異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第三百二十九話 広くてすてきな宇宙じゃないか③
「じゃあ、オリジナルフォーズの暴走も想定済み、と……?」
「オリジナルフォーズは、神側が使用する修正プログラムに対して、シルフェの剣は、人間側が使用することのできる手段とでも言えばいいかな。君たちの程度に併せて言えば、鉄道の緊急停止ボタンがあるだろう。あれだ」
何だか一気にグレードが落ちたような気がするけれど、影神は気にしていないようだった。
「……さて。諍いは終わったことだし、君には見てもらうものがある。何、そんな難しいものではない。だが、見てもらわないとすべてが狂ってしまうものでね。できることなら今から急いで見てもらいたい」
「……何ですか、それって」
「君は、この世界をどう思う?」
突然の質問に、僕は口ごもる。
しかし、それを分かっていてなお、影神は話を続ける。
「……突然何を言い出すのか、ということかもしれないが、これは仕方ないことなんだ。今僕たちがいる世界は、かつてヤルダハオトやガラムドが人間だった頃に暮らしていた世界だ。それを粛清したのは、今の僕たち。……というよりかは、僕よりも地位の高い『創造神』ムーンリット・アートだ」
ムーンリット・アート。
確かヤルダハオトもガラムドも何回かその名前を口に出していた気がする。
創造神――ということはこの世界を作り上げた神様、ということだ。けれど、今は完全に真っ白な世界。真っ白な空間。まっさらな世界。白銀の世界。……最後は違うか。
いずれにせよ、ここには何もない。
強いて言えば、一つのコンピュータがぽかんと置かれているだけ。
このコンピュータには、今まで僕たちが暮らしてきた世界が詰まっている。
コンピュータは電気が無いと動かないはずだけれど、動力源はいったいどこからとっているのだろう。……なんて気にしたら負けか。
「君に、役目を与えたい。いや、正確に言えばお願いしたいことがある」
歩きながら、影神は言った。
「本来ならば、この世界はかつてヤルダハオトたちが人間として暮らしてきた頃、人間の傲慢に修正基準を満たしたプログラムが起動し、すべてを洪水が洗い流した。ノアの方舟、とでも言えばいいと思うけれど、そのあと人間は狂った計画を立てて自らの魂をコンピュータの中に封じ込めた。誰が呼び覚ますかも分からない、永遠の空間に閉じ込めたのだ」
「……確かに、目覚まし時計さえあれば目を覚ますなんてくらい楽なことじゃありませんもんね」
「そうだ。だからこそ、本来はこの0の世界を1にするべく、我々神がなんとかしなくてはいけないのだが……、その修正とは何度もしてはいけないものでね。ダメージを負ってしまったんだよ」
「誰が?」
「神が、だ」
どこからか姿を見せたドアを開けると、そこには小さな部屋が広がっていた。
テレビの前に車椅子に乗った少女がいる。
少女は髪がボサボサで、僕たちが部屋に入ったことも気にすることなく、ただテレビを見つめていた。
「……ええと、こちらは?」
「言っただろう。修正をした際に、神がダメージを負った、と。そしてその対象者は世界の創造神たるムーンリット・アート。とどのつまり、今目の前に居る存在はムーンリット・アートそのものだ」
衝撃が走った。
まさか神に出会えるとは思っていなかったけれど、その神がこんな姿になっているなんて誰が想像できるだろうか。
影神は続ける。
「本来ならば、神になった場合はその力が尽きるまで神であり続けなければならない。こんな姿になってしまったが、まだ絞りかすのような状態でもある。言ってしまえば、まだ彼女には神としての力が残されているが、それを実行するほどの力は残されていない。もはやその力は、自らの命を守るためにしか使えなくなってしまった、ということなんだ。……その場合は、影神が代行をしても良いのだが、仕組みが面倒でね。世界の再生をするには、やはり創造神が必要なんだ。或いは、もう一つの可能性があるのだけれど、」
「もう一つの可能性?」
「それを君に言いたかったことだ」
影神は、本棚から一冊のリングファイルを取り出した。
そしてそれを僕に手渡す。
受け取る僕はファイルの名前を見る。そこにはこう書かれていた。
「世界再生プログラムの代理実行について……?」
「古屋拓見。……僕の代わりに、神になってくれないか。この世界を守る、存在に」
「オリジナルフォーズは、神側が使用する修正プログラムに対して、シルフェの剣は、人間側が使用することのできる手段とでも言えばいいかな。君たちの程度に併せて言えば、鉄道の緊急停止ボタンがあるだろう。あれだ」
何だか一気にグレードが落ちたような気がするけれど、影神は気にしていないようだった。
「……さて。諍いは終わったことだし、君には見てもらうものがある。何、そんな難しいものではない。だが、見てもらわないとすべてが狂ってしまうものでね。できることなら今から急いで見てもらいたい」
「……何ですか、それって」
「君は、この世界をどう思う?」
突然の質問に、僕は口ごもる。
しかし、それを分かっていてなお、影神は話を続ける。
「……突然何を言い出すのか、ということかもしれないが、これは仕方ないことなんだ。今僕たちがいる世界は、かつてヤルダハオトやガラムドが人間だった頃に暮らしていた世界だ。それを粛清したのは、今の僕たち。……というよりかは、僕よりも地位の高い『創造神』ムーンリット・アートだ」
ムーンリット・アート。
確かヤルダハオトもガラムドも何回かその名前を口に出していた気がする。
創造神――ということはこの世界を作り上げた神様、ということだ。けれど、今は完全に真っ白な世界。真っ白な空間。まっさらな世界。白銀の世界。……最後は違うか。
いずれにせよ、ここには何もない。
強いて言えば、一つのコンピュータがぽかんと置かれているだけ。
このコンピュータには、今まで僕たちが暮らしてきた世界が詰まっている。
コンピュータは電気が無いと動かないはずだけれど、動力源はいったいどこからとっているのだろう。……なんて気にしたら負けか。
「君に、役目を与えたい。いや、正確に言えばお願いしたいことがある」
歩きながら、影神は言った。
「本来ならば、この世界はかつてヤルダハオトたちが人間として暮らしてきた頃、人間の傲慢に修正基準を満たしたプログラムが起動し、すべてを洪水が洗い流した。ノアの方舟、とでも言えばいいと思うけれど、そのあと人間は狂った計画を立てて自らの魂をコンピュータの中に封じ込めた。誰が呼び覚ますかも分からない、永遠の空間に閉じ込めたのだ」
「……確かに、目覚まし時計さえあれば目を覚ますなんてくらい楽なことじゃありませんもんね」
「そうだ。だからこそ、本来はこの0の世界を1にするべく、我々神がなんとかしなくてはいけないのだが……、その修正とは何度もしてはいけないものでね。ダメージを負ってしまったんだよ」
「誰が?」
「神が、だ」
どこからか姿を見せたドアを開けると、そこには小さな部屋が広がっていた。
テレビの前に車椅子に乗った少女がいる。
少女は髪がボサボサで、僕たちが部屋に入ったことも気にすることなく、ただテレビを見つめていた。
「……ええと、こちらは?」
「言っただろう。修正をした際に、神がダメージを負った、と。そしてその対象者は世界の創造神たるムーンリット・アート。とどのつまり、今目の前に居る存在はムーンリット・アートそのものだ」
衝撃が走った。
まさか神に出会えるとは思っていなかったけれど、その神がこんな姿になっているなんて誰が想像できるだろうか。
影神は続ける。
「本来ならば、神になった場合はその力が尽きるまで神であり続けなければならない。こんな姿になってしまったが、まだ絞りかすのような状態でもある。言ってしまえば、まだ彼女には神としての力が残されているが、それを実行するほどの力は残されていない。もはやその力は、自らの命を守るためにしか使えなくなってしまった、ということなんだ。……その場合は、影神が代行をしても良いのだが、仕組みが面倒でね。世界の再生をするには、やはり創造神が必要なんだ。或いは、もう一つの可能性があるのだけれど、」
「もう一つの可能性?」
「それを君に言いたかったことだ」
影神は、本棚から一冊のリングファイルを取り出した。
そしてそれを僕に手渡す。
受け取る僕はファイルの名前を見る。そこにはこう書かれていた。
「世界再生プログラムの代理実行について……?」
「古屋拓見。……僕の代わりに、神になってくれないか。この世界を守る、存在に」
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