現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第25話、穐斗の父と従兄弟の登場です。

祐也ゆうやは安全運転派である。
大きな道や高速道路ではそれなりの距離で走る。
それなりと言うのは、この地域では40キロと書いてあったら大体60キロ程度で走る。
それは、大きな道と言っても、大きな街から町に移動する国道でも、所々登坂道路がある片側一車線の道路が多く、40キロで走っていたら逆に渋滞を招く。
カーブが多いので、地域の人間は、

『それさえ気い付けとったら、かまへんやろう』

となる。
しかし、穐斗あきとの実家は県道でも、交互に行き交う川沿いの山を削って道を作った道で、カーブは多く、大きな車では、クラクションと、行き交う車に注意である。

ネットで何かを調べていた日向ひなたは不意に後ろを見る。
ライトが点灯し気になったのである。

「何だ?ベンツ?しかもあれは、特別仕様の限定だぞ?」
「エェェ‼父や‼」

のそのそと小さい身体を生かし、後ろに移動した穐斗は、ますます嫌そうに、

「姉ちゃんのせとる‼それに、祐也位大きいけん……モルドレッドやろか?いややなぁ……川ん落ちたらエエのに、いねや~‼」

ウキィ‼
かんしゃくを起こす穐斗に、

「なぁ、穐斗。あの車よりはよ着けるか?鬱陶しいなぁ、あれ。後ろからあおるのやめてくれや、腹立つわ‼あのおっさん‼」

夜にサングラス、しかも高級な葉巻を手に運転する男に、祐也も嫌悪感を表す。
前に戻った穐斗は示す。

「あぁ、この車なら、この上から、まっすぐ行ける道があらぁい。急カーブやし、あれ、曲がれんわ。ここ右上がりや」
「ん?あれ、この道は……」
「うん。左んは元々グラウンドで、今は空き地よ。祭りの時には駐車場。その横の道を上がっていってや」

そのまま言われた通り進むと、一度では上がりきれず、数回バックしつつ、ついてくる車。

「このカーブのすぐんとこに、左に折れてぇや。そこは、姉ちゃん知らん道よ」
「解った」

言われた通り曲がり、すぐに左の、草影の道に入る。

「で、下。下ったら、あん車から隠れるけんな。そのまんま、まっすぐ進んでや」
「あぁ」

周囲にはライトはなく、周囲を確認しつつ道を進むと、雑木林のなかと思われたのが開かれ、

「あれぇ?あきちゃんのお家の真下に来ちゃった?」
「うん。ここは、手前の町の方の畑に仕事に行くおっちゃん達の抜け道よ。下を行くよりもはやいんよ」

と、車を家の方向に進ませ、

「到着‼穐斗。先輩らがもんてきたんと、弁慶べんけいらをつれて、言うてこいや。まっちゃんおっちゃんに荷物運んでもろたほうが良かろ?」
「うん。いってこうわい。行くで。弁慶。義経よしつね、それに姫~‼」

駅に向かう間に、甘えん坊の鶴姫つるひめをなつかせた穐斗は鶴姫をだっこして歩いていく。
すると、車の音に気がついたのか、出てくるのは政和まさかず風遊ふゆ

「風遊母さん。出てこんといて‼行くけん」

祐也は声をかけ、代わりに来た政和に、

「まっちゃんおっちゃん。穐斗の父ちゃんが来るで。急いではいろや」
「なんやってぇ‼よし‼えっと、スゥちゃんやったかの?荷物持つで」

と、一応隠居に荷物を運び、穐斗が持ってきた、滅多に使わないと言う鍵をかけて、母屋に入る。

「ようもんてきたなぁ。醍醐に日向に、スゥちゃん‼」

前に急にではあったものの、泊まり、そして、夏休みにも、祐也はほぼここに住み込み、時々遊びに来ていた3人は、麒一郎きいちろう晴海はるみに盛大に出迎えられる。
そして、

「こんばんは。急にごめんなさい。おじいちゃんおばあちゃん。風遊さん」
「ご迷惑をおかけします」
「本当に、夜分に……」
「何言うとんで。孫が会いに来たようなもんや。はよおはいり。寒かったやろ」

と、3人を招く。

「食事中だったんですか~‼すみません。それに、穐斗くんも祐也くんもごめんね?」

醍醐に、

「かまんかまん。それよりも。3人もおたべんさいや。ぼたん鍋やけど」
「エェェ‼ぼたん鍋‼食べたことないです~‼美味しそう‼」

ただすの笑顔に、麒一郎が、

「町のもんには癖がある言うて、嫌がるもんもおるんやけんどな」
「でも、俺は、逆に桜肉さくらにくを食べてますし……」

日向の言葉に、

「桜‼馬肉かぁ。どっちがおいしいやろなぁ」

風遊に箸と器を渡され、肉を口にした醍醐は、

「そんなに癖ないですよ~?逆に歯応えがあって、噛むと味が出る……私は好きですね」
「お前、好き嫌いないもんな……ん?あ、これはおいしい‼桜とも違う‼」

日向も満足そうである。
と、扉が開き、

「こんばんは」

アクセントの強い、外国人特有のイントネーション。

ビクッ、

風遊が震え、政和が、風遊を隣の醍醐に押し付けると、

「夜もおそうなって、客でもないのに、よう勝手に入ってくんなぁ?あんた」
「おや、政和さん。こんばんは。貴方も、客ですか?」

障子越しに怪しい日本語を話す男。
政和は障子を押さえ込んだまま、

「俺は、この家の遠縁で、隣のもんや。あんたとは違うわ。帰れや‼」
「私はぁ、この家の者ですよ。何せ、ここの娘の風遊と……ノォォ‼」

と言う声と共に、ドスン‼と言う音が響き、

「お父さん‼何してるのよ‼そこはむろよ?」

と言う夏樹なつきの声が響く。
と、英語で、罵る声が響く。

「何て言ってんだ?」

政和の問いかけに、醍醐が、

「クッソォ‼こんなところに穴が‼冗談じゃない‼この私の高級な服が汚れてしまったじゃないか‼これだから、身分のないやつらは……ですね。あとは、耳が汚れるので言いません~」
「……」

麒一郎はスッと奥に入っていくと、猟銃と弾を持って戻ってくる。

「わぁぁ‼おっちゃん‼それはいかんで‼おっちゃんが罪になる~‼」
「のけ‼」
「あかん‼」

への字に折れた猟銃に弾を込めようとした麒一郎から、祐也が銃を奪う。

「じいちゃん‼いかん‼まっちゃんおっちゃんの言う通りや‼じいちゃんがわるもんになる‼俺とおんなじやで‼」
「祐ぼう‼やがな⁉」

と、台所から、夏樹と長身の男が二人姿を見せる。

「何しに来たんで‼」

叫んだ風遊に、英語で何かを話す若い方の男。
赤髪で、緑の目の、

「おや。世界で一番下手な俳優7年連続受賞の、モルドレッド……何でしたっけ?」
「醍醐。覚えても意味はない。確か、お兄さんのガウェイン・ルーサーウェインは、新人男優賞や主演男優賞、他にも、賞をもらっている有名なイングランドの俳優で、19才。確か5才から俳優デビューしていて、有名な長編ドラマにも、連続ものの映画にも出ている。美貌でも知られていて、金髪に碧眼。弟は色が暗い色で、兄に比べて……で、その上、演技もろくにできない上に、わがまま放題でドタキャン続きで干されている。代わりにガウェインが、謝罪に謝罪だそうだ。できた兄と、馬鹿弟の典型だな」
「へぇ。お兄さんは知ってますよ。あの有名なアーサー王伝説のドラマで、苦悩するランスロット演じてましたね」
「あぁ。あれは、名作だな。アーサー王役を完全に食ってしまっていた。あれで助演男優賞だろう?」

日向の一言に、

「えぇ?あのガウェイン・ルーサーウェインと従兄弟なのか‼穐斗」

銃を長身を生かし、上に隠した祐也に、周囲はぶっと吹き出した。

「祐坊~‼違うわ。ウェイン坊は、穐斗の甥や」
「はぁ‼あの美形の叔父……穐斗。良かったな。お前は風遊母さんに似て、並んでも見劣りせん。可愛いぞ‼」
「誉めとらせんが~‼わーん‼祐也がぁ‼」
「冗談冗談。悪かった」

よしよしと宥める。

『おい、貴様‼』

英語で叫ぶ年下のモルドレッドを睨み付け、

『黙れ‼年上に向かって、何て口の聞き方だ‼無礼で下品な‼自分の身分がどうとか言う前に、人を敬え‼このクソガキが‼』

と怒鳴り付ける。

『それにな?おっさん?自分の身分うんぬん言う前に、子供や甥に礼儀教えろよ‼それに自分自身が、品がねぇおっさんだろうが‼知ってるか?イングランドでは言わないが、あんたってアレクだよな』
『アレックスと言うことかな?』
『ハッ!知らないのか?オーストラリアでの俗語でアレク。バカって言う意味だ。あんた、アルテミスって名前やめて、アレクにしろよ‼で、夜も遅いのに、人んちに靴のまま上がり込むな‼帰れ‼』

障子を開けると、3人を次々ひっぱりだし、玄関を閉める。

「人の家に勝手に入るのは不法侵入だ‼今度やったら訴える‼」
「あぁ、MEGメグさん。これ、スマホとタブレットで撮影して、弁護士に送りましたので」

日向はにっこり笑う。

「良かったですね。テレビにも送っておきましたので、モルドレッド、貴方も、人気が落ちるんじゃないんですか?」

その言葉に3人は帰っていったのだった。



しかし、この映像は世界配信され、モルドレッドの不法侵入に、兄のガウェインが頭を抱えたのは言うまでもなかったのだった。

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