FORSE

巫夏希

その異変に気付くまで、そう時間はかからなかった。

或いはとある難民キャンプで。

彼らは確かに地響きを聞いた。空にも響く、恐るべきそれを。

或いはとある国の王邸で。

猫が好きな王は、その異変に気付いた。

猫等といった動物は気候の変化に敏感である。僅かな電磁波の違いを感じ取ることが出来るからだ。

猫が何度も狂おしそうに、悲しそうに、啼き、主人である王に擦り寄ってきたのだ。まるで雷を嫌う子供が父親に抱き締めてもらうのをせがむかのように。

或いは……とある極東の島国で。

この島国では“ニンジャ”という特殊な人間が住んでいる。

ニンジャは感性が鋭い。昔からそのようなものが身に付くように修行をしているというのもある。だが、ニンジャの血を引き継いだ者というのは、もとから感性が鋭い。やはり血は選べないのだろう。

「ストライガー、ちょっとこっちにきてくれないか」

「なんでしょう。母上」

緑の鮮やかな和服姿で彼女は歩いていた。

彼女の名はストライガー・ウェイツ。しがない呉服店の若女将を務めている。

呉服とは布本来の素材感を利用して服にしたものだ。ジャパニア以外で使われている国は少ないが、それは逆にジャパニア以外では貴重なものという意味にもなる。

結局は呉服はジャパニアでも、諸外国でも同等の価値で取り引きされている。なので、呉服店にとってこの時期は稼ぎ時。今稼がんとして何時稼ぐ? と言ってしまう程の盛況ぶりだったのだ。

「ストライガー。ちょっとこの生地を切ってくれないかい?」

「はい、ただいま」

ストライガーはそう言うと傍に置かれていた鋏を手に取り、巻き尺で測ることもなく、切り込みを入れていった。だが、その切り込みは限りなく直線に近いものだった。それは、彼女の特技の一つだった。

「いやぁ、まぁ。相変わらず、お前さんは切り込みがうまいよ。私どももそれで助かってるからね」

ストライガーの目の前にいた、気前の良さそうな図体の大きい女性は言った。それを聴いて、ストライガーは頬を紅潮させる。

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