現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第9話、可愛い少年の登場に周囲は唖然としています。

学校に戻った二人は一応医務室に向かい、保険について問いかける。
医務室の教諭は、少し考え、穐斗あきとが華奢な少年で、逆に友人の祐也ゆうやは大柄筋肉質で力の加減を忘れた事故と言うことにして、書類を差し出す。
すると、

「先生……本名、書かなきゃ行けませんか?」
「どういうことだい?」

穐斗はバッグから戸籍と、パスポートを見せる。

「は?君は日本人では……」
「ハーフなんです。普段は母方の姓で生活してます。正式な名字と言うか……尊称と言うか……長すぎて……名前も一応、7つあって……」

おいおい、聞いてねぇぞ……。

祐也は心の中で突っ込む。

「……じゃぁ、日本の名前で」
「ありがとうございます。良かった。清水穐斗しみずあきとで済んで……」
「それにしても……豪勢な名前だねぇ……。穐斗・アンジュ・アルテミス・アンブロシア……」

パスポートを見る教諭。

「はぁ、良く言われます」
「アンブロシアは、アーサー王伝説で、アーサー王の父親ユーザー・ペンドラゴンのユーザーの綴りの変形で、アンブロシアス・ペンドラゴンとも言うんだ。アーサー王のアーサーはアルテミスの夫、もしくは月の狼と言う意味になる。ペンドラゴンはドラゴンの頭……だったかな?私も学生時代に熱中したからね……」
「あ、家の母も、アーサー王伝説に指輪物語、ホビットの冒険で、イングランドに興味を持ったそうです」
「そうなんだね。はい、ここに印鑑を。で、提出しておくよ。後日振り込まれるけど、お金は君に?」
「はい。僕の方で……」

書き終えた書類に、

「では、学部の方に回しておくからね」
「よろしくお願いいたします」
「君も災難だったね。一応HRに行っておいで。私の方から一応君たちが事故で病院にとは伝えてあるけど」
「はい、失礼します」

書類などを受け取り、バッグにしまい出ていった。

「おい、名前が7つって?」
「あ、代々のご先祖の名前をひとつずつ継いでいくから、僕が6代目?らしいよ」
「お前の父親ってめちゃくちゃ偉い人?」
「う~ん……」

考え込んだ穐斗は、答える。

「女好き。恋をしていないと生きていけない人。束縛されるのは嫌いなのに、束縛する厄介な人」
「はぁ?」
「一応、僕の母と結婚してるけど、恋人がいるね。愛人じゃなくて、恋人。何人いたっけ……今のところは、十数人?一族の数も減って、周囲は心配してるのに、本人はいたって単純に気にしないから、じいやは困ってた」
「じいやって……そんな大層な身分か‼」

穐斗は祐也を見上げて、ニッコリ笑う。
ついでに、人さし指を唇に当てると、

「これ以上は内緒。父の浮気のせいで、イングランドからこっちに来てるんだ。父が来たら、困るから、ね?」

ウインクまでつけば、いくら正常な健全な青少年でも、

「解った。黙っとく」
「ありがとう。祐也」

わーい。
抱きつかれ、祐也は必死に、

『俺は、友人……男に趣味はない……絶対に‼』

を繰り返す。
そして、

「失礼します」

ちょうど時間的に、クラスメイトの集まる時間帯だったこともあり、扉を開ける。
入ってきた二人……特に、怪我だらけで、鼻にはギプス、眼鏡なしの童顔の少年の手を引いている大柄な青年。

「おい、祐也。お前、馬鹿力で穐斗に大怪我って……いくら小さくても、どんだけ吹っ飛ばしたんだよ」
「いや、普通に叩いたら、顔面から……こら、穐斗。何でお前後ろなんだよ」
「うぅぅ……やっぱり恥ずかしい‼」
「ほら」

今度は倒れないように、肩を持ち、前に出す。
性別不明の童顔の怪我人……に呆気に取られる。

「その子は?」
「穐斗だよ。血まみれじゃ駄目だって着替えしに戻ったら、洗濯してて服がなくて、仕方なくお姉さんのお古で来たんだ」
「お前の服貸せよ」
「サイズは見ての通り合わねぇの‼」

言い返し、引っ張っていく。
空いているのは、いつも穐斗と祐也が席をとるスペース。
席につくと、モソモソと荷物を取り出す。
その中身に、

「エェェ‼本気で穐斗だ‼」
「う、うん。そうなんだけど、変?」

振り返り首をかしげると、声をあげたクラスメイトは視線をそらし、

「……あ、いや、な、何でもない」
「それなら良かった」

ホッとしたようにニッコリ笑った穐斗を見て、一人のクラスメイトは鼻血を出す。

「ウワッ!お前、なにしてんだよ‼」
「いや、何でもない……」
「何でもないわけないだろう‼」

大騒ぎの教室に、目の悪い穐斗は、

「どうしたの?何かあった?」

クラスメイトの騒動を見つつ、祐也は、

「何でもない。あいつらには、近づくな。それと無意識に虫を集めるな」
「虫?ドコドコ?」
「ほら、授業だぞ、前を向け」

前を向かせ、そして、教官すら動揺させている穐斗に内心ため息をつき、

『眼鏡をとったら、大変身ってこれか……大変だな』

と思ったのだった。

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