現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第59話、祐也は目を覚ましました。

所で、こちらも病院で、手当てを受けていた祐也ゆうやは目を開ける。
ホッとため息をついたが、すぐにあの男に胸元を捕まれたことを思いだし、必死に胸元を探る。

『ゆうにいちゃん。これ?』

付き添っていた妹のくれないが差し出してくれた、ブルーのプラチナのペンダントにホッとする。

『あ、ありがとう。紅』
『これ、綺麗だね。お家を照らす光、そして逆にお家で待ってるよっていってる感じ』
『……うん。そうかもしれない』

受け取ろうとして、手が震えているのに気がつく。
そして……その手をギュッと握り目の上に当てる。

『な、何で……俺は……。もう乗り越えたと思ったのに……もう、乗り越えなきゃいけないのに……』

涙が、着替えられた部屋着の袖に染み込んでいく。

『怖かった……動けなかった……。ただ、逃げるか、柔道の技で投げ飛ばすかすれば……』
『それは、無理だよ。恐怖と言うのは、そう簡単に乗り越えられるものではないよ』

カーテンをあけ入ってきたのは、ウェインと、一人の女性。
一瞬、もやっとしたものを感じた紅だったが、

『あれ?あぁぁ‼パディントンベアくれたひとだ‼あの時はシンプルだけど、カッコいいパンツルックだったから、解らなかった‼』
『えっ?』

正装のドレス姿の美女は、颯爽としていて清清しい。

「初めまして。祐也。そして紅。私は、ウェインの友人のヴィヴィアン・マーキュリーです」
「ヴィヴィアン・マーキュリーって、あの、アーサー王伝説のグィネヴィア王妃役の妖艶な美女‼」
『エェェェ‼ヴィヴィアン・マーキュリーさん‼ど、どうしよう‼知らなかった‼』

祐也と紅の言葉を通訳するウェイン。
ヴィヴィアンはクスッと笑い、

「良いのよ。紅のあの可愛らしくて、必死に教えてくださいっていっているのが、嬉しかったわ。皆あのグィネヴィア王妃役のって言うのよ。役柄とはいえ、世界を壊していくような存在だもの……」

祐也の通訳を聞いた紅は、

『何で、壊したらいけないんですか?だって、物はいつかは壊れますよ?それに、アーサー王伝説は、あきちゃんに聞きましたけど、ランスロット卿は本当にグィネヴィア王妃を精神的な愛を誓い守り続けて、それを歪ませたのがモルドレッド。それでアーサー王伝説は終焉を迎えるんです。アーサー王は妖精によって妖精の国に、グィネヴィア王妃のことは調べているって言ってましたけど、消えたりもしません。それに、アーサー王伝説は様々な宗教や伝説が混在していてとても難しい題材で、あきちゃんはランスロットを演じたウェインさんやグィネヴィア王妃を演じたヴィヴィアンさんをすごいって言ってました。特にヴィヴィアンさんは複雑で貞淑なレディとして城を守る王妃に、様々な問題に悩みつつ、前を見るあの姿はとてもクール‼ってえっと冷たいって言う意味じゃないですよね?』

祐也の通訳を聞いたヴィヴィアンは、映画とは一転して、とても可愛らしい笑顔になる。

「ありがとう。Coolクールと言うのは、カッコいいとか素敵だって言う意味なのよ。その人にも言ってもらえて嬉しいわ」
『でも、私から見ても、ヴィヴィアンさんはクールで、素敵です‼』

紅の言葉に、

『ありがとう』

と返すが、すぐに心配そうに、

「祐也。ごめんなさいね。実は、今回のレセプションは私が主催のボランティアのものだったの。私や、ガウェインを初めとするあの映画に関わった人たちと交流をして、サインをしたりプレゼントをって……親のいない子供たちに、楽しんでもらうイベントだったの。一応身元は確認していたのだけれど、あの男は私の知らないつてを頼って強引に入ってきたみたいなの……きちんと調べているわ」
「いえ、それは、多分、思い出すのも嫌ですが、あの人の昔からのやり口です。あの手この手でコネを作って、それを強引にねじ込むんです。その知人のかたに申し訳ないくらいです」

息が乱れる……なにかを思い出したらしい。
と、

『あぁぁ‼ヴィヴィアンさん‼思い出しました‼こ、この本‼頑張って読みます‼そして、英語を頑張ります‼今度会うときには、ちゃんとお話しできるようにします‼なので、図々しいですが、サインください‼この本をいただいたことが、イングランドがとっても素敵なところだって教えてくれたんです。ヴィヴィアンさんのお陰です。お願いします‼』

紅は本を差し出した。
目を丸くしたヴィヴィアンは、今度はウェインから通訳をしてもらうと本当に天女のように微笑み、

「紅……あなたこそ私にとってCoolだわ‼」

そう言って、サインをし、テディベアにも、そして、祐也のバッグにもノートにもサインをしたのだった。



それから紅は、必死に英語を学び、大学に進学せず、イングランドに留学する道を選んだ。
そして、ヴィヴィアンとの友情はずっと続いたのだった。

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