FORSE

巫夏希

サリドたちは軍用のリュックにありったけの手榴弾とレーションをいくつか入れて、戦場にむかった。

「……死ぬ準備は大丈夫か?」

「ああ。死なないように頑張るさ」

「じゃあ、どこに行く?」

「とりあえず煙が出た場所。ヒュロルフタームもそっちに向かってるだろうし」

「そうだな」

サリドとグラムは同時に言った。



発煙筒が焚かれた場所。

それは森の奥深く。

ノータが入っていた緊急脱出装置が落ちてきたせいで、木はところどころで倒れていた。

そこに彼女――ノータはいた。

彼女は小さい頃から才能があった。

彼女は小さい頃から将来が約束されていた。

ヒュロルフタームのパイロット、ノータに選ばれる。それは人類から選ばれし『新たなる人間』と呼ばれるべき、こと。

大体は作った時に金銭を寄付したスポンサーの子供がなったりすることだ。

しかし彼女はその高い才能故にコネなどもなく、一般人からここまでやってきた。

それが、彼女にとってどれほどの自慢か。

それが、今の彼女自身を作った、と言ってもさほどおかしくはない。

要は、それほどのことなのだ。

「行かなきゃ……」

彼女は歩き出した。

それはこの戦争のためじゃない。

自分のために。

「『戦闘敗北の際のマニュアル』は果たした……。あとは逃げるだけよ……」

彼女は歩く。その度に右足が疼く。どうやら怪我をしてしまったようだ。

「くっ……」

彼女はその度に足を引きちぎられたような感覚に襲われる。

「耐えろよ……。私の足……」

彼女が息を荒げてつぶやいた、

そのときだった。

銃声が、森に響いた。

「まさか、もう敵軍が……!!」

しかし、銃声は一発では留まらなかった。

ターン!! ターン!! と、まるで逃げる獲物を追い詰めるような、そんな撃ち方だった。

「だれだかわからないけど。感謝するわ」

彼女はその銃声のした方に敬礼をし、また右足を引き摺りながら歩き出した。



時は少し遡る。

サリドとグラムは雪原をただひたすらと歩いていた。

「おい……!! このままじゃ雪に体力を消耗されるだけだぞ!! なんか方法はないのか?!」

「え? あるよ」

サリドが足をあげ、そこを指差す。

よく見るとサリドの靴の裏に何かついている。

「……使い古しの畳……?」

「そ。あの和風マニアの上官は陽射しで畳が焼けるのがいやだから月に一回ペースで畳替えするんだよね。それで使われなくなった畳を靴につけて接地面を広げて、足が雪に沈むのを防いだ、ってわけ」

サリドは、そう言ってまた歩き出す。

「てかそういうのあるなら先に言えよ……」

「うん? 君の鞄に入ってる筈だよ。それに一回言ったはずだし」

「……そうだったか?」

「物覚え悪いなあ。グラムは。姫様を助けに行く、って言ったときにそう言ったじゃないか」

「ま、いいや。とりあえず俺も装着するから待ってろ」

言って、グラムはリュックを開けた。


「よし。これでバッチリだ」

グラムはまだ堅い新しい靴を履いているかのように、爪先を地面で叩く。

「……やっぱ、寒い」

「時間的には正午……一番陽射しが当たってる時間なんだけどね? やっぱ冬だからかなあ。陽射しも心もとない気がするね」

サリドは、涼しげな顔で、実際は涼しさを通り越して寒いのだが、言った。

「これでほんとに7月かよ……。環境破壊にも限度があるだろ」

「たしか、グラディアは環境開発技術で有名なんだっけ? だからこのあたりは実験地帯で気候が変化しやすいらしいけど」

「変化しすぎじゃ、ボケ!! どうしてサリドはそこまで冷静でいられんだよ?!」

サリドは手に持っていた携帯端末をグラムに見せて、

「事前資料とかちゃんと見ときなよ。そういうのが勝利の糸口になったりするんだし」

「……そうだな」

グラムはその直後、サリドにぶつかった。

「どうした?」

「あれ、見てみろよ」

サリドに従い、グラムはその方を見た。

そこにいたのは、兵士。グラムたちと同じ迷彩服に身を包み、手にはアサルトライフル。

「……何人いる?」

「解らない。隠れている、という可能性も考慮しなきゃいけないし……。もしそれがないとするなら3人かな」

「……姫様は捕まったのか?」

サリドは悴んだ手を自らの息で暖めながら、「さあ、どうだろ? でもあの感じからするに奴らも緊急装置の落下ポイントはわかってたみたいだね」

「向こうはアサルトライフル三挺。に対してこっちは機関銃、しかも旧型の1715年製が二挺に手榴弾とプラスチック爆弾が幾つか、か……」

「どうする?」グラムの問いにサリドは笑いながら、「行くっきゃないでしょ。俺らの目的は姫様を救うことだ」


刹那、彼らは敵陣に飛び込んだ。


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