現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第58話、京都のご両親の優しさに涙ぐむ風遊さんです。

穐斗あきとの部屋中をうろうろして、風遊ふゆは落ち着かない。

「どうしたんですか?風遊さん」
「え、あ、ごみが落ちとったら思って、それに、こんな……」

醍醐だいごは微笑み、

「そのままでいいんですよ。私の自慢の恋人ですって。それと、穐斗の母ですって」
「えっ!」

ぽぉぉ……

頬を赤くする風遊に、兄の紫野むらさきのは二人っきり……穐斗と3人、家族にしてくれたのかと思って嬉しくなる。
と、外が騒がしくなる。

「すみません‼重病の患者さんです‼関係ない方は‼」
「おだまりや‼うちは親族や‼」

その声に、

「姉ちゃん……」

真っ青な顔になる。
と、扉が乱暴に開かれ、どきつい化粧の女が現れる。

「あんたんとこの、穐斗やったかね?また、うちらに迷惑かけて‼」
「かけてませんがね?」

部屋の豪華さを見定めるように、視線が動くその女に、醍醐が微笑む。

「どなたですか?ここは病院で、強い香水はアレルギーを持たれている方にとっては危険ですよ」
「どなたですか?言うて、あんたは誰や‼」
「同じ問いしか返せない、ギリシャ神話のエコーですか?それやったら、どこかでやっていただけませんか?何でしたら、カラスの多いとこにどうぞ」
「なんやってぇ‼」

怒り狂う女に、

「ね、姉ちゃん、やめてぇや。穐斗がねよるんよ。お願いやから、大騒ぎせんといて……」
「うるさいわ‼おだまりや、風遊‼あんたが全部悪いんよ‼全部や、全部‼あんたのせいで、あのMEGメグの伯母の家や言うて‼大騒ぎや‼」
「あ、あぁ……化粧の濃い……前に、そのMEGやったですか?その人と一緒にテレビに出て、自分は伯母だと宣言してましたねぇ。自分がそういっておきながら、何で今になって風遊を責めるんです?自業自得でしょうに」
「なんやってぇ‼さっきからなんや‼あんた」

醍醐はニッコリと微笑みを深め、答える。

「あぁ、もう二度とお会いしないと思いますが、私は、今度、風遊と結婚する者です」
「はぁ?こんな身持ちの悪い女と⁉」

女はどんどんと、言いたい限りの文句を叫ぶ。
穐斗のこと、風遊のこと、両親のこと、そしてMEGのこと……あらゆる文句を言い尽くした後家族の縁を切ると叫んだのを確認し、醍醐が、

「あぁ、そうですか。昏睡状態にある息子の病室に侵入したあと、全くありもしない罵詈雑言を捲し立てて、どういうことです?と言うことで、主治医の先生。ナースの皆さん。聞かれましたでしょうか?それと……」

スマホを操作して、録音していたのを示す。

「ちょっと待っていてくださいね?警察に通報します。重病人の入院している病室にナースの方々の制止を降りきって乱入、暴言をはいたと」
「なっ!」
「それに、こういうのは、一回キッチリとしとくべきですからねぇ……あぁ、にげんといてくださいね。大騒ぎしたのも貴方ですし、それに風遊に助けを求めないでくださいね、『家族の縁を切る』と言ったのは貴方ですから。縁もない風遊に、もう二度と近づかないでほしいんですよ」

逃げ出そうとする、女の後ろの扉にはナースたち、そして後ろに穐斗を守りながら悠然と電話を掛ける。

「さきにいはんでっか?あぁ、スゥ先輩。すみませんけど、こちらに風遊の姉だったけれど縁を切ると言う女性が、ナースと主治医の先生の制止を降りきって入ってきたんですよ。えぇ。録音していますし、ナースの方々も聞いています。警察を呼んでいただけませんか?」

真っ青になる女。

「ちょ、ちょっと、待ってや‼そ、そこまでなこと……」
「えっ?シィにいはんから電話で、富野とみのと言う男が、勝手にお父さんの部屋に侵入して盗もうとしたって……政和まさかずさんが、いかんって警察呼んだって言うんですか?うわぁ……はい、はい。あぁ、こちらの件も、よろしくお願いいたします」
「ふ、風遊‼こ、この男……あんたの恋人言うて言う男、止めんかね‼何で、こんくらいで……」
「なんがこんくらいじゃぁぁ‼あんさんは‼」

大音声に、咄嗟に風遊の耳を押さえる。
自分は慣れているので、我慢する。

「あぁ?あての孫の病室で、なにしてんのや‼あんさんは‼それになんや?あぁ?あての娘になる風遊はんになんいうた?」

大迫力の嵐山らんざんである。

「ええ加減にしなはらんと、後で後悔するんはあんさんでっせ‼」
「さすがはあてのだんはん‼ええ男どす‼」
「当たり前や‼やないとさくらの亭主はできひん」
「まぁ、うれしおすなぁ……」

櫻子さくらことのやり取りに、醍醐は遠い目をする。
上の息子は28、自分ですら20の子供を持つ夫婦が今でもイチャイチャ……。

そして、入ってきた着物姿の櫻子が京美人そのままに微笑む。

「じゃぁ、おかえりやす……と言うよりも、警察はんにおいきやす。あてらのお店、『松尾まつのお』はあんさんがたをお迎えしまへんよって」
「ま、『松尾』‼」

老舗名門の菓子舗の名前にぎょっとする。

「あら、醍醐はん。ご挨拶せぇへんかったんどすか?」
「いえ、おかあはん」

ホロホロと涙をこぼす風遊を抱き締め、あやすように背中を叩きつつ、

「突然入ってきて、次々に叫びはじめて……挨拶しようにもできしまへんわ。おとなしゅうなるのをまっとったんどす。一応、松尾醍醐まつのおだいご言いますが、呼ばれとうはあらしまへん。おかえりやす」

ナースが取り囲み引っ張り出す。
代わりに、入ってきたのは中肉中背のきりっとした男性とはんなりとした京美人。

「風遊はん。辛かったなぁ」
「あてらがおるさかいに、かまへんのや。な?」
「お父さん……お母さん……だんだん……ありがとうございます」

泣きじゃくる風遊を醍醐は支え、両親と微笑んだのだった。

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