どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

102

ぐつぐつと互いに煮込みの作業に入っていった、もう大分時間が経ったから出来上がるのはもう直ぐだろう……。片方では香ばしく美味しそうな匂いを鍋から感じる、そしてもう片方からはチョコレートの甘味とチーズの酸味と香ばしさ、そして野菜の匂いが混ざり合った美味しいのか不味いのか良く分からない匂いがしている……どっちがどっちの鍋なのかは察してくれると有り難い。

「しっしまったのじゃぁぁ!米を炊くのを忘れたのじゃぁぁ!」

突然の嘆き、此処で鬼騎が言っていた言葉を思い出す、ロアがしている失敗……それはカレーのライスを炊き忘れと言う奴だ、だがなロア、その位の失敗は俺は目を瞑ろう……そのままカレースープとして出せば良いだけの話しだ。

「ふっ……お馬鹿な魔王さんめ、私はきちんと炊いたよ」

自信まんまんのアヤネ、米を炊いてたんだな……あの鍋が凄すぎて気が付かなかった……アヤネは自信満々でもう1つのう言って鍋を開ける、そしてそれを俺達に見せ付けてくる、そこには見事に真っ黒くなった米があった!

「えへんっ」

あえて言っておくがこれはもともとの米が黒米ではなくアヤネが焦がしたからこうなった……多分だが水を入れるのを忘れたんだろう。

「くふふ、馬鹿めっ、焦がしておるではないか!」
「失敬な、これはわざとやったの、香ばしさを入れる為の技法……?」

成る程、わざとか……余計に質の悪いじゃないか! 最後に疑問を抱くのなら初めからするんじゃない!

「あっあいつの料理が壊滅的過ぎて鍋の中身が想像出来ん!」
「みっ右に同じです!」

目を押さえる鬼騎と同じく目を押さえるメェ……異様な雰囲気を漂わせているアヤネが作ったカレー? 鍋、俺も想像が着かない……そして最後にラムを見てみた、そしたら。

「にっ匂いだけで昇天してしまいます……の」

苦しみに満ちた表情で蒸気になり換気扇から外へ出ていってしまった……だっ大丈夫、あいつはまた戻ってくる……筈だ。

「くふふふ、シルク君僕は羨ましいよ……こんな残念な娘がいて」
「さっきからどうかしたか、頭でも打ったのかラキュ!?」

うっとりするラキュ……アヤネが料理をし初めてから様子が可笑しい……何でこいつはこんなにうきうきしてるんだ?

「くっ……仕方ない、此所はカレースープとして出すしか無い様じゃな」

うんそれが良いだろう、こっちのカレーは期待が持てる。

「私はカレーライスで出そ……あれ?ご飯が鍋に張り付いてる」

うん、そり張り付いてるんじゃなくて焦げ付いてるな、こっこっちは期待なんて持っちゃいけない……食べるのに覚悟がいるカレーだ。

「ならば器は……うむ、此れで良いかの」

そう言って用意したのは底が深い白のスープ皿、それにカレーをよそっていくロア……美味しそうな湯気がたっている、その匂いを嗅いだだけでお腹が空いてくる、だが……朝からカレーか、いや文句は言ってはいけないな。

「ふっ……豪快さが足りない、私ならこうする」

アヤネは米を諦めたのか異様な雰囲気を出すカレー鍋を「よいしょ」と持ち上げどんっと俺の前に起き、予め用意していたスプーンを手渡されこう言ってきた。

「鍋ごと出すと言う粋な計らい……召し上がれ」

いっ粋か……ははっやばい汗が止まらない、チラリーーと鬼騎の方を見ると骨は拾ってやるぞと言わんばかりに十字をきって、メェは直ぐ様俺から視線を反らした、薄情者め! 次にヴァームとヘッグの方を向いて見る、そしたら2人共笑顔で見つめて口パクで「がんばれ」と言ってきた、こんなんで頑張れるか! うっ……近くで匂いを嗅ぐと倒れそうな位に甘ったるい匂いがする! なのに何故ラキュは平気なんだ? ならお前が食ってくれよ……と言いたいがそれは言えない、何故かって? アヤネがきらきらした目を向けているからだ「早く食べて食べて」と言うのが言われなくても伝わってしまう、俺は軽く深呼吸をして鍋の蓋を開ける……その瞬間絶句した。
切られていない野菜達がチョコレートにまみれて「何故チョコ入れたし……」と言う風な怨念見たいな物が立ち込め、チョコレートが掛かったチーズは半分くらい溶けて、じゅくじゅく音を立てている、因みにチョコレートだが……水を加えた事により見事に分離して変な臭いを出している……そして最後に偶然真ん中に置かれた苺は「たす……けて」と言わんばかりにチーズとチョコレートに埋もれていた、何だこの食材達の阿鼻叫喚が聞こえそうな鍋は!

「あぁ見事に残念な仕上がりになっているよ、しっかりしてそうで中身は駄目駄目……これぞギャップ萌えだねシルク君っ」
「ごめん、少し黙っててくれ」

今のラキュは駄目だ……何か可笑しくなっている、俺は震える右手を抑えその手に持っているスプーンを見つめる、せっせせっ折角作ってくれたんだから……きっキチントタベナイトイケナイヨナ。

「あっ余りに嫌すぎてシルクさんの表情が今までに無いくらいに固まっています!」
「こっこれは……作ってくれたから食べないといけないと言う感謝の現れ……じっ実にクールじゃないか!」

なんか、ヴァームとヘッグが何かを言っているが俺の耳には聞こえてこない、これを食べなければいけないと言う状況で周りの事なんて見えていないからだ、身体の震えを気力で抑え、いざスプーンで中身をすくう……ねちゃっと言う音共にチョコレートとチーズが掛かった人参が取れた、俺はそれを口元に持っていく……すると、急に息が荒くなった……ぜぇはぁぜぇはぁと呼吸がしずらくなる、やっやばい、拒絶反応がやばすぎる! 食べたくない、出来る事鍋は食べたくない! だが此処で食べないとアヤネは悲しむ! あんな期待に溢れたきらきらした目の奴を悲しませたく無い。

「いっ行くぞ……」
「くっやっやめろしぃ坊! 貴様のその気持ちだけで充分だ!」

と、此処で鬼騎が席を立ち声をあげた。

「そうですよっ、こっこんなの食べられっこ無いです!」

メェも席を立ちあがって俺を心配してくれる……。

「鬼騎、メェ……」

すると続けて声が上がっていく。

「私がこう言うのも何ですが……逃げるも勇気ですよ」
「そうさ、勇気と無謀を履き違えてはいけない……今なら間に合う、そのスプーンを置きたまえ」

ヴァームとヘッグまで俺を心配してくれてる、その気持ちは物凄く嬉しい……だがな、俺の意思は変わらない!

「もし……もし俺が倒れたら親にはこう伝えてくれ、友達と食材の為に散ったと」

皆に柔らかな笑顔を向け俺はスプーンを口にくわえた……その瞬間、皆が俺の名を呼んだ気がした。

「……ぐっ、こっこれは」

比類なき不味さの中、俺はやるべき事をやる。

「どう?シルク……」

アヤネはどうだったかと聞いている……そうこれは勝負、だったら言わなければいけない、食レポ……開始だ!

「チョコの甘さ……とチーズの酸味と……香ばしさそして……野菜のあっ甘味が……ごはっ!」

ごとっと頭をカウンターに打ち付ける、その様子に慌てる皆、口々に「もう良い」とか「無理しないで」とか言うが俺は止まらない。

「そっその味が……生存競争の如く……争って、はぁはぁ……苺の存在感を消失させ、未知の不快感と言う……名の比類なき不味さを……うみ……だし……視界に影響を……でぃでぃ……およぼし……はぁはぁ……呼吸困難に陥る……」

口の中にある味を皆に伝える……俺は使命をまっとうしているんだ、もう食レポは最後の言葉を残すまで……これを言えば俺は役目を終える。

「けっ結論……くっくくっ……くっそ……不味……い、あっあれはカレーじゃ……な……い」

ばったぁんーー
俺はその言葉を発したと同時にまた倒れた、白目を向いて残った力で床にダイイングメッセージを残す……俺は力なく『訳の分からない物』と書いた、ふっ……最後まで言えなかったが俺はまっとうした、これで俺は安らかに眠れる……生まれ変わったら平穏で静かな所に生まれよう、俺はそう思った後、意識を失った……シルク、友達と食材の為に此処に散る。

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