異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百七十七話 死と新生①
ガラムドの神殿。
およそ一千年前にガラムドを崇敬する人々によって建築された神殿である。名前の通り、その要所要所にガラムドをモチーフとしたオブジェクトが並べられており、また装飾品なども着飾られているものもあることから、かつては多くの信者がここに訪れたのだろう。
そして僕は今、その神殿の奥深くにある小さな泉のほとりに立っていた。
長い夢を見ていたような、そんな感覚だった。
「おい、フル・ヤタクミ。大丈夫か?」
気がつくと、僕の背後には赤い髪の青年、バルト・イルファが立っていた。
バルト・イルファの声を聞いた僕は、ゆっくりと頷く。
「うん。大丈夫だよ。なんか長い夢を見ていたような気がするけれど……。こっちの世界ではどれくらい経過している?」
「どれくらい、ったって……。そうだな、君が気を失ってから大体五分くらいだったかな? 時計を持ち合わせていないから具体的な時間ははっきりと言えないけれど」
「五分……!」
五分。
僕は僅か五分で『偉大なる戦い』を追体験した、ということになるのか。いや、もしかしたらガラムドが僕を招いた空間はこの空間とは時間の流れが違うのかもしれない。それはあくまでも憶測に過ぎないけれど。
「……なんだい? ぼうっとしちゃって。別に僕は君がどうなっていようとどうだっていいけれど、そういう雰囲気になっているのは少し気に入らないね。もっと僕に分かるように話してくれないものかな?」
「ああ……。いや、でもきっと話したところで分かっちゃくれない気がする。ただ、これだけは言える。今、シルフェの剣には解放された力が宿っているということを」
「……解放された、力?」
バルト・イルファもその言葉の意味を理解していなかった。
当然だろう。その出来事は、実際に経験しなければ理解なんて出来るはずもないことだからだ。
「……君がどんな経験をしたかは分からないけれど、とにかく、強くなったというか、ここに来た意味があるならばそれでいいのかな。ま、力があってもそれを使いこなせるか否か、という話だけれど」
「……で。問題はここからだよ、予言の勇者クン?」
「その呼び名をされたのも、何だか久しぶりな気分だな。で? 何が『問題はここから』なんだ?」
僕が何も気付いていないことにようやくそこで悟ったのか、バルト・イルファは深い溜息を吐いた。
「いいか? 君がどのような経験をしたのか、正直そんなことはどうだっていい。問題は、そこからだ。どうやらシルフェの剣から強い力を感じるけれど、それも使いこなせるかどうかという話。さらに言ってしまえば、その力を得たところでオリジナルフォーズとリュージュを倒すことができるのか? そこが最大の問題だと思うけれどね」
「成る程ね……。はっきり言われちゃうと、そこは困った話になるけれど……でも別に問題は無いよ。オリジナルフォーズを無力化させるための方法も見つけて来た」
さすがにバルト・イルファも予想外の解答だったようで、僕の言葉を聞いて目を丸くしていた。
「……君がどうしてそこまで自信たっぷりなのか、分かったような気がするよ。成る程ね、それなら全てがうまくいく。でもその方法って何なんだ? それさえ分かれば、あとは実行するだけだろ。だったら難しい話じゃない。もちろん難易度ってものはあるだろうけれど……、ゴールまでの過程が見つかっているのと見つかっていないのとでは話が大違いだし」
「かつて、ガラムドはオリジナルフォーズを封印した際、別の神より『祈りの巫女』の力を授かったんだ」
話さなければ、何も解決しない。
そんなことを言ってしまえば、そもそも僕が何も方法を見つからなかったと言えば隠し通せたのではないか、って?
少なくとも、今の僕にはそんな余裕は無かった。
メアリーも救いたい。そして世界も救いたい。
そんな第三の選択肢をバルト・イルファに提示して、同意を得ようと思っていたのだ。
はっきり言って、甘い考えだ。そんなことは、誰にだって分かっている。
けれど、今の僕にはそれしか方法が思い浮かばなかった。
「祈りの巫女、か……。それにしても、聞いたことの無い話だねえ。それを使えば、オリジナルフォーズを封印出来るという話かな? けれど、ガラムドですら二千年しか保てなかったのに、今回の封印がそれを上回るとは思えないけれど」
「それは……」
確かに、バルト・イルファの言うとおりだった。
でもそれは確かに、間違っていないと言い切れることは出来ない。はっきり言って、バルト・イルファがいくらそう言ったところで、それは憶測に過ぎないのだから。
対して、僕の意見はガラムドから直接提言されている。だから、憶測よりかは確信を持ちやすいのだ。けれども、それをバルト・イルファにどう証明すればいいかというのは大きな問題になるのだけれど。
およそ一千年前にガラムドを崇敬する人々によって建築された神殿である。名前の通り、その要所要所にガラムドをモチーフとしたオブジェクトが並べられており、また装飾品なども着飾られているものもあることから、かつては多くの信者がここに訪れたのだろう。
そして僕は今、その神殿の奥深くにある小さな泉のほとりに立っていた。
長い夢を見ていたような、そんな感覚だった。
「おい、フル・ヤタクミ。大丈夫か?」
気がつくと、僕の背後には赤い髪の青年、バルト・イルファが立っていた。
バルト・イルファの声を聞いた僕は、ゆっくりと頷く。
「うん。大丈夫だよ。なんか長い夢を見ていたような気がするけれど……。こっちの世界ではどれくらい経過している?」
「どれくらい、ったって……。そうだな、君が気を失ってから大体五分くらいだったかな? 時計を持ち合わせていないから具体的な時間ははっきりと言えないけれど」
「五分……!」
五分。
僕は僅か五分で『偉大なる戦い』を追体験した、ということになるのか。いや、もしかしたらガラムドが僕を招いた空間はこの空間とは時間の流れが違うのかもしれない。それはあくまでも憶測に過ぎないけれど。
「……なんだい? ぼうっとしちゃって。別に僕は君がどうなっていようとどうだっていいけれど、そういう雰囲気になっているのは少し気に入らないね。もっと僕に分かるように話してくれないものかな?」
「ああ……。いや、でもきっと話したところで分かっちゃくれない気がする。ただ、これだけは言える。今、シルフェの剣には解放された力が宿っているということを」
「……解放された、力?」
バルト・イルファもその言葉の意味を理解していなかった。
当然だろう。その出来事は、実際に経験しなければ理解なんて出来るはずもないことだからだ。
「……君がどんな経験をしたかは分からないけれど、とにかく、強くなったというか、ここに来た意味があるならばそれでいいのかな。ま、力があってもそれを使いこなせるか否か、という話だけれど」
「……で。問題はここからだよ、予言の勇者クン?」
「その呼び名をされたのも、何だか久しぶりな気分だな。で? 何が『問題はここから』なんだ?」
僕が何も気付いていないことにようやくそこで悟ったのか、バルト・イルファは深い溜息を吐いた。
「いいか? 君がどのような経験をしたのか、正直そんなことはどうだっていい。問題は、そこからだ。どうやらシルフェの剣から強い力を感じるけれど、それも使いこなせるかどうかという話。さらに言ってしまえば、その力を得たところでオリジナルフォーズとリュージュを倒すことができるのか? そこが最大の問題だと思うけれどね」
「成る程ね……。はっきり言われちゃうと、そこは困った話になるけれど……でも別に問題は無いよ。オリジナルフォーズを無力化させるための方法も見つけて来た」
さすがにバルト・イルファも予想外の解答だったようで、僕の言葉を聞いて目を丸くしていた。
「……君がどうしてそこまで自信たっぷりなのか、分かったような気がするよ。成る程ね、それなら全てがうまくいく。でもその方法って何なんだ? それさえ分かれば、あとは実行するだけだろ。だったら難しい話じゃない。もちろん難易度ってものはあるだろうけれど……、ゴールまでの過程が見つかっているのと見つかっていないのとでは話が大違いだし」
「かつて、ガラムドはオリジナルフォーズを封印した際、別の神より『祈りの巫女』の力を授かったんだ」
話さなければ、何も解決しない。
そんなことを言ってしまえば、そもそも僕が何も方法を見つからなかったと言えば隠し通せたのではないか、って?
少なくとも、今の僕にはそんな余裕は無かった。
メアリーも救いたい。そして世界も救いたい。
そんな第三の選択肢をバルト・イルファに提示して、同意を得ようと思っていたのだ。
はっきり言って、甘い考えだ。そんなことは、誰にだって分かっている。
けれど、今の僕にはそれしか方法が思い浮かばなかった。
「祈りの巫女、か……。それにしても、聞いたことの無い話だねえ。それを使えば、オリジナルフォーズを封印出来るという話かな? けれど、ガラムドですら二千年しか保てなかったのに、今回の封印がそれを上回るとは思えないけれど」
「それは……」
確かに、バルト・イルファの言うとおりだった。
でもそれは確かに、間違っていないと言い切れることは出来ない。はっきり言って、バルト・イルファがいくらそう言ったところで、それは憶測に過ぎないのだから。
対して、僕の意見はガラムドから直接提言されている。だから、憶測よりかは確信を持ちやすいのだ。けれども、それをバルト・イルファにどう証明すればいいかというのは大きな問題になるのだけれど。
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