異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百九十九話 聖戦、東京⑨
『そうして、あなたたちは漸くここで気付くことになるでしょう。熟睡した状態ということはいずれは覚醒する時がやってくるのだということ。そして、覚醒したことによって何が起きるのか。それは、未曾有の災害となることでしょう』
「勝手なことを言いやがって。あれを解放したのはあちら側じゃないか」
バルト・イルファの言葉に僕は無言で同意した。
しかしこの世界の人間からとってみればそんなことは些細な問題だ。今の状況をどうにかしてくれるならば、それがたとえその元凶を解放した存在であったとしても、藁をも縋る思いで受け入れることだろう。
『そこで、私たちはあなたに救済を与えようと思います』
画面の向こうのリュージュは、両手を広げて顔を上げる。
『今から二十四時間後、私はこの世界を破壊します。しかし悲しむことはありません。それは、魂の救済となるのです。この世界の魂を救済すること、それが私の役目なのです』
「まるで自分が救世主にでもなるつもりか? リュージュは」
『……この世界の魂は、たくさんです。すべてが救済出来るかは分かりません。もしかしたら、善行を積んだ人間でなければ、魂の救済が適わないこともあることでしょう。ですが、諦めることはありません。すべては神の望むままに』
「神を否定した存在が、何を言っていやがる」
バルト・イルファの言動が徐々に乱暴になってきているのを僕は感じていた。
それほどにリュージュに強い怒りを抱いている――ということなのだろう。
『さあ、待ちなさい。そのときを。……あと、何をしても無駄ですよ。この世界の物質は、私たちの世界の物質には干渉出来ない。だからたとえどのようなことをしても……無駄です』
そして、通信はそこで終わった。
◇◇◇
「……これであとは、待つばかり」
通信を終了してリュージュは深い溜息を吐いた。
「待つとは……神の剣を、ですか?」
ロマの言葉に頷くと、リュージュは立ち上がり部屋の出口へと向かっていく。
「ええ。その通りよ。神の剣、シルフェの剣とその力の封印を解き放つに相応しい状態を作り上げるには、今しかない。そのために相応しい場所を作り上げているのだから」
「彼を……『器』にするのですか?」
「ええ。そのつもりよ」
通信の前、ロマは計画のすべてを聞いていた。
神の剣。シルフェの剣。その封印を解き放ち、真の力を使ったそのとき――世界は滅亡する程の圧倒的なエネルギーを使用することが出来る。
そうして、一つの宇宙が創造され、やがてそこには新しい生命が誕生する。
「神の剣と、この剣さえあれば……」
そう言って、リュージュは部屋の向こうを指差した。
そこには一振りの剣が机の上に置かれていた。鞘にも入れられておらず、刃こぼれもしていて随分と昔からある剣のようにも見えた。
「魔剣フランベルジェ……ですか。確かオリジナルフォーズの胎内にて生成されたと言われる、『悪魔の剣』」
それは神の悪戯か。かつて偉大なる戦いにてオリジナルフォーズを封ずる際に、オリジナルフォーズの胎内から姿を見せたのがその剣だった。
オリジナルフォーズの封印に使われたのがシルフェの剣ならば、オリジナルフォーズの力の象徴ともいえる存在が魔剣フランベルジェ。
両方の剣は相反する存在として、歴史学者の中で議論が交わされていた。
しかし、魔剣フランベルジェは長年その行方が知られていないこととなっており、歴史学者はその発見をするべく、日々発掘作業に取りかかっていたわけだが――。
「そもそもあの歴史学者たちは馬鹿者だらけですよ。あるはずもないものを発掘しようと試みているのですから。どうして誰も気付かなかったのでしょうね。その魔剣フランベルジェはとっくに発掘されていて、国の宝として、そして重要機密として保管されていたということに」
「きっと知らずに死んだ人も居たでしょう」
「あら? 彼らの肩を持つのかしら」
「……いいえ」
ロマはリュージュの問いに否定の回答を示す。
リュージュの意見に否定して、仮に機嫌を損ねてしまったらどうなるか分かったものではない。もしかしたらその場で殺されるか、或いは強制的に従属させられるか、そのいずれかになる。だったら素直に受け入れていれば良い。それは彼女にとって、特に関係の無いことなのだから。
(たとえ世界が滅びようとも、お兄様が生きていればそれで良い。お兄様の幸せは私の幸せ。私の幸せはお兄様の幸せ。きっとお兄様もそう思っているに違いないわ……)
(……とでも思っているのでしょうね、あのブラコンは)
リュージュはそんなことを考えながら、剣を見つめていた。
魔剣フランベルジェ。
その剣を使うことで、世界を破滅へと導くこともあり得る程の力を得ることが出来る。
そんな論文が提出されたこともあったが、そんなことはまがい物だ。
魔剣フランベルジェは、リュージュたちが住んでいた世界では生成されていない物質で構成されていた。それが導く結論は――。
「魔剣フランベルジェは、上位世界の物質。私たちには過ぎた代物『オーパーツ』。それからは絶大な力を感じる。これを使えば、圧倒的な力で世界を蹂躙することをも出来る」
「ですが、そうではないのですね」
「ええ。魔剣フランベルジェの力と、封印を解除したシルフェの剣。二振りの剣を使うことで莫大なエネルギーを生み出し、それは世界の崩壊をも招くことが出来る。そして、私たちが来たあのホールを介してあの世界にもエネルギーが流出する。エネルギーの総量は決まっていて、莫大なエネルギーを外から与えれば、それは必ず溢れ出す。堰を切るように溢れ出したエネルギーは留まることを知らず、やがて……一つの爆発を起こす。まったく、ここまで来ると神の悪戯というよりは、一つの罪と言ってもおかしくはないわね」
「勝手なことを言いやがって。あれを解放したのはあちら側じゃないか」
バルト・イルファの言葉に僕は無言で同意した。
しかしこの世界の人間からとってみればそんなことは些細な問題だ。今の状況をどうにかしてくれるならば、それがたとえその元凶を解放した存在であったとしても、藁をも縋る思いで受け入れることだろう。
『そこで、私たちはあなたに救済を与えようと思います』
画面の向こうのリュージュは、両手を広げて顔を上げる。
『今から二十四時間後、私はこの世界を破壊します。しかし悲しむことはありません。それは、魂の救済となるのです。この世界の魂を救済すること、それが私の役目なのです』
「まるで自分が救世主にでもなるつもりか? リュージュは」
『……この世界の魂は、たくさんです。すべてが救済出来るかは分かりません。もしかしたら、善行を積んだ人間でなければ、魂の救済が適わないこともあることでしょう。ですが、諦めることはありません。すべては神の望むままに』
「神を否定した存在が、何を言っていやがる」
バルト・イルファの言動が徐々に乱暴になってきているのを僕は感じていた。
それほどにリュージュに強い怒りを抱いている――ということなのだろう。
『さあ、待ちなさい。そのときを。……あと、何をしても無駄ですよ。この世界の物質は、私たちの世界の物質には干渉出来ない。だからたとえどのようなことをしても……無駄です』
そして、通信はそこで終わった。
◇◇◇
「……これであとは、待つばかり」
通信を終了してリュージュは深い溜息を吐いた。
「待つとは……神の剣を、ですか?」
ロマの言葉に頷くと、リュージュは立ち上がり部屋の出口へと向かっていく。
「ええ。その通りよ。神の剣、シルフェの剣とその力の封印を解き放つに相応しい状態を作り上げるには、今しかない。そのために相応しい場所を作り上げているのだから」
「彼を……『器』にするのですか?」
「ええ。そのつもりよ」
通信の前、ロマは計画のすべてを聞いていた。
神の剣。シルフェの剣。その封印を解き放ち、真の力を使ったそのとき――世界は滅亡する程の圧倒的なエネルギーを使用することが出来る。
そうして、一つの宇宙が創造され、やがてそこには新しい生命が誕生する。
「神の剣と、この剣さえあれば……」
そう言って、リュージュは部屋の向こうを指差した。
そこには一振りの剣が机の上に置かれていた。鞘にも入れられておらず、刃こぼれもしていて随分と昔からある剣のようにも見えた。
「魔剣フランベルジェ……ですか。確かオリジナルフォーズの胎内にて生成されたと言われる、『悪魔の剣』」
それは神の悪戯か。かつて偉大なる戦いにてオリジナルフォーズを封ずる際に、オリジナルフォーズの胎内から姿を見せたのがその剣だった。
オリジナルフォーズの封印に使われたのがシルフェの剣ならば、オリジナルフォーズの力の象徴ともいえる存在が魔剣フランベルジェ。
両方の剣は相反する存在として、歴史学者の中で議論が交わされていた。
しかし、魔剣フランベルジェは長年その行方が知られていないこととなっており、歴史学者はその発見をするべく、日々発掘作業に取りかかっていたわけだが――。
「そもそもあの歴史学者たちは馬鹿者だらけですよ。あるはずもないものを発掘しようと試みているのですから。どうして誰も気付かなかったのでしょうね。その魔剣フランベルジェはとっくに発掘されていて、国の宝として、そして重要機密として保管されていたということに」
「きっと知らずに死んだ人も居たでしょう」
「あら? 彼らの肩を持つのかしら」
「……いいえ」
ロマはリュージュの問いに否定の回答を示す。
リュージュの意見に否定して、仮に機嫌を損ねてしまったらどうなるか分かったものではない。もしかしたらその場で殺されるか、或いは強制的に従属させられるか、そのいずれかになる。だったら素直に受け入れていれば良い。それは彼女にとって、特に関係の無いことなのだから。
(たとえ世界が滅びようとも、お兄様が生きていればそれで良い。お兄様の幸せは私の幸せ。私の幸せはお兄様の幸せ。きっとお兄様もそう思っているに違いないわ……)
(……とでも思っているのでしょうね、あのブラコンは)
リュージュはそんなことを考えながら、剣を見つめていた。
魔剣フランベルジェ。
その剣を使うことで、世界を破滅へと導くこともあり得る程の力を得ることが出来る。
そんな論文が提出されたこともあったが、そんなことはまがい物だ。
魔剣フランベルジェは、リュージュたちが住んでいた世界では生成されていない物質で構成されていた。それが導く結論は――。
「魔剣フランベルジェは、上位世界の物質。私たちには過ぎた代物『オーパーツ』。それからは絶大な力を感じる。これを使えば、圧倒的な力で世界を蹂躙することをも出来る」
「ですが、そうではないのですね」
「ええ。魔剣フランベルジェの力と、封印を解除したシルフェの剣。二振りの剣を使うことで莫大なエネルギーを生み出し、それは世界の崩壊をも招くことが出来る。そして、私たちが来たあのホールを介してあの世界にもエネルギーが流出する。エネルギーの総量は決まっていて、莫大なエネルギーを外から与えれば、それは必ず溢れ出す。堰を切るように溢れ出したエネルギーは留まることを知らず、やがて……一つの爆発を起こす。まったく、ここまで来ると神の悪戯というよりは、一つの罪と言ってもおかしくはないわね」
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