FORSE

巫夏希

さて。リーフガットとサリドとグラムが会話をしているとき、問題の戦場はどうなっていたかといえば。

「……そんな馬鹿な」

拡声器から、声が響く。ヒュロルフターム・クーチェに乗るノータによるものだ。

彼女は今、部隊の大半とともに反乱軍が支配する鉱山にやってきた。

そこまで無傷でいけたことがまず奇跡だが、よくよく思うと本拠地にも人がいないのでは話にならなかった。

「……いったい、どういうこと?」

と、姫様は少し咳き込みながら言った。その際兵士の一人が心配して声をかけたが、姫様は「大丈夫」とだけ言って、その場から撤退した。





結論から言おう。

基地に戻ってすぐ、姫様が倒れた。

熱をはかると普通の風邪程度ではあるものの、十分に休息をとらせることとなった。

「……疲労かしらねぇ。ここ数ヶ月忙しかったし」

リーフガットは、一応予防の為にマスクを着用しているが、姫様の額に冷たいタオルをのせながら、言った。

氷水を持って廊下を歩くのはサリド=マイクロツェフだった。

「絶対この氷水多いよな……。普通なら水枕にしてくれよ……」

と愚痴を溢しているが、先程それは修理工のばあさんにも言ったらナットが飛んできたのでリーフガットの前で言うのはあまり好ましくない。


さて、グラム=リオールは何をしているかと言えば。

……全員の服の洗濯である。


「……ったく、なんで俺ばっかりこんな不幸な仕事ばっかり押し付けられなきゃいけないんだ?」

グラムはそう言いながらも手際よく10台以上ある巨大洗濯機のスイッチを押した。

こういうところの機材というのは音があまり出ない、静かなものとなっている。理由は単純明解で、その音によって、敵に居場所を知られてしまうのを防ぐためだ。

「あー、暇だな……」

と言ってグラムは近くにあった雑誌に手を取る。

それはサリドが朝読んでいた雑誌でグラムも横目で観ていたのだが、まあ、暇潰しにはどうってことはない。

その雑誌はミリタリー雑誌――ではなく、世界の様々なニュースを取り扱った雑誌だ。ニュースペーパーの廉価版とでも言うべきだろうか。

グラムは適当に飛ばし飛ばしで読んでいた。

その雑誌に書かれているのは嘘であり真である。もともとは小さなニュースだったのが記事によって誇大化される――というのもよくあるケースだ。

だがしかし。

グラムはひとつの記事に目を向けた。

それは透明病についての危険を喚起したものだった。

そこに書かれていたのは透明病が初め風邪のような症状で、後に高熱を伴うことが書かれていた。

「あれ……? これってまさか……?」

グラムは一つの可能性を提示した。

そう。透明病というのは、

今の姫様が患っている症状そのものだったからだ。

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