FORSE

巫夏希

4-6

始めにオリンピアドームの象徴であったセントラルターミナルの中で異変が起きた。

ショッピングモールのフロアー。廊下のど真ん中にそれは置かれていた。

『明らかに怪しい、蓋の開いた瓶』が。

中からは異臭――周りにいた人間曰く腐乱臭――のする何かが漏れ出ていた。

無論、そんなものがあれば誰しもパニックになるに違いない。この状況ですらも、それは例外へと為り得なかった。

辺りを見渡せばまるで鳥のオーケストラと言わんばかりの悲鳴。怪我をしたのか、泣いて座り転ける子供。それを踏み潰さんかという不注意で逃げ出す人々。それらが総て同一空間で犇めきあっていた。

……明らかに、異変が、ゆっくりかつ着実におき始めていた。

「セントラルターミナルにて異臭のする液体が入れられた瓶が多数あるとの報告! まわりの人間がパニックに陥っているとのこと!」

ライズウェルトがオリンピアドーム運営側に伝わる無線を解析し、判明した事実を告げる。

「……ようやく、行動に移し始めたわね……」

リーフガットが苦々しい顔で、呟いた。

「サリド、グラム! 話は聞こえたわね? 神殿協会と思しき勢力からのテロよ! とりあえず二人はセントラルターミナルに向かって!」

即座にリーフガットはスタンド型のマイクを手に取り、声高々に告げた。

「……にしても、予想通りね」

ライズウェルトが彼女の方を見て――なんだか安堵しているような、そんな感じに笑って――言った。

「えぇ。まさか、私もこうなるとは思ってなかったわ。……次は何処に現れるかしら……。それさえ解れば苦労しないのだけど……」

「何処に現れるかは解らないけど」

ライズウェルトが再び画面へと視線を戻し、言った。

「……けど?」

「アジトと思われる建物は……今さっき発見したわ」

「……そう。それじゃあ後でまたあの二人に行かせましょ」

「……? なんだか元気がないわね?」

「私はそこまでアジトに求めてはいないからね。だってアジトはもうきっとだれも居ないでしょう? 枢機卿レベルが直直来るってことは、誰しもがこの戦場で戦うことを選んだ……。いわば『狂戦士ベルセルク』のような……」

「それは一番、厄介なタイプね」

ライズウェルトは忌々しく呟いた。

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