FORSE

巫夏希

11

『地下帝国への入口』というのは意外にも簡単に発見された。

雑木林の中に一本だけ、違う樹が生えていたからだ。

「……バレバレにもほどがある。罠か、それともただのバカか」

「罠でもバカでも入るしかないよ」

サリドはそう言い、スイッチを押す。


刹那。

ゴゴゴゴ!! と地面が低く唸りを上げる。

そしてそこからなにかが競り上がってくる。

その形は、いわば円柱。

「おいおい、マジかよ……」

グラムが驚きながらも、呟く。

「ほんとうだよ」サリドは競り上がる円柱を見上げながら、「きっとこれが入口だ」



そのころ、どこかの牢屋。

ところどころが切り裂かれボロボロになった軍服を着た少女は、声も出さず泣いていた。

心が、折れかけていた。

プライドが砕かれかけていた。

彼女の、『ヒュロルフターム』のパイロット、ノータとしての。

平民からここまで登り詰めた、という彼女のプライドや覇気はもはや消えかけていた。


風前の灯火。


彼女の状態は、そんな感じだった。



「あれ? ここ、どこだろう?」

彼女の聞いた声は一瞬、幻のようにも感じられた。

しかし、それはすぐに覆された。

「サリド、てめえ、迷いやがったな! 畜生……。ここはいったいどこだ?」

「見た目から牢屋とか、そんな感じかな? 少なくとも有益なものはなさそうだね。はやく姫様を探しに行こうよ。グラム」

名前の知らない、二人組。

この声は聞いたことがある。彼女は確信した。

作戦前に出会った兵士。

なぜ彼らはここにきたのか?

そのとき、サリドと呼ばれた少年から言われた目的。


『姫様を探しに行こう』


彼女自身が軍内で姫、と呼ばれているのは彼女自身もわかっていた。ノータに特別な意味を持たせる、兵士に兵士とノータの違いを見せる、ための“あだ名という名の敬称”。

他のノータは『蟻蜂ぎほうの騎士』とか『火薬娘』とか『闇の袂』とか、なんだかかっこいい名前をつけられているのに。

国の定めか、単純な『姫』だけ。

姫、と言っても国を指揮したり、王様の隣に座ったり、豪勢な城にいるわけでもない。

彼女は指揮される立場で、座るべき場所はヒュロルフタームのコックピットで、彼女にとっての城がヒュロルフターム・クーチェなのだ。


「おい! もしかして……」

兵士の声が、姫様の前で響いた。

「えっ」姫様は声をだした。

つもりだったが聞こえなかったのか、兵士は耳をたてる。

「グラム、どうしたんだ?」

「サリド、姫様が見つかった」

「えっ」

どうやら先ほどの兵士たちだったのか、と姫様は安堵する。

「立てるか?」

「グラム、それより足枷手枷を外そう」

「おっと、そうだな。針金とかあるか?」

「あったら簡単なんだけどね。生憎そんなのはないよ」

「くっ、こうなったら……。姫様、動くなよ」

グラムはホルダーから小型の銃を取り出し、それを彼女の両腕と両足につけられている枷に向かって撃った。

サイレンサーをつけていたのか、音がその牢屋に響くことはなかった。

総ての枷が破壊され、自由の身となった彼女。まずは手足をちゃんと動くか確認するように動かした。

気づいたら彼女は泣いていた。

なぜだかは解らない。

ただ、無意識に、彼女は涙を流していた。

「お、おい? 大丈夫……か?」

グラム、と呼ばれたサングラスをかけてラッキーストライクを吸っているのが似合いそうな青年は尋ねた。

「どうして、ここまで来てくれたの?」

「?」

「何を言ってるんだ?」

今度はサリドと呼ばれた年相応に見えない幼い顔の青年が答える。

彼はアサルトライフルのAK47を肩にかけ、「困ってる人間を救っちゃ悪いのか?」

「……いや、別に」

姫様はサリドの予想外の発言に何も返すことができなかった。

「じゃあ、脱出するぞ……、って姫様怪我してるじゃないか。こんなところだと破傷風にかかっちまう。とりあえずここを脱出しよう」

グラムは姫様の怪我をした右足を見て、言った。


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