どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

118

「んっ旨い」

俺はリゾットをスプーンですくって口に含む……うん、優しい味付けが良い、朝にぴったりな味だ。
付け合わせのスクランブルエッグも美味しかった。塩コショウの加減が抜群だった、あぁ……もう一度食べたい味だな、うん。

「うっ旨いのじゃーー!」
「おいし……」

2人も鬼騎の出された料理を食べている、ロアは言わずもがなステーキ、後は野菜盛り合わせだ。
料理を出した時に鬼騎は言った、鬼騎曰く「食え、残したらヴァームに報告」だそうだ、ロアは冷や汗を流して激しく頷いていた、だから意地でも食べるんだろうが……全く野菜に手をつけていない、これ残すだろうなぁ。

「野菜食べないと後から辛いぞ?」
「……うっうぐぐぐっ」

おっと、俺のこの一言で苦悶の表情……一旦手を止めて野菜が入った皿を睨み付ける、そんなに野菜が嫌いなのか……お前の弟はトマトが大好き過ぎて逆に心配だと言うのに……姉と弟は食べ物の好みは似ないんだな。

「おいしうまいおいしぃー」

と、ここでアヤネが頼んだ物を紹介しよう、それは……『おにぎり』だ、俺は聞いた事があるんだが食べた事が無い食べ物だ。
アヤネ曰く、米を炊いて塩を掛けて三角に握って海苔と言う黒いのを巻いた食べ物だそうだ……それをアヤネが食べている、鬼騎は『おにぎり』と言うのが分かっていたらしく「具は何にする?」と聞いていた、そしたらアヤネは「昆布」と「鮭」と答えた。
大方それを『おにぎり』の中に入れるんだろう……しっしかし、こっ昆布……海に生えてるあれだよな? それに鮭……あれをおにぎりの中にいれるのか? と、盛大な勘違いをしていた頃の俺をぶん殴って正気に戻してやりたい、普通に考えて鮭はちゃんと調理をしてそれをおにぎりの中に入れた。
これはあれだ、見た事も聞いた事も無い食べ物だから勘違いしたんだ。

「ん、どしたの?」
「えっ……何でもない」

おっとじっと見てしまった……アヤネがこっちを見て小首を傾げてくる、何でもないっと言ってしまったが詳しく聞いてみようか。

「あっアヤネ」
「なに?」
「おにぎりって……何なんだ?」

知ってる人から言わせたらこれは阿呆な質問なんだろう、だが俺は知らないんだ……だから阿呆な質問じゃない、良いな?

「お米を炊いて握った料理、お塩効いてて美味しいよ、東の方の全統的な料理って言ってた」
「おっおぉ……そうなのか、と言うか鬼騎は知ってたんだな」

アヤネなのにちゃんと説明出来てるな……と失礼ながらも感心しつつおにぎりを見る、それよりも鬼騎がそれを知ってたのが驚きだ、きっと勉強してる時に見つけた料理なんだろう……そしたら、アヤネがおにぎりの1つを掴んで俺の前に持ってくる。

「食べる?」
「いっ良いのか?」
「ん」

ぐいぐい俺に押し付けてくるアヤネ……あっ、頬についた……手で受け取れないので口をあける、そしたらおにぎりを口の中に入れてきたので噛む。
粒がたった米、そう言う食感が俺の咥内に広がった……筈かに感じる塩、それが良い味をだしている、目を瞑って味を楽しむと……ほんの少しだが米とは違う味と食感が現れた、この磯の味と醤油……昆布か?
塩に合わさって醤油と昆布の優しい甘味が加わった……あぁ美味しい。

「シルク良い笑顔」
「そっそんな顔してるか?」
「してる」

じぃ……と見つめるアヤネ、そんなに見られると恥ずかしい、なので視線を下に向ける。

「食べよ……」

そしてリゾットを食べる、うん、やっぱり旨い……。

「……なぁしぃ坊」

そしたら鬼騎が調理器具を洗いながら聞いてきた、なっ何だろうか?

「何だ?」
「食べ終わったらどうするんだ?」

……そう言えば考えて無かったな、ロアとアヤネの扱いに困ってたからなぁ、無理もないか。

「因みにわらわはやる事がある故一旦お別れじゃ、行きたい所があるなら送ってやるぞ?」

んー……ロアは何処かに行くのか、毎日朝食を食べたらやる事があると言うが何をしてるんだ? 仮と言っても魔王だから色々と魔王としてやる事があるのだが……具体的に聞きたくなってきた。
だけど止めよう、多分長くなりそうだ……それだと料理が覚めてしまう、それだけは避けたい、だから止めよう。

「んー……行きたい所か」

なのでその事を考える……あっそうだ! 行く宛はあるにはあるじゃないか、だがそこは正直行きたくない所だ……だが何もしないと言うのは個人的に嫌だし…。

「どしたのシルク?凄く悩んでるね……」

心配そうに顔を覗きこんで来るアヤネ、悩みもするさ……あそこには嫌な思い出しかないからな。

「……嫌だが行くか、商品の事もあるしな」

だが俺は決心した、あくまでも店に残ってる商品の為だ、客の為では断じて無い! 商人として問題発言だが文句があるなら、どんどん行ってくれても構わない。

「じゃぁ食べ終わったら俺の店に連れてってくれるか?」

顔を上げてロアの方を見る、すると意外そうな顔をして直ぐに、にこっと笑う。

「了解なのじゃ!」

ぐっと親指を立ててにこやかに答える、すると背中をつんつんされる。

「シルク……お店出来たの?露店?」

そんな疑問をぶつけてくる、今度はアヤネの方を向いて説明する。

「違う、ちゃんとした屋根がある店だ」
「おぉ……」

ぱちぱちぱちっ……小さく柔らかい手で小さな拍手、凄いと思ってるんだろうが……色々と深い事情があるんだよなぁ……説明しないといけないな、何時か話すとしよう。

「じゃぁ私はシルクに着いてく、シルクのお店見てから城下街を散歩する」
「なっなにぃ!?」

アヤネが「着いてく」と言った瞬間ロアは声を上げる、反射神経が良すぎる……そんな反応する事でも無いだろう。

「魔王はお城でやる事あるんでしょ?」
「ぐっぐぬぬぬ……しっ仕方ない、今回は目を瞑るのじゃ」

ん?意外だな……ロアが素直に折れた、きっと反論してくると思ったんだがな……それはそれで何か不気味だ。

「じゃ、私も連れてってね……あの廊下普通じゃないもん、ちゃんとおぶさるから安心してね」
「誰が背負うものかっ!貴様は紐で括って廊下を引きずりながらシルクをお姫様抱っこして移動してやるわ!」

おっお姫様抱っこ……そう言えば、廊下を元に戻す様に言ったんだがまだ戻してくれてないみたいだな……今度改めて言うとするか。

「シルクをお姫様抱っこするのは私、だから魔王の肩に立って乗るからそれで移動して」
「そんな事わらわがさせると思うのか貴様はぁぁぁっ!」

それを想像したんだが……何かシュールだ、そう思って俺は食事を続ける……何時かは静かに食事が出来る日が来ると良いな、そう染々と思いながらリゾットを噛み締めるのであった。
と言う事で俺とアヤネは城下街に行く事になった、アヤネは初めての街なのに散歩すると言ったが……迷子になんかならないよな?

「どうやら魔王は俺と結婚したいらしい」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く