現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第18話、街生まれの祐也にとっては、幻の世界でもあります。

空気が変わっていく。
肌寒い空気だが、まとわりつくようなネットリとしたものではなく、スッと背筋が伸びるような清らかな清浄な……。

「すごく……二回目ですけど、綺麗な所ですよね。何か、現実と非現実が一緒になっているようで……でも、本当に綺麗すぎて、精霊や妖精がいそうです」
「おるよ。よう、遊びに来るんで?特に、穐斗あきとは、好かれて好かれて、よぉ、トコトコチョロチョロしよったわ。目を離すと追いかけて、森に行ったり、川に行ったりしよったんよ。もう、慌てて追いかけてなぁ。夏樹なつきに面倒みいよ?って言うても、あの子はあぁいう子やけんねぇ……。よぉ、じいちゃんとばあちゃんと、おいちゃんらが手分けして……」
「でも、何かわかるような気がします。でも、俺だったら、『探検行ってくる~‼』とか言って、棒とか持って走っていって、怪我して帰った~って」

祐也ゆうやは笑う。
運転しながら、風遊ふゆは、

「笑とる場合じゃないんで~?ほんとに、この子は変なもんをひろてくるんやけんね。家におる義経よしつね弁慶べんけいも、山で見つけてきたんやけん」
「えっ?義経と弁慶って……あの、ポインターにセッターの?」

もう老齢域であろう大型犬二頭は、かなり大きな犬だが、キッチリと仕付けされている。
当然、猟犬である。

「そうなんで。猟犬はなぁ。知っとると思うけど、普通、あの猪や熊を見つけるために、こんな山の中を臭いを辿るのや、見つけた獲物を弱らせるために攻撃したりもせんといかん。じいちゃんも猟師やったけんなぁ。昔はよぉ、育てとった。で、猟に連れていくまでしつけてなぁ。そりゃぁ、猟なんてもんは、じいちゃんも襲われたりして怪我したりしたもんで?それだけじゃのうて、弱らせるために攻撃する犬も、それ以上に傷だらけや。何とか獲物を仕留めても、大怪我してゼイゼイ息をしよる子らを、雪の中、山の険しい中で連れて帰れまいがな。『すまんのぉ……』言うて、じいちゃんも泣きながら置いて帰った事もあるんで。でも、足を引きずりながら、もんてきた子らを迎えて、手当てしたこともあるんや……」
「……じいちゃんって猟師やったんですか?」
「普通のおっちゃんや。田んぼや畑を耕して、猟銃保持免許をもっとったけんな。冬の解禁時期には猟師しよったわ。やないと、今のように山が荒れて、田んぼや畑を荒らす。春の筍は全滅やで?」

苦笑する。

「うちらが銃を持つのは、ボロボロになっていく皆の田舎を守るためよ。うちらの生活を守るためよ。よぉ、外のもんは『いきもんを殺すのは……』言うけどなぁ。そう言うもんに、うちは、『じゃぁ、荒れ果てた山を見に来いや』ってって言いたいわ。都会の世界はエエもんかもしれん。でもなぁ、もとは、人ってもんは、漁をして魚をくうて、猟をして肉を得とるんやで?豚や鶏や牛を食うときながら、猪が悪いんか?あの牙でうちだって突然飛びかかられてなぁ……大怪我して入院したこともあるんや。死ぬ人も出るんや。やのに、『猟をするんはいけんのや』ってのがよぉわからんわ」

祐也は言葉をなくす。
するとちらっと祐也を見て、苦笑する。

「まぁ、こういう生き方もあるんよ。綺麗な空気は、綺麗でも、昔の山の美しさは戻すことは出来んなぁ……もう、来るとこまで来とるんや……きっと」
「……目に見えない、気づかない事もあるんですね……俺は、表しか見えてないんだ……」
「違うで。もっと、見ようとせん人間だっておるわ……。ここの地域は元々親類縁者や遠縁や、幼馴染がおおいんよ。やのになぁ、変な車でブンブンと音をあげてはしっとらい。馬鹿らしいなぁ。そんなので鬱憤を晴らしたいんなら、おっちゃんらと猟にでも行ってこいっていいたいわ……」

呟き、ふふっと笑う。

「で、なぁ。義経と弁慶は、穐斗が連れて帰ってきたんよ。弁慶は銃で撃たれた跡があって、多分、獲物と対峙しているときに、当たったんやろうなぁ……。痩せとって、怯えとったわ。穐斗が世話をして、ようやく元気になって、穐斗の後ろをトコトコと歩くようになって。小屋に入れんのは、あの子はもう猟犬じゃないんよ。穐斗の友達なんよ。義経は、ポインターで、臭いをたどっとったら戻れんなったみたいや。怪我はしとらんかったけど、のんびりしとるやろ?猟犬には向かんかったんやろなぁ……」
「そう言えば、穐斗が歩くと二頭は追いかけて、昼寝も一緒ですよね」
「そうなんよ。じいちゃんは最初、『犬は外‼いかん‼猟犬やろが‼』とかいいよったけど、『違うもん‼じいちゃん‼弁慶も義経も、僕の兄弟だもん‼一緒だもん‼じゃないと僕も、外におる‼』ってなぁ……最後にばあちゃんが『いつも大人しい穐斗が言うんやけん。かまんやろ?じいちゃん』って言うことになってなぁ……あぁついた」

車が、小道を上がっていき、駐車場がわりの広場に車を止めた。

「じゃぁ、祐也くん。お帰り」
「ただいま帰りました。お母さん」

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