FORSE

巫夏希

1-12

「なぜ、それを報告しなかったんだ? フランシスカ。それほど逃げていたならば私達に連絡くらい出来ただろう?」

マンションの自室に戻り、フランシスカが事情を話すとリーフガットは第一声にそう言った。


「でも……」

「でも、じゃないわ」

フランシスカの言葉を遮るようにリーフガットが咎める。

「確かにあなたは多くの人間を救ったヒーローよ。でも、今は違う。今はこの『世界トライアスロン』の参加者であり、プレイヤーなのよ? 貴女のために多くの人間が協力しているし、貴女が傷ついたりして思った成績が上がらなかったら私達の責任になってしまう」

つまり。

「あなたを中心にこのチームは存在しているのよ? あなたがいなかったらこのチームは空中分解を起こしていることでしょう。それに、世界トライアスロンは平和の祭典、なんて簡単なものじゃない。銃撃による妨害で死んだ人間だっているし、それによって戦争が始まったりした。あれは戦争のいい理由になりうるものなんだよ。それは……わかっているよな?」

フランシスカはリーフガットの言葉に小さく怯えているかのように頷いた。

「……じゃあ、とりあえず練習をしましょう。今からコースの先見でもしたらどうかしら?」

リーフガットは先程の真剣な面持ちとは異なり、顔を綻ばせて言った。


そのころ。一個上の28階。

フロアーはフランシスカの部屋とは異なり質素だった。強いて言うならば、何もない。ソファーもテレビもパソコンもないのだった。

ただ雑然とした空間で、一人の少女が、空を眺めていた。

彼女は何も身に纏ってはいなかった。下着すらも、彼女は着けていなかったのだ。

月を見て、彼女は笑う。LEDの屋内灯も点いていないこの部屋の唯一の光源は月明かりだけだ。カーテンを開いて、部屋全体に月明かりを取り込む。

彼女はとぼとぼと歩き、彼女の生活スペースと化しているダブルベッドに腰掛けた。ベッドの脇にはごみ袋がありその中にはボロボロに破れた服らしきものと血に汚れたベッド用シーツが入っていた。

彼女は小さく鼻歌を歌いながらベッドに置いていた携帯端末を手に取る。

そして、ロック画面を見ると音声通信ソフトの通知を知らせるメッセージが見えた。

彼女は不審に思いながらもそれを見る。

通知は着信とメールだった。それはどちらも同一人物をさしていて、それは彼女が今日半日一緒にいた人間のことであって。

「……、」

彼女はメールの内容を見て立ち上がり、シャワールームに向かった。

素早くシャワーで体を洗い、綺麗なのかあまり保証できないタオル、なんだか緑色のなにかがくっついている、で濡れた体を拭き、“なぜかそれだけが別の空間にあるようなくらい綺麗にされている”オレンジ色のノータ専用軍服を手に取り着用し、携帯端末を持って扉を閉めた。

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