FORSE

巫夏希

10

とりあえず、シスター・ビアスタの言う通りにすることとした。

車に寝かせていた彼女を下ろし、二人がかりで奥にある昇降機に持っていった。

この世界で昇降機は珍しくない。油圧式の昇降機は現在、殆どの国の主要都市に使われているからだ。まあ普通に考えれば何十メートル級の人型戦闘兵器があるのだからそれくらいの技術があってもおかしくはないだろう。

「にしても、こんな一宿屋にねぇ。儲けてるんだなぁ」

グラムが呟くとグランモーレの店主は恭しく笑った。

驚くべきことに、この宿屋グランモーレはシスター部隊の貸し切りだという。五階建てらしいのだが、その五階までがシスター部隊の場所として埋まっているのだという。

そして……ここは三階。ベッドが大量に置かれていて簡易の診療所となっていた。

シスター・ビアスタは三階に着いてから席を外すので少し待つように命じ、昇降機を用いて上に向かっていった。

……三人は残された部屋でただ俯いていた。

「……大丈夫なのかな」

サリドが唐突に呟いた。

「え?」

「たしか透明病って永遠に治らないものなんだろ? このまま治らないで死んじまったら……」

「ばかやろう」

グラムから今まで押さえ込んでいた苛立ちが零れた。

彼はたぶん何を考えていたのかわからなかっただろう。彼は言葉より先に体が動いていた。

サリドの右頬に衝撃が走り、サリドは少し後ずさった。

「な、なにするんだっ」

サリドが叩かれた右頬を抑えながら、言った。

「……サリド。おまえ、何言ってんだ? 姫様も、勿論俺も、あのシスターさんだって諦めちゃいねぇのにお前だけ諦める、ってのか? そんなの理不尽だろ?! 負けずに必死に頑張ってる姫様は諦めてねぇんだ!! お前はそれが解ってんのか?!」

グラムは早口でまくし立て、さらに、

「サリド。俺達が諦めちゃだめなんだよ。最後の綱なんだよ。だからお前も諦めるな。俺も諦めないから。な?」

グラムの言葉にサリドは最初は何も反応出来なかったが、その後に頷いた。

「……あのー、少年漫画のような熱血喧嘩展開は外でやって頂けると助かるんですが……」

不意に声がしてグラムとサリドはその声がした方を向くと、

どうしたらいいのか解らずに慌てている、何か大量の物をもったシスター・ビアスタの姿があった。

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