異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第三百六話 聖戦、東京⑯
「……リュージュ……!」
「滑稽な。神の澱に人間を向かわせるわけが無かろう。あの空間は神のみが入ることを認められた特別な空間。あの空間には何人たりとも入れるわけには行かない。……愚かな人間だよ。それ以外ならば、いかなる権力でも授けようというのに」
リュージュの首がぽとりと床に落ち、ころりと転がる。
それを見たメアリーは、思わず口を覆っていた。
「……それにしても力が足りぬ。うむ、あの祈祷師とやら、力を蓄えずに私を呼び覚ましたようだな。それにしても面倒よ。あとは神の澱に戻るだけというに……」
ヤルダハオトは飾られていた剣――魔剣フランベルジェを左手に構える。
そうして右手にシルフェの剣、左手に魔剣フランベルジェという両手剣の型となった。
「となると、始めるしかあるまい。私の身体を上の次元へと移動させるために、そのためのエネルギーが必要となる」
動かなくなったフルの身体を見つめて、ヤルダハオトは笑みを浮かべる。
「……人間は、愚かだ」
踵を返し、メアリーたちを見つめる。
「いつまで経っても繰り返し繰り返し続ける。それは愚かな行為だと気付いているのに。気付いているはずなのに、結局はその行動に走り民族を減らすこととなる。そしてやり終えたあとに気付くのだ。人間は、その行為の愚かさに! 学ぶことを知らない存在……その存在にこの世界を与えることが、間違いだった。そうとは思わないかね」
「……その問いを人間に訊ねる時点で、大きな間違いじゃないかしら?」
メアリーは臆せず、ヤルダハオトに答えを提示する。
ヤルダハオトは失笑して、剣で薙ぎ払う。
それは空気だけを薙ぎ払ったはずだったが、衝撃波となって彼女たちに襲いかかった。
「くっ……! ヤルダハオトなんて歴史には残っていないけれど、こんな存在が居たなんて……」
「当然だ。何故なら私はこの世界の抑止力として存在していたのだからな。歴史に書かれるはずがない」
「抑止力……?」
「そうさ。世界の抑止力として裏方に存在していた。それが私だ。ガラムドと対を為す存在、それが私、ヤルダハオトだ」
一息。
「ガラムドとヤルダハオトは元々対を為す存在として、この世界を構築していたのさ。しかしながら、ガラムドはあるとき自ら下界へと降りることを望んだ。対を為す存在として私も下界へと降りた。ガラムドの魂は一人の少女へと憑依し、やがて神へと昇華した。そして私はその少女の父親へと憑依し……やがて封印されし剣へとその魂を移した」
「それが……シルフェの剣だと……?」
「その通り。シルフェの剣はオリジナルフォーズを封印する鍵であったと同時に、私を封印していた剣だというわけだよ。こうやって力を蓄えるためにな!」
リュージュの頭を見つめ、笑みを浮かべる。
「ガラムドは神の澱とあの世界の間に空間を生み出し、その存在から管理を行った。それは、あの世界を管理しやすかったことと、私の存在を忌み嫌っていたのだろう。ならば剣ごと破壊すれば良かったものを、そうすることでオリジナルフォーズの封印が解き放たれし時有効な手段が無いから、という理由で私を生き長らえさせていたのだよ。それが、こんな結末になるとは、あのガラムドも思いはしなかっただろうがな!」
そしてリュージュの頭を思い切り踏み潰した。
血が噴き出し、骨の折れる音が響く。
そして残ったのは、骨と皮膚と脳――人間の頭だったものだ。
ヤルダハオトは自らの靴についた血を床に擦りつけ、話を続ける。
「……さて、もう戯言もこれまでにしようか」
剣から光が生まれていく。
それは邪悪にも聖なる光にも見えた。
「手始めに貴様らから消えて貰おう!!」
そして――光が放たれた。
◇◇◇
メアリーたちは、死んだ――と思った。
先ずその光(或いは攻撃)に耐えきれる程の魔法或いは錬金術を持ち合わせていないと思ったからだ。
しかし――いつまで経過しても、その衝撃がやってこない。
「……え?」
目を開けると、そこには水の盾が出来ていた。
「目を覚ましなさい、メアリー・ホープキン!」
そう言ったのは、ロマ・イルファだった。
「ロマ・イルファ……!」
「別にあなたのためにこの魔法を使ったわけじゃなくってよ! お兄様と、お兄様が『正しい』と思った方々を守るため! すべてはそのためなのですから! お兄様を悲しませるわけにはいきません……!」
「ロマ!」
バルト・イルファが手を出そうとする。
しかし、ロマはそれを片手で制した。
「防御は私にお任せ下さい! それよりお兄様はあのフル・ヤタクミ……いいえ、今はヤルダハオトでしたね、ヤルダハオトに攻撃を!」
「ロマ。しかし……」
「お兄様! 私もそう長くは持ちません。お願いします……!」
その言葉を聞いて少しの間バルト・イルファは考えていた。
しかし考えているよりも行動に移した方が早い――そう考えたバルト・イルファはゆっくりと頷くと、
「分かった。防御は任せるぞ、ロマ!」
「ええ。お任せ下さいませ、お兄様!」
「滑稽な。神の澱に人間を向かわせるわけが無かろう。あの空間は神のみが入ることを認められた特別な空間。あの空間には何人たりとも入れるわけには行かない。……愚かな人間だよ。それ以外ならば、いかなる権力でも授けようというのに」
リュージュの首がぽとりと床に落ち、ころりと転がる。
それを見たメアリーは、思わず口を覆っていた。
「……それにしても力が足りぬ。うむ、あの祈祷師とやら、力を蓄えずに私を呼び覚ましたようだな。それにしても面倒よ。あとは神の澱に戻るだけというに……」
ヤルダハオトは飾られていた剣――魔剣フランベルジェを左手に構える。
そうして右手にシルフェの剣、左手に魔剣フランベルジェという両手剣の型となった。
「となると、始めるしかあるまい。私の身体を上の次元へと移動させるために、そのためのエネルギーが必要となる」
動かなくなったフルの身体を見つめて、ヤルダハオトは笑みを浮かべる。
「……人間は、愚かだ」
踵を返し、メアリーたちを見つめる。
「いつまで経っても繰り返し繰り返し続ける。それは愚かな行為だと気付いているのに。気付いているはずなのに、結局はその行動に走り民族を減らすこととなる。そしてやり終えたあとに気付くのだ。人間は、その行為の愚かさに! 学ぶことを知らない存在……その存在にこの世界を与えることが、間違いだった。そうとは思わないかね」
「……その問いを人間に訊ねる時点で、大きな間違いじゃないかしら?」
メアリーは臆せず、ヤルダハオトに答えを提示する。
ヤルダハオトは失笑して、剣で薙ぎ払う。
それは空気だけを薙ぎ払ったはずだったが、衝撃波となって彼女たちに襲いかかった。
「くっ……! ヤルダハオトなんて歴史には残っていないけれど、こんな存在が居たなんて……」
「当然だ。何故なら私はこの世界の抑止力として存在していたのだからな。歴史に書かれるはずがない」
「抑止力……?」
「そうさ。世界の抑止力として裏方に存在していた。それが私だ。ガラムドと対を為す存在、それが私、ヤルダハオトだ」
一息。
「ガラムドとヤルダハオトは元々対を為す存在として、この世界を構築していたのさ。しかしながら、ガラムドはあるとき自ら下界へと降りることを望んだ。対を為す存在として私も下界へと降りた。ガラムドの魂は一人の少女へと憑依し、やがて神へと昇華した。そして私はその少女の父親へと憑依し……やがて封印されし剣へとその魂を移した」
「それが……シルフェの剣だと……?」
「その通り。シルフェの剣はオリジナルフォーズを封印する鍵であったと同時に、私を封印していた剣だというわけだよ。こうやって力を蓄えるためにな!」
リュージュの頭を見つめ、笑みを浮かべる。
「ガラムドは神の澱とあの世界の間に空間を生み出し、その存在から管理を行った。それは、あの世界を管理しやすかったことと、私の存在を忌み嫌っていたのだろう。ならば剣ごと破壊すれば良かったものを、そうすることでオリジナルフォーズの封印が解き放たれし時有効な手段が無いから、という理由で私を生き長らえさせていたのだよ。それが、こんな結末になるとは、あのガラムドも思いはしなかっただろうがな!」
そしてリュージュの頭を思い切り踏み潰した。
血が噴き出し、骨の折れる音が響く。
そして残ったのは、骨と皮膚と脳――人間の頭だったものだ。
ヤルダハオトは自らの靴についた血を床に擦りつけ、話を続ける。
「……さて、もう戯言もこれまでにしようか」
剣から光が生まれていく。
それは邪悪にも聖なる光にも見えた。
「手始めに貴様らから消えて貰おう!!」
そして――光が放たれた。
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メアリーたちは、死んだ――と思った。
先ずその光(或いは攻撃)に耐えきれる程の魔法或いは錬金術を持ち合わせていないと思ったからだ。
しかし――いつまで経過しても、その衝撃がやってこない。
「……え?」
目を開けると、そこには水の盾が出来ていた。
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