異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百八十三話 死と新生⑦
「いったい、何が……!」
そしてルーシーの背後にあった『影』がゆっくりと顕現する。
「……うふふ、ほんとう人間って馬鹿よね。だって自分の欲望のままに行動するのだから。たとえそれがどれほど堅牢な人間であったとしても、永遠に近い時間に揺り動かせば、それすらも可能とするのだから」
メアリーの頭の中に声が響く。
「お初にお目にかかる。私の名前は『ハンター』。もっとも、ハンターというのは私の個体を示す名前であって、私自身が所属する……正確には、『種』の名前とでも言えば良いかな、それは別に存在している。その名前は『シリーズ』という。シリーズのハンター、そう覚えておけば良いよ」
影はやがて、ゆっくりとその姿を現す。
それは少女だった。少女は何も身につけておらず、黒い髪の半分で顔を隠していた。
少女――ハンターはニヒルな笑みを浮かべながら、メアリーを見つめる。
メアリーは警戒しつつも立ち上がり、ハンターに問いかける。
「あなた……ルーシーに何をしたの……!」
「ルーシーに何をした?」
ハンターはメアリーの言葉を反芻すると、ゆっくりと浮かび上がり笑い出す。
その行動にメアリーは理解できず、一歩前に踏み出し、腰に携えていた護身用のナイフを取り出した。
「何がおかしい!」
ひとしきり笑い終えると、ハンターは告げた。
「私は何もしていないよ。したのは、お前だろう? 強いて言うならば、の話だが。いずれにせよ、人間は罪深き存在よ。ま、そのおかげでこうやって『仕事』を行うことが出来る」
「仕事、ですって?」
「簡単なことだよ。我々シリーズもまた、創造神、ひいては神と違う独立の考えのもと動いている。とはいえ、ほかのシリーズも動き始めているだろう。すべては一つの目的のために」
「その目的って……」
「もうわかりきっているのではないかしら?」
くるりと一周回って、ハンターはメアリーを見つめた。
「……人間が創造神に関わる可能性が非常に高まっている。ならば、この世界は一度グレードを落とさなければならない。いわゆる、一種の『自浄作用』を実行する必要がある。それが私たちの役割」
そうして、一つの衝撃が生まれた。
◇◇◇
その衝撃は、地上のホバークラフト――即ちフルとバルト・イルファも確認していた。
「何だ、あの光は……!」
「いったい何があったのかは分からないけれど……。でも、向かうしかない!」
ただ、その衝撃はリュージュの城塞から発せられたものではないということもまた、フルは目撃していた。
ならば、その衝撃はどこから?
「あそこに飛んでいたのは、確かメアリー・ホープキンたちが乗っていた飛空艇だったような……」
「メアリーが……!」
フルは運転していたホバークラフトのアクセルを踏み抜いた。
とはいえ、直ぐにスピードが出るわけでもなく、今出ているスピードが最高速度であるということは重々承知の上での行動となるわけだが。
「おい、フル・ヤタクミ。心配になっている気持ちは分かるが……、あそこまでどうやって行くつもりだ?」
「それは……!」
確かに、その通りだった。
どうやって飛空艇に向かえば良いのか――今はそれを考える必要があった。
「だから、先ずは、ちょっと立ち止まってみようよ。そうすれば少しは本質が見えてくるはずだ」
「本質……か」
フルはゆっくりと目を瞑る。
そうして、再び飛空艇を見つめた。
飛空艇があった場所には、エネルギーに満ち満ちている球体が浮かんでいる。
「あれは……エネルギーの……塊?」
エネルギーの塊、と表現したフルはどうやればそこへ向かうことが出来るか、と考えたことと同時に――そこに居るメアリーたちは無事かどうか考えていた。
考えるだけで、そこにどうやって向かうべきか、どうやればメアリーたちを助けることが出来るか、ということについてはさっぱり分からなかったわけだが。
「エネルギーの塊……か。また厄介なものが出てきたな。どうする、予言の勇者フル・ヤタクミ? この状況を乗り越えることもまた、お前に課せられた試練……なのだろう?」
「勝手にそんなことを言うな。……でも、まあ、確かに間違っていないかもしれないな」
フルはずっと考えていた。
どうして自分が『予言の勇者』としてこの世界にやってきたのか、ということを。
けれど、今はもうそんなことどうだってよかった。
結局の所、僕はこの世界で共に旅をしてきた仲間を、ただ救いたいだけだった。
メアリー・ホープキン。
ルーシー・アドバリー。
二人と共に旅をしてきたからこそ、その絆はそう簡単に切れることではない。
それはフルも理解していたし、メアリーとルーシーも同じ気持ちだろう――なんて勝手に思い込んでいた。
「とはいっても、やっぱり難しいことには変わりないな……。あんまり、難しいことばかりを話していても無駄なことは分かっているし。ただまあ、君だって分かっているだろう? どうやってここを乗り切るべきか。乗り切るのが難しい課題であっても、乗り越える上でどうやって活躍していけば良いか。それは別の人間が考える話ではなくて、君が考えることである。それは、君自身が一番理解できている話なのだろうけれど」
「バルト・イルファ。さっきから、他愛もない話ばかり続けるのはやめてくれないか? 君も何も考えついていないのだろうけれど、でも、それは、僕の考えを混乱させることにも繋がってしまう。それは君も十分に理解できていることだと思うのだけれどね」
「……フル・ヤタクミ。ならば、打開策は考えついているのかな? だったら僕は何も言うまい。君の行くべき道に従うよ。もっとも、君がどういう道を歩んでいくのか、今の僕にはまったくもって分からないわけだけれど。当然だよね、だって僕は予言者じゃないし。祈祷師のような、あんな能力は、持ち合わせてはいない」
そしてルーシーの背後にあった『影』がゆっくりと顕現する。
「……うふふ、ほんとう人間って馬鹿よね。だって自分の欲望のままに行動するのだから。たとえそれがどれほど堅牢な人間であったとしても、永遠に近い時間に揺り動かせば、それすらも可能とするのだから」
メアリーの頭の中に声が響く。
「お初にお目にかかる。私の名前は『ハンター』。もっとも、ハンターというのは私の個体を示す名前であって、私自身が所属する……正確には、『種』の名前とでも言えば良いかな、それは別に存在している。その名前は『シリーズ』という。シリーズのハンター、そう覚えておけば良いよ」
影はやがて、ゆっくりとその姿を現す。
それは少女だった。少女は何も身につけておらず、黒い髪の半分で顔を隠していた。
少女――ハンターはニヒルな笑みを浮かべながら、メアリーを見つめる。
メアリーは警戒しつつも立ち上がり、ハンターに問いかける。
「あなた……ルーシーに何をしたの……!」
「ルーシーに何をした?」
ハンターはメアリーの言葉を反芻すると、ゆっくりと浮かび上がり笑い出す。
その行動にメアリーは理解できず、一歩前に踏み出し、腰に携えていた護身用のナイフを取り出した。
「何がおかしい!」
ひとしきり笑い終えると、ハンターは告げた。
「私は何もしていないよ。したのは、お前だろう? 強いて言うならば、の話だが。いずれにせよ、人間は罪深き存在よ。ま、そのおかげでこうやって『仕事』を行うことが出来る」
「仕事、ですって?」
「簡単なことだよ。我々シリーズもまた、創造神、ひいては神と違う独立の考えのもと動いている。とはいえ、ほかのシリーズも動き始めているだろう。すべては一つの目的のために」
「その目的って……」
「もうわかりきっているのではないかしら?」
くるりと一周回って、ハンターはメアリーを見つめた。
「……人間が創造神に関わる可能性が非常に高まっている。ならば、この世界は一度グレードを落とさなければならない。いわゆる、一種の『自浄作用』を実行する必要がある。それが私たちの役割」
そうして、一つの衝撃が生まれた。
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その衝撃は、地上のホバークラフト――即ちフルとバルト・イルファも確認していた。
「何だ、あの光は……!」
「いったい何があったのかは分からないけれど……。でも、向かうしかない!」
ただ、その衝撃はリュージュの城塞から発せられたものではないということもまた、フルは目撃していた。
ならば、その衝撃はどこから?
「あそこに飛んでいたのは、確かメアリー・ホープキンたちが乗っていた飛空艇だったような……」
「メアリーが……!」
フルは運転していたホバークラフトのアクセルを踏み抜いた。
とはいえ、直ぐにスピードが出るわけでもなく、今出ているスピードが最高速度であるということは重々承知の上での行動となるわけだが。
「おい、フル・ヤタクミ。心配になっている気持ちは分かるが……、あそこまでどうやって行くつもりだ?」
「それは……!」
確かに、その通りだった。
どうやって飛空艇に向かえば良いのか――今はそれを考える必要があった。
「だから、先ずは、ちょっと立ち止まってみようよ。そうすれば少しは本質が見えてくるはずだ」
「本質……か」
フルはゆっくりと目を瞑る。
そうして、再び飛空艇を見つめた。
飛空艇があった場所には、エネルギーに満ち満ちている球体が浮かんでいる。
「あれは……エネルギーの……塊?」
エネルギーの塊、と表現したフルはどうやればそこへ向かうことが出来るか、と考えたことと同時に――そこに居るメアリーたちは無事かどうか考えていた。
考えるだけで、そこにどうやって向かうべきか、どうやればメアリーたちを助けることが出来るか、ということについてはさっぱり分からなかったわけだが。
「エネルギーの塊……か。また厄介なものが出てきたな。どうする、予言の勇者フル・ヤタクミ? この状況を乗り越えることもまた、お前に課せられた試練……なのだろう?」
「勝手にそんなことを言うな。……でも、まあ、確かに間違っていないかもしれないな」
フルはずっと考えていた。
どうして自分が『予言の勇者』としてこの世界にやってきたのか、ということを。
けれど、今はもうそんなことどうだってよかった。
結局の所、僕はこの世界で共に旅をしてきた仲間を、ただ救いたいだけだった。
メアリー・ホープキン。
ルーシー・アドバリー。
二人と共に旅をしてきたからこそ、その絆はそう簡単に切れることではない。
それはフルも理解していたし、メアリーとルーシーも同じ気持ちだろう――なんて勝手に思い込んでいた。
「とはいっても、やっぱり難しいことには変わりないな……。あんまり、難しいことばかりを話していても無駄なことは分かっているし。ただまあ、君だって分かっているだろう? どうやってここを乗り切るべきか。乗り切るのが難しい課題であっても、乗り越える上でどうやって活躍していけば良いか。それは別の人間が考える話ではなくて、君が考えることである。それは、君自身が一番理解できている話なのだろうけれど」
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