは「ちとヴァームの様子を見てくらぁ」と言って離れる。

「そう? それにしても……凄い賑わいだってね」

ラキュは誰もいないステージを見る。
ギャラリーはブーイングする「もっと水着を見せろー」とか「カムバックー」とか言っている、そしたらヘッグが走って舞台に上がる。

「カムバックしたよ! イケメンがねっ!」

そう言ってバク転を決める、その後直ぐ様格好良いポーズを決める。
そしたらギャラリーは再び騒ぎ始めた。
お前ら……誰でもいいのか? ヘッグは変な奴だぞ? なのになんで歓声をあげる? 意味がわからない……。

「楽しそうだね……」
「そうだな」

まぁ、楽しければなんでも良いか……そう思って俺も舞台を見る。
ヘッグは次々とポーズを決める、その際の語りも忘れない。

「誰もいないステージに颯爽と現れる! ふふっ、実にクールじゃないかっ!」

いつもの台詞はギャラリーには受けが良い「きゃぁぁぁっ!」と言う黄色い声援が上がる。

「以外と人気者なんだな」
「うん、だってヘッグって……実際魔界の人気者だから」
「へぇ…………え?」

なんかまた驚きの事実が聞こえた。

「そっそれ……本当か?」
「うん、本当だよ?」

まじか、ヘッグって人気者なんだな……。
なら、ヘッグは何をして人気者になったんだ? ただ格好良いから? いや違うよな、それだけで人気者になる筈がない……。

「何をして人気者になったんだ?」
「ん? あぁ……簡単だよ、格好良いからだよ」

……凄いな、ただ格好良いだけであの人気ぶり。
だったらあの語りは作ってるのか? 
……違うだろうな、あれは完璧素だ。
だって、恥ずかしげも無くあんな台詞を吐けないからな……。

「まっ、それは置いておいて舞台見ようよ、珍しく被害者じゃないんだよ?」
「そうだな……見るか」

ラキュの言う通りだ、どんな舞台だろうが楽しまないと損だ、だから今は楽しもうじゃないか。
……ん? いや待て、何か忘れているな……っ! そうだ忘れていた。
ラキュに言う事があったんだった、言わないといけない。

「なぁ、ラキュ……」
「どうしたのシルク君、拳なんかつくって……怖いよ?」

こいつは明らかに後半楽をした……だがそれは俺の思い過ごしかも知れない。
だから一応聞いておこう、それで全力で殴るか軽く殴るか決める。

「試合前のあの作戦……」
「あっ……もしかして僕のあの言葉気にしちゃってる? そうだよね……あれは僕の作戦だけのお陰じゃなくてシルク君が頑張ったお陰でもあるよね」

おっと……謝った、申し訳なさそうに謝るラキュを見て俺は「謝ったんならいいか」と思ったが「いや待て」と思い直し続けて聞いてみる。

「いや、その事じゃなくてな?」
「え? 他に何かあるの?」
「……」

一旦黙ってラキュの目をじぃと見る、これで白か黒か分かる。

「あの作戦って……半分は自分が楽しむ為に立てたんじゃないよな?」
「…………」

一気にラキュの顔が険しくなった、これは不味い事を言ってしまった。

「あっいや……今のは忘れてくれ」

何を考えてるんだ俺は! あの試合は死力を尽くさないといけない試合だった。
いくらラキュが人の慌てる姿が見るのが好きな奴でも時と場所くらい選ぶ。

「……ばれたか」

……と思ったらそうでもなかった。
ラキュは一変してにこやかな顔で喋り始める。

「いやね? 気持ちの問題ってあるじゃない? 死力を尽くす戦いでも気持ちは大切でしょ? だからあの作戦を立てたんだ」

白い歯を見せて笑うラキュ、俺は怒りの視線を向ける。

「じゃ、これ以上の魔法の使用は危険だとかは嘘か?」
「あっ、それは本当だよ?」

そうか、それは本当か……今はそんな事はどうでもいい。

「やっぱり面白かったなぁ……姉上のあの顔! アヤネの顔も素敵だったよねぇ、そのお陰で終始穏やかな気持ちで試合が出来たよ! ありがとねシルク君!」

こいつ悪意がないな? 素でやってるな? 余計に腹が立つ。

「あっ、でもやり過ぎたとも思ってるよ……ごめんねシルク君、またやるけど反省はするよ」

……よし、決定した。
やる、やってやる、もう決めた、俺は迷わない! と言うか初めから素直にやれば良かったな。

「……ラキュ」
「ん? どうしたの?」

俺はにっこりと笑う、そして左手でラキュの肩を持つ……そして右手を大きく振りかぶり全身全霊の力を込めて……。

「激しく反省しろ阿呆ぉぉぉぉ!!」

ベチィィィンッーー
と音が出る程強く殴った。
吹き飛びはしなかったけど、ラキュはビックリして尻餅をついて倒れた。

「どっどうしたシルク!」

その光景に慌ててロアが近づいてくるので俺は笑顔でこう答えた。

「気にするな……」

それを聞いても疑問を浮かべるロア、分からなければそれで良い。
俺は個人的な怒りをぶつけただけなのだから……そう染々思いつつ俺はステージを見る。
今日も濃い1日だった、出来る事なら明日は静かに暮らしたいな……そう思いながら夜は更けていくのであった。

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